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小売店出撃作戦

小売店へのアプローチといえば、一般的には「催事」や「特売」という形態が主流で、その間、メーカーのスタッフが店頭に立つのが通例だ。このような取り組みには、それ相応の効果が期待できる。

特に食品分野では「試食販売」が効果的な手法とされる。ただし、催事や特売は継続的に実施できるものではなく、効果を最大化しようとすれば、企画や運営には予想以上のコストや手間がかかることが多い。その結果、実施の頻度にはどうしても制限が生じる。

コストを抑え、手間も少なく、予想以上の効果を発揮する方法として、通常時にメーカーの販売員が小売店の売場に常駐するという戦略がある。

S社は高級レジャー用品を手がけるメーカーで、小売店への直販スタイルを採用している。トップの小売店での月間売上は約500万円程度に達していた。

付加価値の観点から考えると、販売員を一人専属で配置することによる売上増が見込めるため、社長に対して専属販売員の配置を提案した。この場合、単なる定期訪問ではなく、販売員が常駐して直接売場に立つ形をとる。

私は、この常駐販売員が自社製品だけを売る役割にとどまってはならないと考えた。その店舗のスタッフと同様に、顧客の求めるあらゆる商品を販売する姿勢が必要だ。ただし、自社と同じカテゴリの商品を求めて来店した顧客に対しては、自社製品を優先して提案するよう心がけることを強調した。

その結果は驚異的だった。数か月が経つ頃には、売上が月1,000万円を下回ることはなくなり、繁忙期には月間1,500万円に達することもあった。この小売店は、一店舗として国内でも有数の売上を誇る存在となった。特に土日などの繁忙時には、まさに手が足りない状況に陥ることが多い。そんな中、メーカーの常駐員が店舗スタッフと同じように働いてくれることは、非常にありがたい存在だった。

その結果、小売店の社長をはじめ、全ての店員がS社に大きな恩を感じるようになり、その感謝の表れとして、店員全員が積極的にS社の商品を顧客に勧めるようになった。これにより、事実上20人以上のセールスマンが一気に増えたのと同じ効果が生まれ、売上が急増するに至ったのである。

この常駐員作戦の成功のカギは、常駐員がその店舗の一員として完全に溶け込み、店員そのものになりきる点にある。しかし、この基本的な戦略を理解していない企業が驚くほど多いのが現状だ。

T社はS県でトップの売上を誇る家電チェーン店である。本店は好立地に加え、大型店舗という条件も相まって、家電メーカー各社が「ディーラー・ヘルプ」と称し、特に日曜日には競ってセールスマンを派遣してくる状況だった。

しかし、派遣されてきたどのメーカーのセールスマンも、自社製品以外を販売しようとはしない。顧客から店員と勘違いされて声をかけられても、「自分は店員ではありません」と素っ気なく対応するだけで、まるで関与しようとしないのが現状だった。

T社にとっては、むしろ迷惑な話だ。顧客の機嫌を損ねる原因になってしまうからだ。私は、「そんな派遣は断ってしまい、その代わりに、その分の販売促進費を受け取るよう交渉すべきだ」と提案した。

こんな派遣は「ディーラー・ヘルプ」などと名付けられているが、販売の本質を全く理解していない証拠であり、むしろやらないほうがマシだ。

そもそも、「ディーラー・ヘルプ」とは何事か、と言いたい。その考え自体が「天動説」の発想に他ならない。「ディーラーに我が社の商品を売らせてやっている。そのディーラーを助けてやろう」という傲慢な姿勢が透けて見える。

だからこそ、自社の商品以外を売ろうとしないのだ。「我々が商品を売ってやるだけでもディーラーにとってありがたいはずだ。だから常に我々の商品を優先的に販売せよ」という考え方が根底にある。このような思想が、現場の実態や顧客の視点を無視した歪んだアプローチを生む原因となっている。

そのような誤った思想が、ディーラーに負担を強いるだけでなく、自社の信用を失墜させていることに全く気づいていないのだから、まったくもって呆れるばかりだ。

流通業者は、我が社にとって重要な顧客であり、決して家来ではない。それにもかかわらず、彼らを家来のように扱う企業があまりにも多い。その結果、「自社の商品に力を入れないのはけしからん」という考えに至り、逆に良く売った場合には「表彰状」などを渡す始末だ。その表彰式というのが、また滑稽である。

