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成果第一主義が貫かれている

N社は食品問屋で、年商は10億円。社員数は社長を含めて44名。だが、大幅な赤字を抱える状態だった。組織形態は典型的な「赤字型」であり、その原因は社長が事業経営の本質を全く理解せず、伝統的な組織論に盲目的に従っていたことにあった。

社長の下に専務が「統括本部長」として配置され、その下には営業部長、経理課長、総務部長が並ぶ構造になっている。この時点で、すでに二層の管理階層が形成されている。

営業部長の下には、営業課長が一人いるだけという状態だ。完全に屋上屋を架した無駄な構造になっている。その営業課長にはさらに「営業課長代理」がスタッフとして付けられているが、これは「課長が不在時の代行役」といった程度の位置付けに過ぎないだろう。

営業課長の下には、営業員が3名いる一方で、営業事務係がなんと11名も配置されている。コンピュータを使用している関係で、これだけの人数が必要だというのだ。さらに、配送係は9名が配置されており、全体的に人員過多が目立つ状況となっている。

経理課長の下には事務員が7名配置され、一方で総務部長の下には総務課長が1名いるだけという構造だ。ここでもまた無駄な管理層が存在している。その総務課長の下にはさらに事務員が6名も配置されているが、それに対してセールスマンはたったの2名しかいないという、明らかに販売を軽視した配置となっている。このような状況で業績が上がるはずもなく、何とも逆転した、非効率極まりない組織といえる。

社屋は約300坪の3階建てで、一階は倉庫と受払事務室になっている。三階は中央に奥へ続く廊下があり、その右側に会議室、左側には商談用の応接室が3つ配置されている。さらに奥には広々とした事務室と、贅沢に作られた社長室がある。また、事務室の入口近くには発来簡係が配置されており、全体的に広すぎる印象を受ける構造だ。

このように、社員の日常業務の繰り返しに過度に焦点を当てた管理指向型の組織構造は、N社だけの問題ではない。程度の差はあれど、多くの企業が同様の誤りを犯している。効率性よりも形式や管理階層を重視する結果、業績を阻害する要因となっているのだ。

こうした会社は、経済的成果を向上させる方法は日常業務の繰り返しを管理することだと勘違いしているようだ。しかし、この誤った考え方こそが問題の根本であり、まずはそこから改めていかなければならない。業績向上の鍵は管理ではなく、価値を生み出す活動に焦点を合わせることにある。

経済的成果を高めるには、文字通り経済的成果に焦点を合わせた組織を構築すればよい。それは極めて当たり前のことだが、多くの企業がその基本を見失っている。成果に直結しない管理や形式的な体制ではなく、利益や成長に直結する活動を中心に据えることが必要だ。

もう一つの問題は、実力があるにも関わらず「まだ若い」という理由で抜擢を避けるという、社長層にありがちなクセだ。実力は年齢とは無関係であり、「まだ若い」とは単に経験が浅いという意味に過ぎない。優秀な人間は、わずか一年の経験でも、普通の人の三年、五年、あるいは十年分に相当する知識やスキルを学び取るものだ。それでも、経験不足で人間的に未熟な部分があるかもしれないが、その若さ、情熱、そしてエネルギーこそが、経験では補えない強みとなることを忘れてはいけない。

会社内の人々の活動は、大きく四つに分類される。それは、販売、開発、管理、そして現業だ。販売は「今日の収益」を生み出すための活動であり、開発は「明日の収益」を生み出す活動として、新商品や新事業の開発、新市場や新規顧客の開拓に分かれる。管理は日常的な反復業務を統制する役割を担い、現業はその日常業務を実際に遂行する部門にあたる。

四つの活動に対する人的資源の配分は、多くの会社で誤って行われていることが多い。現業部門の人的資源は物理的条件によってある程度固定されるとしても、管理部門に優先的に資源を集中させ、販売部門にはごく僅かしか割り当てず、開発部門に至っては極めて貧弱な状況か、そもそも存在しない場合も少なくない。

