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繰返し業務を標準化する

会社では多くの人々がさまざまな業務に取り組んでいる。その大半は繰り返し行われる仕事であり、繰り返しの中には一定の法則性が存在する。この法則性を見つけ出せば、業務の標準化が可能になる。

標準化の概念は、テーラーの科学的管理法における「鉄材運びの研究」や「シャベル作業の研究」、さらにギルブレスの動作研究での「煉瓦積みの研究」に端を発している。これらの研究が、効率的な作業手順の確立や改善に向けた基盤を築いた。

ある作業を行う際に、最適な条件を見つけ出し、それを「標準作業法」として全員に適用するという考え方に基づいている。

ギルブレスの言葉を借りれば、「唯一最善の方法」に行き着くということだ。つまり、定められた条件下で行われる作業には「最良の方法はただ一つしかない」という考えを指している。標準化の最大の利点は、未熟練者であっても熟練者と同等の成果を上げられる点にある。

かつて生産技術者や管理職として標準化を推進し、実践してきた経験から、そのメリットを実感している。

この標準化の思想は、日本において製造作業にはある程度導入されたものの、それ以外の繰り返し作業にはほとんど適用されていないのが現状だ。わずかな例外として、「JIS工場」における社内規格の中に、その一部が見られる程度にとどまっている。

標準が存在しないため、作業者は各自が自分なりのやり方で仕事を進めている。その結果、頼れるのは個人の経験による習熟や工夫だけだ。だからこそ、その作業者が辞めてしまうと、「やっと慣れてきたのに……」という事態が繰り返されることになる。

この状況が繰り返される限り、会社の仕事は質的にも量的にも一向に向上しない。これほど無駄で愚かなことはない。その上、こうした問題は直接的にも間接的にも顧客サービスに悪影響を及ぼす。

標準化の真の必要性は、単に時間やコストの削減にとどまらず、顧客サービスの向上にこそあると言える。一度標準が定められれば、その仕事が続く限りメリットは持続する。新人に仕事を教える際も、この「標準」を教えるだけで済むため、即座に正確な作業が可能となり、わずか三日もすれば一人前として仕事をこなせるようになる。

標準化は、会社内のあらゆる繰り返し作業を対象にできるが、全ての作業を標準化する必要があるわけではない。標準化すべきかどうかは、その作業の重要性や効率への影響度によって判断すべきだ。

標準化は、「これだけは標準化しておくべきだ」という必要性を経営者や管理職が強く感じた業務から優先的に進めるべきだ。全てを一度に行うのではなく、重要性の高い作業を対象に絞って着手するのが現実的で効果的だと言える。

その他の標準化は、社員の対応に冷や汗をかいた経験や、顧客からのクレームが発生したケース、繰り返し起きるトラブルなどをきっかけに、その都度対応していけばよい。それらを一つずつ改善し、標準化することで、徐々に全体の質を高めていくことができる。

また、標準化を進める際に初めから完璧を目指そうとすると、かえって進まない。最初は不完全でも構わないから、とにかく形にすることが大切だ。その後、実際に運用しながら改善を重ね、徐々に完成度を高めていけばよい。

標準には二つの種類が考えられる。一つは、特定の業務処理を標準化した「規定」に類するものであり、もう一つは、特定の職務に携わる人のための「手引き」に類するものである。まずは、業務処理を標準化する「規定」について考えてみよう。

この中には、従来から「職務分掌規定」と呼ばれるものが存在する。それぞれの部門が担当すべき職務を定めたものだ。しかし、これが実務において全く役に立たないことは、既に述べた通りである。

繰り返し作業を効率的に進めるには、部門に焦点を当てるのではなく、「繰り返し作業」そのものに焦点を当てるのが正しいアプローチだ。作業のやり方自体に注目するので、どの部門が担当するか、誰が実施するかといったことは重要ではない。では、仕事そのものに焦点を当てた「標準作業法」とでも呼ぶべきものがどのようなものかについて、次に説明する。

仕事のやり方を決めることの重要性を示す具体例として、N社のケースを挙げよう。この会社は鋼製椅子のメーカーで、高級椅子には物品税が課されていた。この物品税は毎月税務署に申告し、同時に納税する必要があった。しかし、申告を忘れたり怠ったりすることが多く、税務署から叱責を受けるのが常だった。

このように、毎月一度必ず繰り返される業務でありながら、非効率が目立つ状況だった。そこで、この業務を標準化することにした。

私は税務署に出向き、申告の手順を詳しく教わったうえで、この業務を標準化することにした。まず、「物品税申告台帳」として大学ノートを準備した。ノートの表紙の裏には「物品税申告要領」を貼り付け、裏表紙の裏には簡易的なポケットを作り、そこに物品税申告用紙を保管する仕組みにした。

以下は、物品税申告要領の概要である。当時の記憶をもとにしているため、多少の誤差があるかもしれないが、処理規定の具体的な要領は十分に理解できるだろう。このように、手順を具体的かつ分かりやすく示すことが標準化では重要だ。


