誰が見ても正しいとされる意見には、私的な感情や都合で異を唱えるべきではない。
もし私情で反対すれば、それは後の世まで恥とされる行為となる。
また、権力と私欲にまみれた人々の場に近づいてはいけない。
一度でも関係を持てば、それだけで一生の汚点となる。
公正を守ることは、徳を保つことである。
そして、利欲の場から距離を置くことは、身を清く保つことである。
正義と清廉――これを貫ける人が、真に信頼される人となる。
原文(ふりがな付き)
公平(こうへい)正論(せいろん)には、手(て)を犯(おか)すべからず。一(ひと)たび犯(おか)せば則(すなわ)ち羞(はじ)を万世(ばんせい)に胎(のこ)す。権門(けんもん)私竇(しとう)には、脚(あし)を着(つ)くべからず。一たび着(つ)くれば則(すなわ)ち終身(しゅうしん)を点汚(てんお)す。
注釈
- 公平正論:誰もが認める正当で公正な意見・判断。道理にかなった主張。
- 手を犯す:ここでは「反対する」または「手を出す」「歪める」の意。道理に反して行動すること。
- 羞を万世に胎す:一度の誤りが、長く後世に恥として語り継がれる。
- 権門私竇(けんもんしとう):権力や私利私欲を貪る人々の集まり。腐敗した権力層。
- 脚を着く:足を踏み入れる、関係を持つ。距離を取るべき対象に近づくこと。
- 終身を点汚す:一生にわたって自らの名や人格を汚すこと。
パーマリンク(英語スラッグ)
respect-righteousness
(正しきものを尊ぶ)shun-corrupt-power
(腐敗に近づくな)principle-over-politics
(義を私情に優先せよ)
この条文は、「義」と「私欲」の間で揺れる心に対し、自らを貫く清廉さを教えています。
短期的な損得で動くことなく、長い目で見た「信用」を築くこと――それが個人としての尊厳を守る道であると、菜根譚は静かに説いています。
1. 原文
公平正論、不可犯手。一犯則貽羞萬世。
權門私竇、不可着脚。一着則點汚終身。
2. 書き下し文
公平正論には、手を犯すべからず。一たび犯せば、すなわち羞(はじ)を万世に貽(のこ)す。
権門私竇には、脚を着くべからず。一たび着けば、すなわち終身を点汚(てんお)す。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ)
- 公平正論には、手を犯すべからず。
→ 公正で正しい主張や道理に対しては、手を加えてはならない。 - 一たび犯せば、すなわち羞を万世に貽す。
→ それを一度でも犯せば、その恥は後世にまで残るだろう。 - 権門私竇には、脚を着くべからず。
→ 権力者の裏口・私的な通路に足を踏み入れてはならない。 - 一たび着けば、すなわち終身を点汚す。
→ 一度でも関わってしまえば、一生その名を汚すことになる。
4. 用語解説
- 公平正論(こうへいせいろん):公正で道理にかなった正しい考え・主張・原則。
- 犯手(はんしゅ):手を出す、手を加える、干渉する。ここでは「ねじ曲げたり利用したりする」意。
- 貽羞萬世(いしゅうばんせい):後世にまで恥を残すこと。「万世」は永遠、「羞」ははじ。
- 權門(けんもん):権力のある門閥・上級階級・権力者の家。
- 私竇(しとう):裏口、非公式な抜け道、便宜をはかる秘密の通路。
- 着脚(ちゃっきゃく):足を踏み入れる、関与する。
- 點汚終身(てんおしゅうしん):一生の汚点となること。名誉に汚れがつく。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
公正で正しい原則には、私欲や手段をもって干渉してはならない。それを一度でも犯せば、その恥は永遠に残る。
また、権力者の裏道や便宜供与に足を踏み入れてはならない。それを一度でも行えば、一生にわたって名誉を汚すことになる。
6. 解釈と現代的意義
この章句は、「正義と権力の扱い方」に関する厳格な倫理観を示しています。
- 正論に私欲を混ぜるな:正しい理念や制度を、自分の都合や利益で歪めれば、その影響と恥は長く残る。
- 権力の甘言や抜け道に関わるな:一度でも権力の裏側に触れれば、自分の名誉と信頼は汚される。
つまり、「信義と独立性の保持」が、長期的な名誉と徳の根本であるという警句です。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
● 「ルールや原則に“例外”を持ち込むと、信頼が失われる」
たとえば社内制度や公平な評価制度に、身内びいきや忖度を加えると、それは一見些細なことでも後々まで信頼を損なう。
● 「不正な便宜、裏ルートに“足を着けるな”」
顧客への裏取引、コンプライアンス違反、袖の下──それらに一度でも関わると、信用回復は極めて困難。
“1回だけ”のつもりが一生の汚点になりうる。
● 「真に信頼される人間は、“中立”を守る者」
組織や社会で真に信頼される人は、「正論に忠実で、裏の力に迎合しない」人物である。
短期の利益より、“清廉な姿勢”が最強のブランドになる。
8. ビジネス用の心得タイトル
「正論に手を加えるな、権力の裏に近づくな──信頼は清廉さに宿る」
この章句は、現代社会においてますます重要となる**「倫理・透明性・正道」**という価値観を貫く名言です。
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