畏れ、敬う心は、君子の根本である。
孔子は、真に立派な人間――「君子」は、次の三つのものに対して畏れ敬う姿勢を持つと説いた。
ひとつは、天命(てんめい)――天が人に授けた使命や自然の摂理に対する畏れ。
ひとつは、大人(たいじん)――年長で徳を備えた人物への敬意。
そしてもうひとつは、聖人の言(ことば)――古の知恵や教えに対する尊重である。
一方、小人――つまり品性の乏しい人間は、天命を知らず軽んじ、先人にも敬意を払わず、聖人の言葉さえ「古臭い」として侮る。
時代が変わっても、畏敬の念を持てるかどうかが、人の格を分ける。
知識より先に、敬意があるかどうか。そこに真の教養が宿る。
【原文引用(ふりがな付き)】
「孔子(こうし)曰(い)わく、君子(くんし)に三畏(さんい)有(あ)り。天命(てんめい)を畏(おそ)れ、大人(たいじん)を畏れ、聖人(せいじん)の言(げん)を畏る。小人(しょうじん)は天命を知らずして畏れざるなり。大人に狎(な)れ、聖人の言を侮(あなど)る。」
【現代語訳・主旨】
君子が畏れ敬うものは三つ:
- 天命――人智を超えた運命や道理。
- 大人――徳ある先輩や長者。
- 聖人の言――歴史的に価値のある教えや知恵。
小人はこれらを軽んじ、思い上がりのままに生きる。
畏れと敬いの心が、謙虚さと成長の礎になる。
【注釈】
- 「天命(てんめい)」:天が与えた使命・運命。人間の力では変えられない自然の摂理、道理。
- 「大人(たいじん)」:年長者や社会的・人格的に尊敬される人物。
- 「聖人(せいじん)の言」:孔子が含まれるような、道徳や哲理にすぐれた古人の言葉や教え。
- 「狎(な)れる」:なれなれしくし、敬意を失う。軽視する態度。
- 「侮(あなど)る」:軽んじて見下すこと。
原文:
孔子曰、君子有三畏。畏天命、畏大人、畏聖人之言。
小人不知天命而不畏也、狎大人、侮聖人之言。
書き下し文:
孔子(こうし)曰(いわ)く、君子(くんし)に三(み)つの畏(おそ)れ有り。
天命(てんめい)を畏れ、大人(たいじん)を畏れ、聖人(せいじん)の言(げん)を畏る。
小人(しょうじん)は天命を知らずして畏れず、大人に狎(な)れ、聖人の言を侮(あなど)る。
現代語訳(逐語/一文ずつ訳):
- 孔子は言った。
- 「君子(徳のある人物)には、三つの“畏れ敬うべきもの”がある。」
- 「一つは、天命(天の定め・自然の摂理)を畏れること。
二つ目は、大人(偉大な人物・目上)を畏れること。
三つ目は、聖人(高徳な人物)の言葉を畏れること。」 - 「小人(徳なき者)は、天命を理解せず、それを畏れず、
目上に対して馴れ馴れしくし、聖人の言葉を軽んじてしまう。」
用語解説:
- 君子(くんし):徳と教養にすぐれた立派な人物。人格の完成を目指す者。
- 三畏(さんい):人として畏れ敬うべき三つの対象。
- 天命(てんめい):天から与えられた使命や、自然・宇宙の摂理、道理。
- 大人(たいじん):人格・能力・位階において偉大な人。道を体現している目上の人物。
- 聖人(せいじん):徳が極まった理想的な賢人。孔子のような高徳の指導者。
- 小人(しょうじん):徳がなく、利己的で軽薄な人物。君子の対義語。
- 狎(な)れる:馴れ馴れしくする。敬意を失う態度。
- 侮(あなど)る:軽んじる、ばかにする。
全体の現代語訳(まとめ):
孔子はこう語った:
「徳ある人(君子)には三つの畏れるべきものがある。
一つは、天命──自分の力ではどうにもならない自然の摂理や道理を畏れること。
二つ目は、大人──人格・能力・地位において優れた目上の人を敬うこと。
三つ目は、聖人の言葉──徳を極めた者の教えを畏れ、真摯に学ぶこと。
これに対して、小人(浅はかな者)は、天命の意味を知らず畏れようとせず、
偉大な人に馴れ馴れしく接し、聖人の言葉を軽く扱うのだ。」
解釈と現代的意義:
この章句は、**「謙虚さこそ人の根本である」**という道徳的核心を説いています。
- 自分の力では及ばない“天の理(自然・運命)”に対して敬虔な心を持つ。
- 優れた人物に対して敬意と学びの姿勢を保ち続ける。
- 古の賢者たちの言葉に畏敬を抱き、軽んじない姿勢を持つ。
つまり、“驕らず、学び続ける態度”が君子の本質であり、
逆にそれを失った者が小人として堕していくことを孔子は強く戒めています。
ビジネスにおける解釈と適用:
1. 「“自然の摂理”や“限界”を謙虚に認める」
市場の動向、世の中の変化、不可抗力──コントロールできない要素に対して敬意を持ち、柔軟に対応すること。
「想定外は甘え」ではなく、「想定外があることを知る」が成熟した組織の態度。
2. 「偉大なリーダーに“狎れ”は禁物」
長く一緒に働いている上司や先輩に対して、なれ合いにならず、敬意と学びの気持ちを保つこと。
距離感の誤りが信頼関係を崩す。
3. 「名言や原則を“聞き慣れた言葉”にしてはいけない」
成功者の言葉・教訓・理念を「ありきたり」として軽んじるのは、自分の成長を止める姿勢。
“聞き慣れた教え”こそ、改めて心に刻み続けるべきもの。
ビジネス用の心得タイトル:
「謙虚さは力──“畏れ”を失った者から崩れる」
この章句は、「リーダーとしての人格形成」「長期にわたる信頼構築」「学び続ける姿勢」の根本を説いた極めて本質的な教えです。
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