A社では、ディーラーを一堂に集め、まず社長が壇上から訓示を垂れる。そしてその後、まるで家来を召し出すように壇下に呼びつけ、壇上から表彰状と金一封を授け渡すという形式が取られているのだ。

その金一封ときたら、「この表彰状を社長室に飾るための額縁代の一部か何かか?」と思うほど微々たるものである。当然ながら、これに不満を抱くディーラーも少なくない。特に、A社のあるディーラーはこの表彰式に対して激怒している。というのも、メーカー同士の協定による「販売割り当て」という天動説的な仕組みのせいで、自由に仕入れを行うことさえ制限されているからだ。

私は、そのディーラーにメーカーを変えることを勧めた。A社は名門意識に浸りすぎて、肝心の顧客を軽視している。その結果、売上は期待通りに伸びず、外部の新興勢力から猛烈な追い上げを受けている。このままでは、近い将来、第一位の座を明け渡す日が来るのは確実だ。すでに数字がその現実を明確に示しているにもかかわらず、A社自身がそれに気づいていないのが致命的である。

ディーラー・ヘルプの話題からやや脱線してしまったが、この脱線が重要な内容を含んでいることは、十分に理解いただけるはずだ。核心を突く問題であり、流通や販売の現場における本質を考えるうえで避けて通れない論点だからである。

この小売店出撃作戦で私が強調したいのは、二つの点だ。第一に、「自らの商品は自ら売らなければならない」ということ。商品が売れるのをただ待つのではなく、積極的にその販売に取り組む姿勢が必要である。第二に、「相手の立場に立つ」ことの重要性だ。流通業者の視点に立ち、そのために尽くすことで、相手も自然とこちらのために動いてくれるようになる。この相互の信頼関係が、販売戦略の鍵を握る。これらのポイントについて、さらに深く考察してみることにしよう。

「小売店出撃作戦」は、メーカーが自社の商品を直接販売促進する方法として、従来の「特売」や「試食販売」などの期間限定の催事だけに頼らず、日常の売り場で実行する戦略です。この作戦のポイントを以下に整理します。

小売店出撃作戦の概要とポイント

  1. 常駐型の販売員配置
  • 小売店の売り場にメーカーの販売員を常駐させることで、自社商品の売り上げを伸ばす方法です。ここでのポイントは、販売員があくまで「店員としての役割」を果たし、顧客のニーズに応じた幅広い商品を販売する姿勢をとることです。
  1. 店舗への貢献と信頼の構築
  • 常駐の販売員が「自社商品だけ」ではなく、小売店全体の売り上げに貢献することで、小売店からの信頼を得ます。結果として、その店舗のスタッフも自社商品を積極的に勧めてくれるようになり、売上増加に繋がる効果があります。
  1. ディーラー・ヘルプの反面教師
  • よくある「ディーラー・ヘルプ」では、メーカーの販売員が自社商品だけを扱い、店員としての立場を拒否することがありますが、これはお客様や小売店の信頼を損ないます。自社商品を「売らせてやっている」という姿勢は、小売店からの不評を買い、むしろブランドイメージを悪化させる要因になります。

効果的な小売店出撃の実践

  • 他の商品も販売する柔軟さ
  • 常駐販売員は、時には自社製品以外の商品を勧める柔軟さが必要です。これにより、店舗全体の売り上げに貢献し、店舗スタッフや店主からの信頼を獲得します。
  • 相手の立場に立つ
  • この作戦の本質は「相手の立場に立って行動する」ことです。小売店に対して、店舗運営や売上の向上に貢献する姿勢を見せることで、相手からの協力を得られます。
  • 継続的なサポートと関係構築
  • 単発の特売や催事ではなく、定期的かつ継続的に支援を行うことで、小売店との関係が強固になり、長期的な販売成果を生み出します。

まとめ

「小売店出撃作戦」は、単なる売上促進ではなく、店舗との信頼関係を築くための戦略です。小売店の立場に立ち、長期的なサポートを行うことで、売上を伸ばすだけでなく、強固な協力体制を確立できます。この戦略がうまく機能すれば、小売店側も積極的に自社製品を勧め、双方の利益が最大化される結果を生み出すのです。

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