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欲よりも志を――狩猟に己を任せぬ君の徳

貞観十四年、太宗は沙苑に出かけ、自ら猛獣を射る狩猟を行った。
朝早く出発し、夜遅くに戻るという無理を押しての行幸だった。

これに対し、特進・魏徴が歴代の故事を引用して諫める。

  • 『書経』は、周の文王が狩猟を慎んだことを褒めている。
  • 『春秋左氏伝』は、**狩りに溺れた夏の夷羿(いげい)**を戒めている。
  • 漢の文帝は坂を駆け下ろうとしたところを袁盎に止められた。
  • 武帝は猛獣狩りを好んだが、司馬相如にその危険性を説かれた。
  • 元帝は郊外の祭礼のついでに狩猟を行おうとしたが、薛広徳に激しく諫められた。

魏徴はこれらを踏まえてこう述べる――

「彼ら歴代の皇帝も、感情がなかったわけではない。
しかし、自らの快楽をおさえ、国家のために臣下の忠告に従った。
ましてや、万乗の貴い身でありながら、夜の荒野で獣を追うことは、
上は宗廟社稷に、下は百官万民に対して、慎むべきことでしょう」

太宗はこれを聞き、「昨日の行いはたまたま心の迷いだった。今後は深く戒めとする」と応えた。


■心得

  • 過ぎた狩猟は、君徳を損ない、国家を危うくする
  • 忠言は過去に学ぶことで、より重みをもつ
  • 快楽よりも使命を選ぶこと、それが真の君主である

■引用(ふりがな付き)

「志(こころざし)国(くに)に存(そん)し、身(み)には在(あ)らず。
臣(しん)の諫(いさ)めに折(お)れて己(おのれ)を屈(くっ)す。
それ、聖君の徳(とく)にして、世(よ)の範(はん)たるべし」


■注釈

  • 格猛獣(かくもうじゅう):猛獣に立ち向かい、弓矢や槍などで狩りをすること。
  • 沙苑(さえん):同州(現在の陝西省)にあった狩猟地。
  • 袁盎(えんおう):漢の文帝に仕えた官僚。冷静な判断力と忠誠で知られる。
  • 司馬相如(しばしょうじょ):前漢の文人・政治家。雄弁をもって武帝を諫めた。
  • 薛広徳(せつこうとく):元帝を強く諫めた漢の官僚。政治的忠義の象徴的人物。

■パーマリンク(英語スラッグ)

restrain-the-hunt

他の案:

  • kings-who-heard
  • legacy-over-pleasure
  • hunt-or-duty

この章は、**「過去の偉人に学び、自らの欲を律する」**という、帝王学の本質を端的に示しています。

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