物品税申告要領

  1. 物品税申告台帳の作成と記入
    毎日の売上伝票を経理係から借りて、台帳に所定の内容(日付・品名・数量・単価・金額)を記入する。記入が終わった伝票には備考欄の右端に①の印を押して経理係に返却する。
  2. 月次作業
    毎月1日、前月の台帳を確認し、単価8,000円(当時の課税点)以上の商品について品名欄の頭に赤鉛筆で○印をつける。その後、集計金額を所定の欄に記入する。
  3. 申告と納税
    毎月2日(一部例外として1月と5月は7日)までに、物品税の申告と納税を同時に行う。
  4. 申告用紙の記入
    台帳裏表紙裏のポケットから物品税申告用紙(様式第××号)を2枚取り出す。残りが3枚以下であれば、税務署から10〜20枚補充する(無料)。用紙は黒カーボン紙で複写し、以下の項目を記入する。
  • 類別欄: ×××
  • 種別欄: ×××
  • 課税額欄: 台帳の課税額の集計金額
  • 税額欄: 課税額×税率(××%)
  • 納税額欄: 税額欄の金額の百円未満を切り捨てた金額
  • 年月日欄: 納税日
  • 社名欄: 横書社名印と角型社印を捺印する。
  1. 上司の確認と納税準備
    申告書は上司の検印を受け、金銭出納係から納税金を受領する。
  2. 申告と納税手続き
    ○○税務署の×番窓口に申告書2通と納税金を提出する。受領印を押された申告書(副)は経理係に提出する。

このように、業務の標準化では、具体的で分かりやすい手順書を作成することが鍵となる。業務に携わる人が迷わず進められるよう、誰でも理解できる形に仕上げることが重要だ。

この規定を申告担当の女子事務員に示し、手順を一つひとつ説明した。実際に申告書を作成して見せ、その後〇〇税務署へ連れて行き、納税の手続きも実演した。そして最後に、「来月からこの仕事はあなたの担当だから、よろしく頼むよ」と仕事を正式に引き継いだ。

翌月の申告では、女子事務員が一箇所だけ分からない点を質問してきた。それを教えたところ、問題なく納税手続きを完了することができた。それ以降、物品税に関する業務はスムーズに進み、一切の問題が解消された。

後日、S社を訪問した際、経理課長から「物品税の件で、税務署からの立入調査が10日も続いていて、全然仕事が進まず困っている」とぼやかれたことがある。この会社は従業員が千人規模で、経理部にも10名以上のスタッフがおり、しかも全員が大学卒の優秀な人材だった。それにもかかわらず、このような混乱が生じていたのは、大学卒が無能だからではなく、明確な処理規定がなく、担当業務もきちんと決まっていないためだったのである。

会社の仕事は、一つ一つの作業の積み重ねで成り立っている。それぞれの作業がスムーズに処理されることこそが、無用な混乱を防ぐための基本条件だ。伝票の書き方、帳簿の記入方法、報告書の作成方法といったデスクワークの基本的な作業から、まず標準化を進めるべきである。

次に取り組むべきは、電話応対、発信・受信文書の処理、資料整理といった個別の活動や作業の処理要領だ。その範囲をさらに広げ、受付業務、電話交換、検査業務、配送業務といった業務全般、さらにはホテルのメイドによるルームメイキングや、ゴルフ場でのキャディ業務、カウンター業務など、必要性を感じた仕事のやり方を標準化していく。そして、それらを明文化した「マニュアル」としてまとめることで、業務の一貫性と効率性を高めることができる。

必要性とは、クレーム、不良品の発生、仕事の遅れなどのトラブルが起き、「この状況を放置するわけにはいかない」と感じた場合のことを指すと考えればよい。特にトラブルも起きていない業務については、無理にマニュアルを作る必要はない。標準化は問題解決の手段であり、優先すべきは課題が明確な部分である。

必要性の中で最も重視すべきは、顧客サービスに関わる部分だ。どんなに些細なことでも、顧客に対するサービスに関する問題は決して無視してはならない。それが小さな改善であっても、顧客の満足度に直結する領域こそ最優先で取り組むべきである。

以上の内容で留意すべき点は、伝票、帳簿、報告書などの書類に関しては、すべて詳細に規定することが可能だということだ。しかし、業務のマニュアルに関しては、すべてを規定することは現実的に不可能である。業務は状況や個々の判断が求められる部分も多いため、必要性の高い部分に限定して標準化を進めることが重要である。

そのため、これらの規定には必ず次のような項目を盛り込む必要がある。
「ここに規定されていないことでも、常識で判断してやるべきだと考えられることは実施しなければならない。また、突発的な事態や対応に迷う場合は、必ず速やかに上司に報告し、指示を仰ぐこと。」

この一項を加えることで、規定がカバーしきれない状況にも柔軟に対応できる仕組みが整う。

管理職の業務の標準化は、末端業務の標準化とは異なり、判断力を求められる場面が多いため、一律に標準化しようとすると弊害が生じることがある。特に上級管理職になるほどこの傾向は顕著である。

