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正しいものがゆがめられ、悪が力を持つことを憎む

孔子は、「邪(よこしま)」が「正(ただしさ)」を覆い隠す現象を強く憎んだ
それは、表面的には美しく見えても、本質を損なう危険な兆しである。

その例として挙げられたのが三つ:

  1. 紫(むらさき)が朱(あか)を奪う
     → 紫は間色(まじりもの)であるのに、正色である朱よりももてはやされるような状況を批判。
      見た目の華やかさが本物の価値を押しのけることへの警告。
  2. 鄭の音楽が雅楽を乱す
     → 派手で享楽的な鄭の音楽が、伝統的で節度ある雅楽に取って代わることを嫌った。
      正統な文化や精神が軽薄な流行に押し流されるのを嘆く。
  3. 利口な者が国家を覆す
     → 言葉巧みに正義をねじ曲げ、国を混乱させる者を憎む。
      弁舌や小賢しさが真理をねじ伏せる風潮を批判。

孔子のこの教えには、「本質を見極めよ」「軽薄なものに流されるな」「正しさを大切にせよ」という一貫した姿勢が込められている。


子(し)曰(のたま)わく、紫(し)の朱(しゅ)を奪(うば)うを悪(にく)む。鄭声(ていせい)の雅楽(ががく)を乱(みだ)すを悪む。利口(りこう)の邦家(ほうか)を覆(くつがえ)す者(もの)を悪む。

現代語訳:
孔子は言った。「間色の紫が、正色の朱の価値を奪ってしまうのが憎い。
鄭の派手な音楽が、伝統ある雅楽を乱すのが憎い。
口がうまくて、言葉で国を混乱させるような者が憎い」。


注釈:

  • 紫(し):間色(混色)の象徴。華やかだが正統性を欠くもの。
  • 朱(しゅ):赤。正色のひとつ。孔子が好んだ「まっすぐな色」。
  • 鄭声(ていせい):鄭の国の音楽。派手さや享楽性があり、雅楽の精神を乱すとされた。
  • 雅楽(ががく):周礼に基づく厳粛な音楽。精神と秩序を尊ぶ文化の象徴。
  • 利口(りこう):弁が立ち、口先だけで真理を曲げる者。
  • 邦家(ほうか):国家。ここでは社会全体や統治の秩序を意味する。

原文:

子曰、惡紫之奪朱也。惡鄭聲之亂雅樂也。惡利口之覆邦家者。


書き下し文:

子(し)曰(い)わく、
「紫(むらさき)の朱(あか)を奪うを悪(にく)む。
鄭声(ていせい)の雅楽(ががく)を乱すを悪む。
利口(りこう)にして邦家(ほうか)を覆(くつがえ)す者を悪む。」


現代語訳(逐語/一文ずつ訳):

  1. 孔子は言った:「紫色が赤の美しさを奪うのを嫌う。」
  2. 「鄭国の派手な音楽(鄭声)が、正しい音楽(雅楽)の調和を乱すのを嫌う。」
  3. 「口達者な者が、国や家を滅ぼすことを嫌う。」

用語解説:

  • 紫(し):濃い色。もとは貴重な色ではなかったが、鮮やかで目立つために人気が出た色。孔子にとっては「朱(赤)」の本来の格式を乱すもの。
  • 朱(しゅ):格式と威厳を持つ、儒教における伝統的・正統的な赤色。
  • 鄭声(ていせい):鄭という国の音楽で、快楽主義的・感情過多・装飾的とされ、儒教が尊ぶ雅楽(正しい礼楽)とは対極にある。
  • 雅楽(ががく):礼と調和を重んじた伝統的で節度ある音楽。人格形成の基礎とされた。
  • 利口(りこう):口が達者、弁が立つこと。ここでは「言葉巧みに人を惑わす者」への批判。
  • 邦家(ほうか):国家・家(組織・共同体)を意味する。

全体の現代語訳(まとめ):

孔子はこう言った:

「紫色が赤の本来の美しさをかすめ取るのを嫌う。
鄭の音楽のように、派手で浮ついたものが正しい音楽の秩序を乱すのを嫌う。
そして、口がうまいだけで誠実さのない者が、国家や家族を滅ぼすのを嫌う。」


解釈と現代的意義:

この章句は、「本質を見失わせる表面的な魅力」への批判を通して、伝統・節度・誠実さの価値を説いています。

  • 紫が朱を奪う → 本来の価値が、派手な見た目にかき消される
  • 鄭声が雅楽を乱す → 快楽主義が節度や秩序を壊す
  • 利口が家を覆す → 言葉巧みなだけの人物が、組織や社会を壊す

孔子は、「見栄え・快楽・弁舌」ばかりを追い求める社会の風潮に対して、「内面の誠実さ・調和・徳」を重視する姿勢を明確に示しています。


ビジネスにおける解釈と適用:

「見た目や流行に流されるな、本質を守れ」

  • 鮮やかなプレゼンや表面的な成果が、長期的価値や信頼を覆い隠していないか。
  • 本来の理念・品質・誠実さを「紫」が奪っていないか、点検が必要。

「過剰なエンタメは、文化と制度を破壊する」

  • 楽しいだけ、耳障りがよいだけの文化は、一時の快楽をもたらしても、組織の質を下げる危険性がある。
  • 楽しさと節度、革新と秩序のバランスを重視すべき。

「言葉巧みに惑わされず、“行動の誠実さ”を評価せよ」

  • 弁の立つ人物がリーダーになった結果、組織が空中分解する例は少なくない。
  • 言葉より、実行・誠実・徳のある人物を重視する組織評価が必要

ビジネス用心得タイトル:

「本質を奪う華美を嫌え──派手な言葉より、節と誠が組織を守る」


この章句は、現代のマーケティング社会、言葉偏重文化、エンタメ優位の風潮に対しても鋭い批評性を持ちます。


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