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小売店直撃作戦

R社は関西に拠点を置く食品メーカーだ。R社長から「東京市場への進出を目指しているが、どう動けばいいだろうか」という相談があった。そこで私は、「まず小売店を直接攻めるべきだ。社長自身が動き、小売店への売り込みを自らの手で実現することが何より重要だ」と提案した。

成功した場合は、小売店に「どの問屋を通じて納入すればいいか」と尋ね、具体的に問屋を指定してもらうのがポイントだ。指定された問屋に話を持ち込めば、商談がスムーズに進み、成功の可能性はほぼ確実となる。

R社長は東京の大手スーパーであるS社にアプローチをかけた。懸命な努力の末、売り込みに成功。その後、S社が指定した問屋を訪ね、この件について具体的な話を進めた。

問屋は話を聞いて驚きつつも、即座に承諾した。それもそのはず、問屋にとってこれほど都合のいい話は他にないからだ。

この結果、R社は問屋に対して大きな「貸し」を作る形となった。案の定、その問屋はR社の商品に力を入れて取り扱いを始めた。小売店を直接攻めるこの戦略は、新市場を開拓する際のメーカーにとって最も効果的な手法といえる。いや、むしろこれ以外に有効な手段はないと考えるべきだろう。

もちろん、問屋に直接働きかけて説得するという方法も考えられる。しかし、その場合は「問屋にお願いして売ってもらう」形となり、結果的に問屋に対して「借り」を作ることになる。

その結果として、値引きを要求されたり、支払い条件が問屋の都合に合わせられるなど、不利な条件を受け入れる羽目になることが少なくない。「遠隔地では問屋に頼るしか選択肢がないではないか」という意見にも一理あり、それ自体が間違いとはいえない。

しかし、このような考え方では、真の意味での販売促進には結びつかない。特に、新たな市場を開拓しようとする場合、その市場がたとえ遠隔地であっても、自社にとっては戦略的に重要なエリアであるはずだ。

こうした考え方は、いわば「天動説」に過ぎない。天動説的な発想に縛られている限り、新市場の開拓はもちろん、その市場でのシェア確保も望むべくもないと言える。

新市場の小売店をすべて網羅的に開拓する必要はない。有力な小売店をたった一店舗でいいから、社長自らの手で確保すれば十分だ。その後は、セールスマンがその店舗を訪れて「同行販売」を行い、徐々に自主的な訪問を増やしていけば、自然と広がりが生まれる。

社長自らが先頭に立って新市場の開拓に取り組むことで、問屋も自社のセールスマンも本気になって販売活動に取り組むようになる。セールスマン任せで新市場開拓を進めようとする「陣後督戦」や、問屋任せにする「天動説」に依存している限り、大きな販売成果は望めない。この点を見落としてはならない。

繰り返しになるが、社長自らが先頭に立って販売戦略を推進している会社は驚くほど少ない。その理由の多くは、「忙しすぎてそこまで手が回らない」というものだ。しかし、この姿勢こそが、新市場開拓の成否を分ける重要なポイントであることを理解すべきだ。

何がそんなに忙しいのかといえば、社員の日常業務の指揮監督、いわゆる「現場監督」に追われているというのが実情だ。しかし、これでは話にならない。事業経営において、最も次元の低い業務に時間を割いて「忙しい」と言っているようでは、肝心の戦略的な動きが取れず、会社の成長は望めない。

そもそも、社長が毎日会社に詰めて現場監督をしなければ会社が回らないのだとしたら、それ自体が深刻な問題だ。それは、社員を信頼していないことの裏返しであり、組織の自律性や能力を引き出せていない証拠でもある。

社員を信頼できない理由は、社長自身が自らの姿勢を明確に示さず、会社の目指すべき方向性や方針を社員にしっかり伝えていないからだ。指針が示されないままでは、社員は自分なりに正しいと思う判断で動くしかなく、その結果、組織全体の足並みが揃わず、信頼関係も生まれにくい。

社員の行動が社長の意図と一致しないことがしばしば起こるため、社長はその都度修正を加える羽目になる。この状況を、社員の無能、無自覚、無責任によるものだと捉えてしまう危険性が非常に高い。しかし、根本的な問題は、指針や意図を明確に示さず、社員に共有していない社長自身の姿勢にあることを見落としてはならない。

このような社長ほど、社員の能力を自分の物差しで測りたがるものだ。しかし、社長自身の物差しで測って合格する社員など、ほとんど存在するはずがない。社員の能力を評価する際には、社長の物差しの十分の一、いや、場合によっては百分の一でも合格と見なすべきだ。それ以上を期待するのは、あまりにも都合が良すぎる考えだと言わざるを得ない。