実際のところ、私は係長以上の役職については業務を標準化しない方が良いと考えている。管理職には、責任感と常識に基づいて自ら判断し、業務を遂行する能力が求められる。もしそれができないのであれば、管理職としての資格はないと言える。標準化に頼るのではなく、判断力やリーダーシップを磨くことが、管理職にとって最も重要な要素だ。

せいぜい製造部門の主任や職長クラスについては、最低限の業務内容を箇条書きにした簡単なリストがあれば十分だと考えている。これらはあくまで基本的な業務に限定したものであり、その他の業務に関しては、責任感と常識に基づいた行動と判断が重要であることを明記しておくべきである。このバランスが取れていれば、現場の管理職が自律的に職務を遂行できるようになる。

外部環境の変化に対応し、会社の本来の使命である顧客サービスを全うするためには、規定がかえって妨げになる場合があることを忘れてはならない。規定に縛られることで、迅速な判断や行動が遅れ、機会を逃してしまう可能性がある。状況に応じて柔軟に対応し、必要であれば規定を超えて行動を起こすことが求められる。

判断が時に誤ることもあるだろうが、それを過度に責めるべきではない。責めることで、管理職や従業員は自ら判断して行動する意欲を失い、何事も上司の指示を仰ごうとするようになってしまう。これでは組織の柔軟性やスピードが損なわれる。判断を誤った場合でも、その背景を理解し、次に活かせるような指導を行うことが重要だ。自律的な行動を促す環境こそが、会社全体の成長につながる。

このような状況になると、当然のことながら本人の成長は期待できない。それだけでなく、上司は部下への指示出しに追われ、自分の本来の業務に手が回らなくなる。そして、この影響は次第に上層部へと波及し、最終的には社長自身が社内の雑務に振り回されるようになる。こうなれば、会社全体の機能が麻痺し、事業そのものが立ち行かなくなる危険性が高い。これを防ぐためにも、部下の自主性を育て、自ら判断して行動できる組織作りが不可欠である。

だからこそ、誤った判断によって生じた事態は上司が責任を持ってカバーするべきだ。こうしたフォロー体制があることで、部下は安心して積極的に仕事に取り組むことができる。そして、失敗を経験することで学び、成長していく。失敗を許容し、それを成長の糧に変える環境こそ、組織の活力を生む鍵となる。

繰返し業務の標準化についての考え方と実践は、会社内の効率とサービス向上に不可欠です。ここでは、業務を標準化することのメリットと、標準化の適用方法について解説します。

標準化の目的とメリット

  1. 効率の向上:標準化することで、同じ作業を繰り返す仕事に対し、最も効率的な方法が定められ、新人でも短期間で熟練した作業が可能になります。
  2. サービスの安定:業務が標準化されていると、品質が一定に保たれ、特に顧客対応においては安定したサービスを提供できます。クレームやトラブルも減少し、顧客満足度が向上します。

標準化の方法

  • 業務を分解し、流れに焦点を合わせる:業務を職務別に分けるのではなく、繰り返し行われる具体的な作業内容に焦点を当てます。これにより、どの部門や誰が担当するかに関係なく、全員が同じ基準で業務を遂行できます。
  • 具体的な手順書を作成:たとえば、税務申告を定期的に行う場合、その手順を分かりやすく記載し、新人でも対応できるようにします。作業内容を細かく分けて説明することで、ミスや混乱が防げます。
  • 必要に応じて追加・修正する:標準化を一度に完璧にしようとする必要はありません。まずは簡単な手順書を作成し、実際の業務で使用しながら必要に応じて改訂します。

管理職の標準化についての考え方

管理職の仕事は、状況に応じた判断が求められるため、標準化が必ずしも適切でないことが多いです。特に上級管理職では、責任感と常識による判断が重要です。必要に応じて行動することが求められ、規定がかえって判断の自由を阻害する場合もあるため、最低限のガイドラインに留めます。

必要性の判断基準

標準化が必要とされるのは、以下のような場合です。

  • 繰り返し発生するトラブルやクレームがある
  • 重要な顧客対応に支障が生じている
  • 新人教育が負担となっている

必要と感じた業務から標準化し、それを明文化してマニュアル化していくことが望ましいです。

実践的なポイント

  1. デスクワークの標準化:伝票、帳簿、報告書などの書類処理を標準化し、各自が同じ方法で処理できるようにします。
  2. お客様サービスの重要性:顧客に関する業務や接客対応の標準化を優先し、顧客満足度の向上を図ります。クレームやミスの発生しやすい業務は重点的にマニュアル化します。
  3. 失敗をカバーする組織文化:管理職は部下が失敗を恐れず行動できるようにサポートすることが重要です。失敗を責めることなく、適切なフォローを行うことで、管理職の負担が減り、組織全体の成長が促進されます。

繰返し業務の標準化によって、企業の効率やサービスの質が向上し、経営の安定と顧客満足の向上が見込めます。この実践により、会社全体が持続的な発展を遂げることが期待できます。

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