マネジメントの思想は、常に管理を最重要視する傾向にある。その背景には、マネジメント理論の起源がフレデリック・テーラーの「科学的管理法」にあることが挙げられる。この理論は、科学的管理法の思想をそのまま発展させたものであり、事業経営の現場を知らない学者や技術者が「これこそが科学的な経営だ」と信じ込んでしまうのも無理のない話だ。

かつての自分も、若い頃は科学的管理の熱烈な信奉者だった。科学的管理こそが会社の発展を支える「決め手」だと信じ込んでいたのだ。

そんな私に痛烈な教訓を与えたのが、勤めていた会社の倒産だった。その会社で私は生産技術者として、生産性を大幅に向上させることに成功し、工程管理もほぼ完璧といえるレベルにまで仕上げ、最小限の人員での運営を実現していた。

自社の取り組みが他社を大きく引き離しているという自負があり、外部からの高い評価も受けていた。それにもかかわらず、会社はあっけなく倒産してしまったのだ。

この経験を通じて、私は「事業経営」というものの本質に目を開かされた。それは、「事業とは市場に対して行う活動である」というシンプルかつ本質的な理解に行き着いた瞬間だった。

「管理こそが重要」というマネジメント理論が、「経営学」という名目で事業経営を全く知らない学者や観念論者によって広められ、深く会社組織に浸透していった。その結果、多くの会社が「管理第一主義」という誤った方向に陥り、重大な弊害を生み出してしまったのである。

管理第一主義は、社長の関心を事業経営の本質から遠ざけてしまう。管理は必要最低限にとどめ、経済的成果の達成に焦点を合わせるべきだ。人的資源の配分も同様に、経済的成果を最優先に考えた配分が求められるのは言うまでもない。

人的資源の配分で最も重視すべきは「販売活動」だ。販売活動こそが、今日の経済的成果、つまり収益を直接生み出す活動である。ただ単に最優先とするだけでは不十分で、市場競争に勝ち抜くために必要な人員を十分に確保することが不可欠だ。

おおよその目安として、メーカーの場合は年商5,000万円から1億円に対してセールスマン1人、流通業者の場合は年商1億円から1億5,000万円に対してセールスマン1人が適正な割合とされる。

これらの数字はあくまで目安に過ぎない。実際、メーカーで年商3,000万円に対してセールスマン1人を配置している例もあり、それが高収益を実現している会社であることを知っている。むしろ、セールスマンをこれだけ確保していること自体が高収益を生み出す要因だと言ったほうが正確だろう。

中小企業の場合、流通業者は必要なセールスマンをほぼ確保しているケースが多い。一方、メーカーでは、私の見た限りでは、必要な人数のセールスマンを確保している会社は非常に少ない。逆に、セールスマンが極端に不足している会社が圧倒的に多い。このような会社は例外なく業績不振に陥っているのが現実だ。

セールスマン一人当たりの売上高が多ければ多いほど良いと考えるのは大きな誤りだ。一定以上に達すると、顧客に対して適切なサービスを提供できなくなるばかりか、競合他社との販売競争にも敗れるリスクが高まる。セールスマンの増員は、会社の事情が許す限り、積極的に進めるべきだ。

その際に必要な経済計算については、社長学シリーズ第五巻『増収増益戦略』の「戦略的決定における増分計算」(251頁)で詳しく述べているので、そちらを参照してほしい。

増員したセールスマンがわずかな売上を上げるだけでも、会社の重要な指標が大きく改善されることを理解しておく必要がある。

とにかく、販売力の強化なしに事業の発展は絶対にあり得ないということを肝に銘じるべきだ。何よりもまず、人的資源を最優先で販売部門に配分しなければならない。

次に注目すべきは、開発部門への人的資源の配分だ。開発活動とは、企業の将来の収益を生み出すために現在行っている取り組みを指す。現在の自社商品や得意先が、将来も安定した収益を保証してくれるわけではない。顧客の好みは常に変化し、競合他社からいつどのような新商品が登場するか予測できないからだ。

