地位や名声は、あまりに高く昇りすぎない方がよい。
あまりにも目立てば、やがて妬まれ、引きずり下ろされる危険がある。
自分の才能や能力も、すべてを出し切ってはならない。
出し尽くせば、その魅力は薄れ、やがて衰えていく。
行いが立派であっても、過剰に高尚すぎてはいけない。
あまりにも理想を振りかざせば、かえって人々の反感を買い、非難されるようになる。
つまり、「高すぎず、強すぎず、輝きすぎないこと」。
それが人として長く敬われ、安らかに生きるための**絶妙な“分量感”**なのである。
原文(ふりがな付き)
爵位(しゃくい)は宜(よろ)しく太(はなは)だ盛(さか)んなるべからず。太だ盛んなれば則(すなわ)ち危(あや)うし。能事(のうじ)は宜しく尽(つ)く畢(お)わるべからず。尽く畢われば則ち衰(おとろ)う。行誼(こうぎ)は宜しく過(す)ぎて高(たか)かるべからず。過ぎて高ければ則ち謗(そし)り興(おこ)りて毀(そし)り来(きた)る。
注釈
- 爵位(しゃくい):身分、地位、名誉。社会的なステータス。
- 太だ盛んなれば則ち危うし:過剰に高くなると、その分だけ反動や攻撃を受ける可能性が高まる。
- 能事(のうじ):得意な技芸や能力。専門的な力。
- 尽く畢われば則ち衰う:出し切ってしまえば、それ以上の伸びしろもなく、やがて衰えていく。
- 行誼(こうぎ):道徳的に立派な行い。
- 謗(そし)り興りて毀(そし)り来たる:人々の反感や中傷が生まれ、やがて攻撃される。
※『老子』は「物は壮なれば則ち老ゆ」として、極まりすぎたものは衰退に向かうという自然の理を説きます。この条文もまたその思想に近く、「足るを知る」「控えめにする」ことの尊さを伝えています。
パーマリンク(英語スラッグ)
restraint-leads-to-respect
(控えめさが敬意を生む)shine-without-blinding
(まぶしすぎず輝く)moderation-preserves-dignity
(節度が品位を守る)
この条文は、“出過ぎた杭”の危うさを説いているだけでなく、
長く愛される人間になるための**「抑制の美徳」**を教えてくれます。
謙虚であることは、卑下ではなく、強さのかたち。
高すぎず、出しすぎず、誇りすぎず――そのほどよい加減に、
人の魅力と長寿の秘訣があるのです。
1. 原文
爵位不宜太盛。太盛則危。
能事不宜盡畢。盡畢則衰。
行誼不宜過高。過高則謗興而毀來。
2. 書き下し文
爵位は、宜しく太だ盛んなるべからず。太だ盛んなれば則ち危し。
能事は、宜しく尽く畢わるべからず。尽く畢れば則ち衰う。
行誼は、宜しく過ぎて高かるべからず。過ぎて高ければ則ち謗(そし)り興りて、毀(そし)り来たる。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ)
- 官位や地位は、あまりに高くなりすぎてはいけない。
→ あまりに盛大になると、むしろ危険を招く。 - 能力や仕事の完成も、すべてやり尽くしてしまってはいけない。
→ 完璧にやり遂げれば、そこからは衰退が始まる。 - 品行や信義の高さも、あまりに理想的すぎてはいけない。
→ あまりに高潔すぎると、人々の嫉妬や中傷、攻撃を招いてしまう。
4. 用語解説
- 爵位(しゃくい):位階・地位・権勢のこと。名誉や肩書も含まれる。
- 太盛(たいせい):あまりに栄えすぎているさま。
- 能事(のうじ):自分ができる最善の仕事や能力、または任務。
- 尽畢(じんひつ):完全に成し遂げること、全うすること。
- 行誼(こうぎ):品行と誠実な信義。
- 謗興・毀來(ぼうおこり・きらい):中傷が起こり、非難が降りかかること。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
官位や地位は、あまりに高くなりすぎるとむしろ危険を招く。
どんなに有能であっても、あらゆることを完璧に成し遂げるのではなく、ほどほどにしておかねば、やがては衰えてしまう。
また、品行や信義もあまりに理想的すぎると、他人の嫉妬や中傷を招き、かえって批判されるようになってしまう。
6. 解釈と現代的意義
この章句は、**「バランスと控えめさの美徳」**を説いています。
- 過ぎた地位、過ぎた完成、過ぎた清廉さは、かえって災いを招く。
- どんなに立派であっても、人は突出した存在を疎んじ、引きずり下ろそうとする心理がある。
- 自然体・余白・謙遜こそが、長く平穏に生き抜くための智慧。
東洋思想における「中庸」「節度」「陰徳の美」などと通じる含蓄深い一節です。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
● 「高すぎる地位や評価は、嫉妬や反発を呼ぶ」
- 昇進しすぎたり、自慢話や成功の誇示をしすぎると、周囲に見えない反発が生まれる。
→ 控えめな態度と周囲への配慮が、持続的な成功を支える。
● 「完璧主義は成長の余地を失わせる」
- すべてを自分で完璧に行おうとすれば、チームの学習や参加の機会を奪い、自分も疲弊する。
→ “やりすぎず、余白を残す”ことで、次の成長の種が生まれる。
● 「理想主義を押しつけすぎると、反感を招く」
- 高潔すぎる態度は、共感ではなく「近寄りがたさ」や「偽善」として見られることがある。
→ 理想を持ちつつも、人間味ある柔軟な姿勢が信頼を呼ぶ。
8. ビジネス用の心得タイトル
「盛りすぎず、尽くしすぎず、誇りすぎず──“余白の徳”が継続の鍵」
この章句は、「過ぎたるは及ばざるがごとし」を深く掘り下げた知恵です。
特に長期的な信頼・評価・安全を重視するリーダーや組織人にとって、
“控えめで穏やかな徳”こそがもっとも堅固な防御であり、繁栄の土台となるという教訓を与えてくれます。
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