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師を見ること、すなわち君を見ること

――親王には、父に接するように師を敬わせよ

太宗は、親王が身を崩すのを防ぐためには、日々の教育と態度が肝要であると考えた。
とくに魏王・李泰の補導役には、忠直で志高い王珪を任命し、その接し方についてまで細かく指示した。
「王珪に会うときは、私と会っていると思って、最大の敬意を払うように」と。

王珪は、師としての自覚をもって職務に臨み、当時の人々の評価も非常に高かった。
太宗は、帝王の子が驕慢に育ちやすいことを熟知しており、師を介した人格教育こそが王子たちの将来を左右すると見抜いていた。

師は単なる教師ではない――
それは、親に代わり、主君に代わる存在。
そのように接してこそ、教育は真に実を結ぶ。


引用とふりがな(代表)

「毎(つね)に王珪(おうけい)に対(たい)するときは、我(われ)を見るがごとくせよ」
――師に接することは、父に接するがごとく

「加(くわ)えて敬(けい)を宜(よろ)しくし、怠(おこた)ること無(な)かれ」
――尊敬をもって、決して気を緩めるな


注釈(簡略)

  • 王珪(おうけい):唐の名臣。忠直にして誠実、補導役として理想的な人物とされた。
  • 魏王・李泰(ぎおう・りたい):太宗の子。文才がありながらも、その野心や傲慢さが問題視されたこともある。
  • 房玄齢(ぼうげんれい):太宗の腹心にして名宰相。ここでは皇命を伝える役を担う。
  • 傾危(けいき):身を崩し、地位や名誉を失うこと。王子たちが陥りやすい末路を意味する。

以下は『貞観政要』巻一より、貞観十一年における魏王泰への師傅任命と太宗の訓戒に関する記述を、標準構成に基づいて整理したものです。


目次

『貞観政要』巻一:貞観十一年 王珪を魏王泰の師に任命

1. 原文

貞觀十一年、以禮部尚書王珪爲魏王師。太宗謂尚書左僕射房玄齡曰、
「古來帝子、生於深宮、不識人間、無不驕逸、是以傾敗相踵、少能自濟。我今嚴敕子弟、欲皆得安。王珪我久驅使、甚知剛直、志存忠孝、宜爲子師。卿宜語泰、每對王珪、如見我面、宜加敬、不得懈怠」。
珪亦以師道自處。時議善之也。


2. 書き下し文

貞観十一年、礼部尚書の王珪を魏王泰の師とした。
太宗は尚書左僕射の房玄齡に語って言った。

「古来より帝王の子は、深宮に生まれ、人情を知らず、皆おごりたかぶり、放逸に流れる。だからこそ、敗れる者が相次ぎ、自力で立つ者は少ない。

私はいま、子弟を厳しく戒めて、皆が安らかに過ごせるようにしたいと思っている。王珪は私の長年の配下で、その剛直さと忠孝の心をよく知っている。彼に王子の師を務めさせよう。

おまえ(房玄齡)は魏王泰に告げよ。王珪に対面するたびに、私に会うと思って敬意を払い、決して怠ってはならぬ」。

王珪もまた、自らを師道の者として振る舞った。時の人々もこれを良しとした。


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ)

  • 貞観十一年、王珪を魏王泰の師に任命した。
  • 太宗は房玄齡に言った。
  • 「帝王の子というものは深い宮殿で育ち、世間を知らず、誰もが傲慢でだらしなくなる。
  • そのため、次々と没落し、自分の力で立てる者は少ない。
  • わたしはいま、子弟を厳しく戒めて、皆が安定して過ごせるようにしたい。
  • 王珪は長年わたしに仕え、剛直で忠孝に厚いことをよく知っている。
  • 彼を師として適任と見なす。
  • おまえは魏王泰に伝えよ。王珪に会うときは、わたしに会うと思い、礼を尽くして敬意を示すように、と。
  • 決して怠ってはならない」。
  • 王珪も、師としての自覚を持って接した。
  • 当時の人々も、この任命を善しとした。

4. 用語解説

  • 魏王泰:唐の太宗の子。李泰。皇太子争いの渦中にいた人物。
  • 王珪(おうけい):剛直で知られる重臣。唐の初期に太宗の信頼を得た。
  • 深宮:宮中の奥深く、外界と隔絶した環境。
  • 驕逸(きょういつ):傲慢で怠惰なこと。
  • 師道:教育者・指導者としての道。師徳を重んじる態度。
  • 如見我面:王珪に会うときは「私(太宗)に会うつもりで」という比喩的表現。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

太宗は、皇子たちが深宮で育つことによって現実から乖離し、傲慢で自律心を失いやすいことを憂慮していた。そのため、魏王泰の教育を強化するため、忠誠心と剛直さに定評のある王珪を師に任命した。太宗は、魏王泰に対し「王珪に接するときは、自分(太宗)に接するつもりで礼を尽くすように」と特別に命じている。この言葉は、教育者への敬意がそのまま父王への忠誠に通じるという、太宗の教育理念を表している。


6. 解釈と現代的意義

この逸話は、指導者が自らの子弟に対し厳格な教育と正しい人材配置を行うべきであるという教訓を示している。

特に注目すべき点は、次の二点:

  • 自分が見守れない分、信頼できる代理者を配置する
     → 太宗は王珪を「自身の代わり」として機能させるよう明言しており、これは「信任によるマネジメント」の一つの型である。
  • 帝王教育は制度ではなく、師の人間性で決まる
     → 家庭環境や待遇よりも、「誰に学ぶか」が人格形成の鍵であると認識されている。

7. ビジネスにおける解釈と適用

  • 若手幹部や後継者にメンターをつけることの重要性
     → 専門知識だけでなく、道徳観や責任感を育てることができる指導者を配置する。
  • 「社長が言うより、直属の上司が見ている」意識の醸成
     → 教育担当に「経営者の代弁者」という意識を持たせ、本人にもそれを理解させる。
  • 驕りと逸脱を防ぐには、厳しさと敬意の両立が必要
     → 権威ある教育者が、謙虚さを育む。

8. ビジネス用の心得タイトル

「師を敬うは主を敬う――人を正すは人によって」


この一章は、太宗の「制度だけでなく、人によって徳を育てる」という統治哲学が鮮やかに表れており、現代のリーダーシップや教育制度にとっても極めて示唆に富む内容です。

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