得意先に関しても、将来にわたって繁栄し続ける保証はなく、永遠に自社との取引を継続する契約を結んでいるわけでもない。

将来どのような危険が訪れるか分からない以上、現在の商品・市場・得意先から収益を得られている間に、先手を打つ必要がある。それこそが、将来の収益を生み出すために今行うべき活動、すなわち開発活動の本質だ。しかし、中小企業ではこの開発活動があまりにも低調である。意識としては重要性を理解していても、実際の行動には結びついていないのが現状だ。

どの会社でも新規得意先の開拓を声高に叫ぶが、実際には社長の明確な方針も的確な指導も欠けている。その結果、個々のセールスマンが独自の判断で飛び込み営業を行う程度にとどまっている。この方法が、まれに一定の成果を生むこともあるが、ほとんどの場合、得られる成果以上に失うものが多い。その主な理由は、市場戦略の観点から見ると、こうした行動がマイナスに作用するからだ。

新商品の開発についても、流通業者はメーカーに期待するだけで、自ら積極的に取り組もうとする姿勢がほとんど見られない。メーカーにおいても、新商品開発の重要性が叫ばれてはいるものの、実際には本気で取り組む会社は少ない。多くの企業が「現在の事業で手一杯だ」「人手が足りない」といった口実を並べるが、実際のところ「本音ではあまりやりたくない」というのが実情だろう。

未来部門に対する人的資源の配分がほとんど行われておらず、仮に配分されていても、明らかに有能とは言えない人材が充てられていることが少なくない。こうした状況が放置されていることが問題の根幹にある。「将来の危険に備えないことの危険」を深刻に捉え、そのリスクを回避するための具体的な行動が求められる。

社長は、自社の将来の事業がどのような形であるべきか、逆にどのような事業には手を出してはならないのかを、常に考え続ける必要がある。この点については、拙著『社長学シリーズ』第四巻「新事業・新商品開発」篇を参照していただきたい。

明確な方針を立てることが不可欠だ。それが必ずしも正しいとは限らず、暫定的なものや「とにかくこうしよう」という程度の方針であっても、無方針であるよりははるかに優れている。無方針は、間違った方針以上に恐ろしいということを肝に銘じるべきだ。間違った方針は、成果が上がらないことで誤りに気づくことができる。その時に方針を修正すれば良いのだから、間違いを恐れる必要はない。

実際のところ、未来の事業というものは、多くの「物にならない」活動や商品の失敗を積み重ねる中から生まれてくるものだ。それらの失敗を恐れず、試行錯誤を繰り返すことが、真に価値ある未来事業を生み出す原動力となる。

開発活動は、その性質上、何年も先の収益を見据えた長期的な視点で行われるべきものであり、この部門への人的資源の配分が極めて重要となる。配分の基本的な考え方は「最小限の確保」である。どうしても達成しなければならない課題については、常に「これだけは必要だ」という最低限のリソースを確保するという姿勢が求められる。開発活動を成功させるためには、次の三つの条件が挙げられる。

第一の条件は、会社の中で最も適任と思われる人材を開発活動に充てることだ。開発活動の成否は、その責任を担う人材の能力や適性に大きく左右される。
第二の条件は、開発活動を社長の直轄部門として位置づけ、明確な方針を与えることだ。その上で、計画的に運営し、進捗や成果を継続的にチェックする体制を整える必要がある。

さらに第二の条件として、現事業とは完全に切り離し、開発活動に専任させることが挙げられる。この点については、前掲書『新事業・新商品開発』篇でも強調している通りだ。人的資源が限られている中で、まず販売部門に最優先で配分し、次に開発部門に最小限のリソースを確保すると、必然的に残りの人的資源は非常に少なくなる。その結果、管理部門への配分は著しく不足することになる。

重要なのは、この限られた人員で管理活動を遂行しなければならないという点だ。これにより、否応なく「最小限管理」を実践せざるを得なくなる。このアプローチは、従来のマネジメント理論とは全く異なるものである。詳しい内容については後述するが、限られたリソースを効率的に運用するための新たな視点が求められる。

