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自分の相手の見方次第で相手も変わる

相手の心は、こちらの姿勢に応じて映し返される

孟子は斉の宣王に、主従関係の本質を端的に説いた。
君主が臣下をどう見て接するかによって、臣下の君主への向き合い方も大きく変わる。
手足のように大切に扱えば、腹心のように心を尽くしてくれる。犬馬のようにこき使えば、通行人のように無関心になる。ましてや、土くれやごみのように扱えば、敵意をもって仇のように報いられるだろう――と。

この言葉は、主従関係に限らず、組織や家庭、あらゆる人間関係に通じる。人は、自分がどう扱われているかに応じて、心を開きも閉じもする。相手を信じ、尊重することからこそ、信頼は生まれる。


原文(ふりがな付き)

孟子(もうし)、斉(せい)の宣王(せんのう)に告(つ)げて曰(いわ)く、
君(きみ)の臣(しん)を視(み)ること手足(しゅそく)の如(ごと)くなれば、則(すなわ)ち臣(しん)の君(きみ)を視(み)ること腹心(ふくしん)の如し。
君(きみ)の臣(しん)を視(み)ること犬馬(けんば)の如くなれば、則(すなわ)ち臣(しん)の君(きみ)を視(み)ること国人(こくじん)の如し。
君(きみ)の臣(しん)を視(み)ること土芥(どかい)の如くなれば、則(すなわ)ち臣(しん)の君(きみ)を視(み)ること寇讎(こうしゅう)の如し。


注釈

  • 手足(しゅそく):自分の身体のように大切な存在。信頼・一体感を表す比喩。
  • 腹心(ふくしん):内臓や心。最も信頼できる中心人物の意。
  • 犬馬(けんば):こき使うだけの下僕。労働力としてしか見ていない。
  • 国人(こくじん):無関係な第三者。路傍の人。関心の薄さを表す。
  • 土芥(どかい):土くれやごみのように、価値のない存在とみなす意。
  • 寇讎(こうしゅう):仇、敵。相手を害そうとする存在。

心得の要点

  • 自分が相手をどう見るかが、相手の心を決める。
  • 尊重すれば、信頼が返ってくる。蔑ろにすれば、敵意が返る。
  • 支配や従属ではなく、信義と人間性に基づいた関係こそが持続する。
  • 組織を率いる者ほど、この関係性の根本を理解し、実践すべきである。

原文:

孟子告齊宣王曰:
君之視臣如手足,則臣視君如腹心;
君之視臣如犬馬,則臣視君如國人;
君之視臣如土芥,則臣視君如寇讎。


書き下し文:

孟子(もうし)、斉(せい)の宣王(せんおう)に告(つ)げて曰(いわ)く、
君(きみ)の臣(しん)を視(み)ること手足(しゅそく)のごとくなれば、
則(すなわ)ち臣の君を視ること腹心(ふくしん)のごとし。
君の臣を視ること犬馬(けんば)のごとくなれば、
則ち臣の君を視ること国人(こくじん)のごとし。
君の臣を視ること土芥(どかい)のごとくなれば、
則ち臣の君を視ること寇讎(こうしゅう)のごとし。


現代語訳(逐語/一文ずつ訳):

  • 「孟子、斉の宣王に告げて曰く」
     → 孟子は、斉の宣王にこう言った。
  • 「君の臣を視ること手足のごとくなれば、則ち臣の君を視ること腹心のごとし」
     → あなた(君主)が家臣を手足のように大切にすれば、家臣はあなたを心臓のように大切に思うだろう。
  • 「君の臣を視ること犬馬のごとくなれば、則ち臣の君を視ること国人のごとし」
     → あなたが家臣を犬や馬のように扱えば、家臣はあなたを単なる一般国民の一人として見るだろう。
  • 「君の臣を視ること土芥のごとくなれば、則ち臣の君を視ること寇讎のごとし」
     → あなたが家臣を土くれや草のように軽んじるなら、家臣はあなたを敵のように見るようになるだろう。

用語解説:

  • 手足:自分の体の一部、つまり欠かせぬ存在としての比喩。信頼と一体感を象徴。
  • 腹心:心の内にあるもの。忠誠心を込めた「主君への親愛と忠誠」の比喩。
  • 犬馬:人に仕えるが尊重されない存在。使い捨てのように扱われる例え。
  • 国人:同じ国に住む一市民。上下関係も忠誠心もない、無関係な相手。
  • 土芥(どかい):道端の土くれや枯草。無価値で軽んじられるものの象徴。
  • 寇讎(こうしゅう):敵・仇。深い憎しみを込めた対立相手。

全体の現代語訳(まとめ):

孟子は斉の宣王にこう言った。
「あなたが家臣を自分の手足のように大切にすれば、家臣もあなたを自分の心の中のように大切にします。
しかし、もし犬や馬のようにただの使用物として扱えば、家臣はあなたを赤の他人のようにしか見なくなります。
ましてや、土くれのように侮れば、家臣はあなたを敵とみなすようになるでしょう。」


解釈と現代的意義:

この章句は、主従関係・上下関係の本質は“相互尊重”にあるという孟子の哲学を端的に示しています。
一方が一方をどう見るか――それが、そのまま相手の反応として返ってくる。つまり**「敬意は敬意を呼び、侮りは敵意を生む」**ということです。

これは単なる道徳論ではなく、権力者にとっての自己防衛でもあり、組織維持の鉄則でもあります。
強制による統治ではなく、信頼による結束こそが組織の安定と繁栄をもたらす、という政治的かつ人間的な原理を表しています。


ビジネスにおける解釈と適用:

  • 「信頼はリーダーから始まる」
     社員や部下を“ただの労働力”としてではなく、“共に働く仲間”として扱えば、彼らもまた会社や上司に忠誠心を持つ。
     信頼・敬意は鏡のように返ってくる。
  • 「使い捨ての扱いは、組織崩壊の原因になる」
     短期の成果だけを求め、スタッフを「犬馬」や「土芥」のように酷使すれば、忠誠ではなく離反・告発・退職へとつながる。
     リーダーが“人をどう見るか”が、組織の空気を作る。
  • 「敵を作るリーダーの共通点:部下を侮る」
     軽視や無関心は、無言の敵意として返ってくる。最悪の場合、外部の敵より内部の不満から組織が壊れる。

ビジネス用心得タイトル:

「敬意なき関係に、忠誠は生まれず──人を“手足”と見る眼が、組織の命を守る」


この章句は、リーダーシップ研修や管理職教育において極めて重要な示唆を与えます。

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