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天子といえども、賢者には敬意を――「貴を貴ぶ」と「賢を尊ぶ」は同じ道理

孟子は、天子といえども、賢者を友として敬うべきであると説く。
これは「権力者は人徳ある者を軽んじてはならない」という儒家の核心思想のひとつであり、
舜と堯のエピソードを通して、それが最も高い立場にある者の「品格」の証であると示される。


原文と読み下し

舜(しゅん)、尚げられて帝に見(まみ)ゆ。
帝、甥(せい)を弐室(にしつ)に館(やど)し、亦た舜を饗(きょう)す。
交互に賓主となる。

是れ天子にして、匹夫を友とするなり。

  • 下を用いて上を敬する、これを「貴(きを)貴ぶ」と謂う。
  • 上を用いて下を敬する、これを「賢を尊ぶ」と謂う。

貴を貴び、賢を尊ぶ――その義(ぎ)は一(いつ)なり。


舜と堯の交わりのポイント

行為意味
舜が帝(堯)に召される平民でありながら徳をもって召された(尚げられた)
娘むことして迎え入れられる家族としての信任を与えた
饗応され、賓主を交代する対等な人格としての敬意、交友の関係

孟子はこれを、「天子であっても、徳ある者に対しては敬意を持って遇するべきである」という理想のモデルとして描いている。


「貴を貴ぶ」と「賢を尊ぶ」

  • 貴を貴ぶ(き きをとうとぶ)
    地位の低い者が高位の者を敬うこと。通常の礼節。
  • 賢を尊ぶ(けん をとうとぶ)
    地位の高い者が徳ある下位の者を敬うこと。真の敬意。

両者ともに、「敬意をもって人と接することが礼の根幹である」という儒家的価値観を体現している。
孟子は「その義(意味するところ)は同じ」とすることで、上下関係の形式よりも、内実としての敬意のあり方を重視している。


現代的含意

  • リーダーが部下や後輩を**「役職ではなく徳」で敬する姿勢**は、組織の健全性を示す。
  • 地位が上だからといって傲慢にならず、有徳者に学ぶ態度を失わないことの重要性。
  • 「親しき中にも礼あり」ではなく、「敬意ある交わりが真の友を生む」という原則。

パーマリンク(英語スラッグ)

respecting-virtue-over-rank
→ 「地位より徳を尊ぶ」

その他の案:

  • friendship-of-the-wise-and-noble(賢者と高位者の友情)
  • equality-in-honor(尊敬の中の平等)
  • mutual-respect-among-all-ranks(身分を超えた相互尊重)

この章は、「位階と敬意の一致」というテーマにおいて、
人間関係の理想を国家の最上層にまで拡張した、孟子らしい高度な政治的・倫理的教訓です。

単なる上下関係ではなく、「人格・徳に基づく敬意」によってこそ、社会や国家は安定するという
孟子の信念が滲んでいます。

目次

原文

舜尚見帝、帝館甥于貳室、亦饗舜、以爲賓主、是天子而友匹夫也、用下敬上、謂之貴貴、用上敬下、謂之賢賢、貴貴賢賢、其義一也。


書き下し文

舜(しゅん)、尚げられて帝に見(まみ)ゆ。
帝、甥(せい)を貳室(じしつ)に館(やど)し、亦(また)舜を饗(きょう)し、以(もっ)て賓主(ひんしゅ)と為(な)す。
是(こ)れ天子(てんし)にして匹夫(ひっぷ)を友(とも)とするなり。

下(しも)を用(もっ)て上(かみ)を敬(けい)する、これを「貴を貴ぶ」と謂(い)い、
上を用て下を敬する、これを「賢を賢ぶ」と謂う。
貴を貴び、賢を賢ぶ、其(そ)の義(ぎ)一(いつ)なり。


現代語訳(逐語/一文ずつ訳)

  • 舜はまだ一般人であったとき、帝(堯)に引き立てられて謁見した。
  • 堯帝は、舜を迎えるために親族(甥)を別の部屋に宿泊させ、舜にも食事でもてなし、主賓関係として接遇した。
  • これは、天子である堯帝が、まだ無位の舜という「一庶民」と友情を結んだということである。
  • 地位の低い者が高い者を敬うのは「貴(たっと)きを貴ぶ」と言う。
  • 地位の高い者が下の者を敬うのは「賢(けん)を尊ぶ」と言う。
  • 貴を貴ぶも、賢を尊ぶも、その根本にある「敬うという義(正しさ)」は同じである。

用語解説

  • 舜(しゅん):堯に見出されて帝位を継いだ伝説的な聖王。最初は庶民の出。
  • 帝(てい):ここでは堯(ぎょう)帝を指す。舜の徳を見抜き、後継者とした。
  • 甥(せい):堯の親族。弐室に宿を移されたのは、舜をもてなすため。
  • 貳室(じしつ):副室・別館。賓客を丁重にもてなすための空間。
  • 饗(きょう)する:食事でもてなす。
  • 賓主(ひんしゅ):客と主人の関係。礼儀の要所。
  • 匹夫(ひっぷ):一般庶民・無位の者。
  • 貴貴(きき):地位ある者がさらに高い者を敬うこと。
  • 賢賢(けんけん):地位のある者が人格や才能ある者を敬うこと。
  • 義一也(ぎいつなり):その道理(義)は本質的に同じであるという意。

全体の現代語訳(まとめ)

舜がまだ無名の庶民だった頃、堯帝に見出され、謁見した。堯は自らの甥を別室に移し、舜を主賓として丁重にもてなした。これは、天子である堯が一介の庶民・舜と「真の友」として付き合ったという例である。

世の中では、地位の低い者が上位者を敬うのは当然とされ、それを「貴を貴ぶ」と言う。一方で、上位者が徳ある者に敬意を表すのは「賢を賢ぶ」と言う。

この両者は、表面的には逆に見えても、本質的には同じ「敬うという義」に基づいた行為なのである。


解釈と現代的意義

この章句は、**「真の敬意とは、地位に依存せず、徳に向けられるものである」**という孟子の倫理観を象徴します。

  • 堯は制度や身分に縛られず、人格を見抜き、舜を誠実にもてなした。
  • これは「徳を中心とする人間関係」を理想とした儒家思想の具体的な実例です。
  • 「上下の礼」ではなく、「敬意の本質」が同じであれば、形式の違いは問題ではない、という普遍的価値観を表現しています。

ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)

  • 「部下や若手にも敬意を」
     → 階層や肩書にかかわらず、有能さ・誠実さを持つ者には対等の敬意を表することが、真に強い組織をつくる。
  • 「地位によらず、人間として向き合う」
     → 上司が部下に礼を尽くし、後進をもてなすことは、信頼と共感を生むリーダーシップの表れ。
  • 「上下の敬は本質的に同じ」
     → 上が下を評価し、下が上を敬う構造でも、どちらも「敬意」という一点でつながっている。これは職場の風土づくりに直結する。
  • 「人を見る眼のあるリーダーが組織を伸ばす」
     → 経歴や実績ではなく、誠実さや潜在力を見抜いて引き上げる力が、組織に新しいリーダーを育てる。

ビジネス用の心得タイトル

「敬は地位にあらず──人の徳に礼を尽くす」


この章句は、地位や身分に関係なく、真に価値ある人間には敬意を持つべきだという普遍的な人間観と組織観を私たちに伝えています。

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