従来のマネジメントの考え方は、仕事を円滑に進めることが事業経営における最重要事項だとし、そのために「ああしなければならない」「こうしなければならない」といった手法ばかりを説いている。しかし、実際には事業経営そのものを全く無視している。皮肉なことに、マネジメント論者たちはこれが事業経営に貢献していると本気で信じ込んでいるのだ。

事業経営とは、経済活動そのものだ。経済の視点を無視してしまえば、それはもはや事業ではなく、単なる遊戯に過ぎなくなる。この点を肝に銘じておく必要がある。

厳しい企業戦争においては、遊戯の理論では到底勝ち抜くことはできない。社長は、自社の人的資源をいかに有効に活用するかについて、全精力を注いで考え抜かなければならない。その厳しさは、管理部門をいかに縮小し、必要最小限に抑えられるかによって測られるのである。

M社は陸運業を営む超優良企業であり、その管理部門への人的資源の配分は注目に値する。M社長から聞いた時点での配分状況は次の通りだ。社員数は630名、車両は500台、営業所は19カ所という規模にもかかわらず、本社には社長以下わずか12名しかいない。その中から社長、常務、社長の運転手を差し引くと、実質的な本社スタッフは9名にすぎない。それでも、業務はしっかりと運営されている。

これを、先に例に挙げたN社と比較すると、その差は顕著だ。N社は総従業員数44名で事務員が24名を占めている。M社の合理的な配分とN社の非効率な体制との差は非常に大きいと言える。

M社には、効率化を追求した数々の工夫と知恵が詰まっている。その一例として、給料日の対応が挙げられる。給料袋に現金を入れる作業が間に合わない場合、銀行から応援の人を借りて作業を補うという方法を採用している。他社のリソースを活用する、いわば「人のフンドシで相撲を取る」発想だ。また、給料は営業所に取りに来させることはせず、必ず配送便で直接届けるという徹底ぶりだ。

さらに特筆すべきは、19カ所もある営業所に、事務員が一人も配置されていないという点である。これほどの規模の会社でありながら、事務作業を極限まで効率化している。このような徹底的な合理化が、M社を超優良会社たらしめているのである。

私からM社の話を聞いたある社長は、直接M社を訪れてその実態を目の当たりにした。そして、即座に自社の本社人員を半減するという大胆な決断を下した。この社長の行動力も見事なものである。

管理とは本来こうしたものであり、たとえ人員が少なくても、工夫次第で十分に運営を成り立たせることができる。限られたリソースで効率的に業務を遂行する仕組みを構築することこそが、真の経営力を示すものなのだ。

こうした取り組みを実行に移すかどうかは、すべて社長の考え方次第だ。一事が万事という言葉は、この状況にも当てはまる。厳しい姿勢で経営に臨む社長は、管理部門に至るまで徹底的に合理化を追求する。一方、怠慢な社長は、ムダな管理部門、時には寄生的な部門をも放置し続ける。その背景には、社員からの批判を恐れるという心理がある。

成果達成主義において、もう一つ重要なのは、指令がどれだけ迅速に伝達され、それが実行に移されるかという点だ。遅滞なく行動に移せる組織体制を築くことが、成果を生む上で極めて重要である。

万国博の際、大阪国際空港のターミナルビルが新しく建て替えられた。その正面には広い駐車場を挟んで、敷地の境界線に沿ってネオンの広告板がずらりと並ぶことになった。その中で、最も早く中央部に設置されたのが、松下電器の「ナショナル・パナソニック」の広告板だった。

夜になると暗闇の中にネオンが輝き、その広告効果は抜群だった。二番目に広告板を設置したのはコカコーラで、松下電器から約三カ月遅れての登場だった。それ以降、他の広告板も次々と設置され、最終的にはタッチの差で勢揃いしたような形になった。

松下電器が他社よりも3カ月も早く広告板を設置できた理由は、指令の伝達方法に違いがあったからだ。九州松下電器の青沼博二専務(創業当時)の話を通じて、その背景を探ってみよう。