話を元に戻すと、社員の日常業務の出来が上手か下手かにかかわらず、会社の業績には大した影響を及ぼさない。重要なのは、そうした日常業務にこだわるのではなく、会社全体の方向性や戦略的な活動に焦点を当てることである。

会社の業績に直接影響を及ぼす日常業務は、顧客へのサービスが不十分である場合に限られる。そして、その実態を把握するには、社長自らが顧客のもとに足を運ぶ必要がある。次元の低い現場監督業務に時間を割くことは、社長の本来の役割とはかけ離れており、優先すべきではない。

さらに重要なのは、社員が社長に指示を求める行為の本質を理解することだ。それは多くの場合、社員が「責任を回避」しようとしている表れである。自分で判断して行動した結果に責任を持ちたくないからこそ、上司である社長に決定を委ねようとするのだ。この構図を理解しない限り、社員の自主性や責任感を育むことは難しい。

社員が事前に社長に指示や了解を求めるのは、万一結果が悪かった場合に「これは社長の了解を得ています」と責任を転嫁できるからだ。実際、社員が社長の指示を受けに来る事柄の大半は、社長の判断を仰ぐ必要のない些細なことばかりである。これにいちいち対応していては、社長本来の役割を果たす時間が失われてしまう。

社長が顧客のもとへ足を運ばないもう一つの理由は、「営業部門があるのだから、社長がわざわざ顧客のところへ行く必要はない」という考え方だ。しかし、この考え方は根本的に誤っている。営業部門に任せるだけでは得られない現場の声や顧客との直接的な信頼関係を築くことこそ、社長が果たすべき重要な役割の一つだからだ。

社長が顧客のもとへ足を運ぶ目的は、「営業活動」をすることではない。本来の目的は、市場や顧客のニーズ、その変化の方向性を正確に把握し、自社の事業が正しい方向に進んでいるかを確認することだ。さらに、自社の販売戦略を進化させるための多様な情報を収集することも重要だ。それには、現行の販売戦略が妥当かどうか、同業他社の動きがどうなっているのか、といった点を把握することが含まれる。これらは、社長でなければできない重要な役割である。

したがって、特別なピンチがない限り、社長は自ら営業活動を行わないほうがよい。営業に力を注ぎすぎると、事業経営にとってもっと重要な情報の収集や分析をおろそかにするリスクが高くなることを理解すべきだ。ただし、新市場の開拓営業は例外である。これは、会社の未来を切り開く戦略的な行動であり、社長自らが陣頭指揮を執るべき領域だ。

「小売店直撃作戦」は、特に新市場を開拓する際に有効な方法で、間屋や代理店に頼らず、社長自らが小売店を開拓していくことで、販売成果を大きく上げる戦略です。以下にそのポイントをまとめます。

小売店直撃作戦の効果と方法

  1. 直接アプローチの重要性
  • 新市場に進出する際、問屋を通じて交渉するよりも、社長自ら小売店に売込みを行うことが効果的です。小売店から問屋を指定してもらい、その問屋に商品を納入する形で進めると、問屋に「貸し」をつくることができ、協力が得やすくなります。
  1. 問屋に頼ることのリスク
  • 問屋に直接依頼すると、主導権が問屋側にあり、値引き要求や不利な条件が課される可能性が高まります。重要な市場に進出する場合、問屋に任せるだけでは、求める結果を得にくいのです。
  1. 社長が先頭に立つことでの効果
  • 社長自らが先頭に立ち、新市場開拓を行うことで、問屋や営業チームの意識が変わり、取り組みに真剣さが生まれます。新市場に対して社長自らが先陣を切る姿勢が、全体のモチベーションを引き上げます。
  1. 同行販売から自主訪問へ
  • 最初はセールスマンと一緒に同行販売を行い、現地の状況を把握し、その後は自主的な訪問を増やしていきます。このステップによって、販売の基盤を確実に築きます。

社長の役割と方針

  1. 現場監督業務からの解放
  • 社長が日々の現場監督に追われていると、本来の市場開拓や方向性確認ができません。社長は社員の指揮監督に従事するのではなく、経営の大局を見据え、企業の発展に集中すべきです。
  1. 顧客との関係の重要性
  • 社長が直接顧客と関わることで、顧客のニーズや市場の変化に即応でき、適切な戦略が立てやすくなります。市場を理解するためには、営業部門に任せきりにするのではなく、社長自身が直接確認することが大切です。
  1. 社員に指示を求められないようにする
  • 社員が社長に指示を求める背景には、責任回避の意識があることが多いです。社長が社員に明確な方針とビジョンを示すことで、社員は自主的に行動しやすくなります。

まとめ

「小売店直撃作戦」を通して、社長自らが新市場で積極的に開拓活動を行うことで、販売の基盤が強化され、問屋や小売店からの信頼も得られます。この作戦は、新市場での確実な成果を目指し、会社の成長と発展を促進する手段として有効であるといえます。

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