慎みをもって己を律する者は、大きく踏み外さない
孔子は、自らを「約(やく)する」――すなわち節度をもって行動を控えめにすることの大切さを説いた。
声高に主張せず、欲望のままに振る舞わず、慎重に、節制をもって日々を送る人は、失敗が非常に少ないという。
この「約」とは、ただ小さくまとまることではない。
むしろ、行き過ぎや傲慢を自ら律し、継続して成長し続けるための「内なる力」である。
控える勇気、抑える知恵――それこそが長く人から信頼され、持続的に徳を積むための鍵なのだ。
原文とふりがな付き引用
子(し)曰(いわ)く、約(やく)を以(もっ)て之(これ)を失(うしな)う者は、鮮(すく)なし。
慎み深さをもって生きる人に、
道を誤る者はほとんどいない。
注釈
- 約(やく)…節度・控えめ・慎みの心。必要以上を求めず、己を律すること。
- 失う(うしなう)…道徳的に誤ること、信頼を失うこと、失敗すること。
- 鮮し(すくなし)…まれである、めったにない。ここでは「ほとんどない」という意。
1. 原文
子曰、以約失之者、鮮矣。
2. 書き下し文
子(し)曰(いわ)く、約(やく)を以(もっ)て之(これ)を失(しっ)う者は、鮮(すく)なし。
3. 現代語訳(逐語・一文ずつ)
- 「約を以て之を失う者は」
→ 質素・簡素な生活をしていて失敗する人は、 - 「鮮し」
→ ほとんどいない。
4. 用語解説
用語 | 解説 |
---|---|
約(やく) | 質素・倹約・簡素・控えめな生き方を指す。外見や生活の質を控えることだけでなく、精神的にも慎ましい態度を含む。 |
失う(しっす) | 道を誤る、失敗する、名を汚す。 |
鮮し(すくなし) | ごく稀である、滅多にないという意味。 |
5. 全体の現代語訳(まとめ)
孔子はこう語った:
「質素にして慎み深く生きていて、失敗するような人は滅多にいない」
6. 解釈と現代的意義
この章句は、**「控えめに生きることが、結果的に誤りや失敗を避ける道である」**という、
孔子の生活倫理・道徳観を凝縮した名言です。
- 華やかで過剰な行動よりも、慎み深く質素な生き方が、人としての道を保ちやすい。
- 無理をせず、目立ちすぎず、欲を抑えて行動する人は、大きな過ちを犯しにくい。
- これは儒教の“中庸”にも通じる価値観であり、**「過ぎたるはなお及ばざるが如し」**という教訓とも一致します。
7. ビジネスにおける解釈と適用
✅ 「質素・謙虚・節度のある行動が、安定と信頼をもたらす」
- 身の丈に合わない投資や過剰なPR、リスクの高い施策ではなく、堅実・控えめな方針の方が失敗しにくい。
- 慎ましい姿勢の人は、周囲に安心感と信頼を与える。
✅ 「“派手さ”より“堅実さ”が継続的成功を生む」
- 華やかなスタートアップや派手なプロジェクトより、一歩ずつ積み重ねる誠実な実行が最終的に成果につながる。
- コスト意識・倹約精神・ミニマリズムは、組織の持続可能性を高める要因。
✅ 「謙虚さこそが、失敗回避の最良の防具」
- 謙虚な人は耳を傾け、リスクを直視し、助言を受け入れる。
→ 大きなミスを事前に防ぐことができる。
8. ビジネス用の心得タイトル
「慎ましさは、最大のリスクヘッジ──“約をもって失う者は鮮し”」
〜控えめに生きる者ほど、長く信頼される〜
この章句は、「質素であること」「謙虚であること」が単なる美徳ではなく、誤りを避ける“知恵”であることを示しています。
目立たなくてもいい。慎ましくてもいい。
誠実に日々を積み重ねる人が、結局は失敗せず、尊敬される存在となる──それが孔子の示す人生の真理です。
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