青沼氏は、松下電器の創業者である松下幸之助から全権限を委譲され、九州松下電器の設立に尽力した人物である。彼は、迅速かつ的確な指令の伝達と実行を重視し、組織全体のスピード感を高めることに成功した。その結果、松下電器は他社に先駆けて広告板を設置することができたのである。

このように、指令の伝達方法や組織の意思決定プロセスが、企業の行動速度や競争力に大きな影響を与えることがわかる。松下電器の事例は、迅速な指令伝達と実行が、いかに企業の競争優位性を高めるかを示す好例である。

「とにかく、動脈硬化が最大の敵です。九州松下では、私の指示を1時間以内に全員に浸透させる自信があります。組織は運用のために存在するのであって、その運用が滞るような形で凍結されてはなりません。たとえば、部長が課長を飛ばして主任に直接命令するのは職制を乱すという考え方がありますが、うちでは専務が組長を直接呼び出して指示を出すことがあります。それに対して組長もきちんと応答します。

ただし、組長がその指示内容を直属上司に即座に伝えるというルールを設けており、情報共有が欠けてしまう状況、いわゆる『ツンボ桟敷』を防いでいます。」

このように、迅速な意思伝達と柔軟な指令体系を確立することで、組織の硬直化を防ぎ、全体のスピード感を保つ運用が行われている。

昔、爬虫類の王者として恐竜という生物がいた。あれは、頭部に打撃を受けて「痛いな」と感じても、その信号が尻尾まで到達するのに約2秒もかかったとされている。そのため、迅速な対応ができずに最終的には死滅してしまった。つまり、伝播・伝達の速度が遅かったことが命取りになったわけだ。

経営においても同じで、「神経の伝達速度」が成否を分ける要因だと思います。

(「松下連邦経営」ダイヤモンド社刊より引用)

この言葉は、迅速な指令伝達と情報共有の重要性を端的に表しており、現代の組織運営にも深く通じるものがある。

これが、その秘密である。組織論には「指令系統の統一」という原則があり、「あなたの上司は一人しかいない」という形で指導されることが多い。この原則に基づき、上司を飛ばして直接部下に指示を出すような「短絡」が厳しく禁じられる。理由は、職制を乱すとされているからだ。

お役所なら、この原則でも特に問題はないだろう。しかし、つぶれる可能性がある会社においては、これは極めて危険な思想だ。情勢の変化に迅速に対応しなければならない場面で、職制を厳守して指令を回しているようでは、後手に回り、大きな損失を被るリスクが高まる。

重要なのは、職制を守ることではなく、迅速に行動することだ。そのためには、むしろ「短絡」のほうが適している場合が多い。松下電器が実践しているのは、この当たり前の原則を忠実に守っているだけにすぎない。組織の硬直化を避け、迅速な意思決定と行動を優先する姿勢こそ、競争力を支える鍵である。

ところで、「指令系統」というものは、誤った理解や解釈が生じやすい点に注意が必要だ。特に、管理訓練を受けたり、マネジメント関連の本を読んだりした後に、そうした誤解が発生するケースが多い。形式にとらわれすぎることで、実際の運用や迅速な対応を阻害するリスクがある。

K社でMTP(Management Training Program)の教育を受けた際、困った事態が発生した。それは「指令系統の統一」に関する問題だ。営業課では、顧客から納期の問い合わせがあると、まず課長を通じて営業部長に伝わり、そこから製造部長へ、製造部長から課長、さらに主任へと情報が流れる。そして、回答はその逆の手順をたどって営業担当者に戻るという複雑な手続きを踏むことになった。

これに対して営業部長が「このやり方では仕事になりません。どう改善すればよいでしょうか」と質問してきた。これは、形式的な指令系統の遵守が、実務のスピードを著しく損なっている典型的な例である。

私はその話に唖然とした。ここにも管理教育の弊害が顕著に表れているのだと痛感した。私は営業部長にこう答えた。
「それは『指令』ではなく『情報』に関することです。情報の伝達は、当事者間で直接行えば良いのです。指令系統とはまったく別の問題です。」

この説明によって、営業部長の悩みはあっさりと解消された。形式にこだわるあまり、不要に複雑な手続きを導入してしまうのは、管理教育が生む典型的な落とし穴だと言える。

S社でコンベアーシステムを導入した際の出来事だ。難易度の高い溶接工程を5人で流すことに決め、テストを行ったところ、結果は非常に良好だった。しかし、後日様子を見に行くと、不良品の山が積み上がっているのを目にした。驚いて検査係に事情を尋ねると、こう答えた。
「ああ、これは新しい人が流れに入ったせいです。」

現場の混乱や不良品の発生は、新しいシステムへの適応プロセスや人材配置の問題を顕著に示している。この状況は、単に設備を導入するだけでなく、人員の教育やスムーズな運用体制を構築することの重要性を浮き彫りにするものだ。

検査係はさらにこう続けた。「第二工程ですね。そこで出る不良です」と、まるで他人事のような態度だった。そこで私は溶接の主任に話をしたか確認すると、こう返ってきた。「いえ、していません。私の上司は検査課長ですから、検査課長に報告しておきました。」

これも典型的な「指令」と「情報」を混同したケースだ。社員にとって、指令と情報の区別は意外と難しく、このような誤解から現場での問題や滑稽とも言えない事態が生じることがある。この点には特に注意が必要だ。指令は意思決定や命令に基づくものであり、情報は単なる状況共有やデータの伝達に過ぎない。この違いを組織全体で明確に理解させることが、円滑な運営の鍵となる。

成果第一主義と組織の設計および運営

成果第一主義の実現には、組織設計と運営の工夫が不可欠である。これには、事業の経済的成果に焦点を合わせた組織体制と、社長の明確な指示とリーダーシップが重要である。

1. 成果達成を重視した組織構築

成果を上げるためには、販売活動に重点を置く組織体制が重要である。例えば、販売部門には人的資源を優先的に配分し、営業活動を強化する。このように、売上に直結する部門を重視する配分により、企業は競合に勝てる販売力を確保し、収益を高めることができる。

一方、将来の収益を生む開発活動も不可欠であり、優れた人材の投入と社長の直轄による支援が必要である。管理部門は最小限に留め、限られたリソースの中で効率的に運営する工夫が求められる。

2. 階層の簡素化

階層を簡素化することで、指示や方針が迅速かつ明確に末端まで伝わり、組織全体が一致団結しやすくなる。過剰な階層を設けると、社長の意図が下に伝わりにくくなり、組織のスピードが遅くなるため、可能な限り階層は少なく保つべきである。

3. 無能な管理職の排除

無能な管理職が組織に存在すると、士気が下がり、業績に悪影響を及ぼす。社長は、事業の成功のために、時に厳しい判断を下し、無能な管理職を適切に処遇し、組織にとって最善の体制を維持するべきである。

4. 指令の迅速な伝達と「短絡」

成果を上げるためには、社長の指令が迅速に実行されることが重要である。例えば、松下電器のように職制を柔軟に捉え、緊急時には指令が直接伝達される「短絡」システムを取り入れることで、状況変化に即応できる体制を整えることができる。組織は職制やルールに縛られすぎず、社長の方針として「短絡」を奨励することで、柔軟かつ機動力のある組織運営を実現できる。

5. 情報と指令の明確な区別

情報伝達と指令伝達を混同すると、組織内での混乱を招く。指令はトップダウンで統率するためのものであり、情報は必要な部門同士で直接やり取りできるようにするべきである。特に管理職には、指令と情報の違いを明確に理解させることが重要で、迅速な意思決定と適切な報告がスムーズに行われるような文化を育むべきである。

6. 成果達成主義の徹底

成果達成主義を組織に浸透させるためには、社長は日々の指令伝達を徹底し、常に「成果達成が最優先である」という方針を明確に打ち出す必要がある。社員が方針を明確に理解し、短期間で実行に移せる体制を維持することで、成果を上げるためのスピード感を保ち、企業戦争に勝つための組織を構築することが可能になる。

このように、成果を最優先するためには、経済的成果に直結する活動への人的資源の配分、迅速な指令伝達、そして無駄のない管理が重要である。

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