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支払手形を減少させる

企業にとって、支払手形は一見便利な資金調達手段に見えますが、実は経営リスクを高める要因でもあります。ある会社を訪問した際、支払手形が突出して多く、短期借入が少ない状況を目にし、支払手形削減の重要性を強調しました。支払手形を減らすためには計画的な取り組みが必要であり、その戦略をどう実践するかが、企業の財務安定や信用構築に大きく影響します。

目次

1. 支払手形と資金調達リスク

2. 支払手形削減の方法:裾切り法の実践

3. 現金支払いによる信用向上と協力関係の強化

4. 不況期と金融緩和期の資金運用戦略

5. 経理部門との連携と資金運用の方針策定

6. 支払手形ゼロによる安定した経営基盤の確立

ある会社を訪問した際、決算書を拝見すると、支払手形が受取手形と割引手形の合計をはるかに上回る金額である一方、短期借入金はごくわずかしか計上されていなかった。

「なぜこのような形にしているのか」と尋ねたところ、「コンサルタントの先生から『支払手形は金利のかからない資金調達方法だから、借入金をなるべく抑えて支払手形を増やすように』と勧められたのです」との返答だった。

会社は借金によって潰れることはない。しかし、支払手形こそが、会社を倒産の危険にさらす唯一の資金調達手段である。会社の安全を確保することは、社長にとって最も重要な役割の一つであり、そのためには支払手形の削減が必要だ。理想的には、支払手形を「ゼロ」にすることが望ましい。

私は社長に方針を改めるよう提案し、「支手退治」に取り組んでもらった。支払手形が実質的に「ゼロ」になったとき、社長は私に「一倉さん、支払手形がゼロだと、こんなにも清々しい気持ちになるとは思いませんでした」と語った。この感想は、支払手形をゼロにした多くの社長たちが共通して抱くものである。

支払手形をゼロにするには、長期的な視点でじっくりと腰を据えて計画的に進めることが重要である。目標として、支払手形の回転率を年間0.5〜0.3回転程度向上させることは、安定的に利益を上げている会社であればそれほど難しいことではない。これに加えて、不況期におけるスポット戦略と組み合わせて進めていくのが効果的である。

長期的な支払手形削減方法はいくつかあるが、わかりやすいのは「裾切り法」である。まず、大口の支払手形の発行先は後回しにし、全ての支払先に対して、初めは10万円以下の金額を現金払いにする。そして、これを3〜4カ月続けた後、20万円以下を現金払いにし、さらに2〜3カ月続けてから30万円以下といった具合に進めていく。このように段階的に現金払いの範囲を広げていく方法である。

支払手形を減らすための長期的な方法として、わかりやすいのが「裾切り法」である。この方法では、まず大口の支払手形の発行先は後回しにし、すべての支払先に対して初めに10万円以下の支払いを現金払いにする。それを3〜4カ月続け、次に20万円以下を現金払いに、さらに2〜3カ月後には30万円以下を現金払いにする、といった段階的な要領で進めていく。このように少しずつ現金払いの対象を広げることで、無理なく支払手形を減らしていくことができる。

この方法を用いると、「今月は支払いにいくらの現金が必要か」を簡単に計算できるという利点がある。さらに、すぐに支払先の多くが現金払いに移行できる。ここでもパレートの法則が働き、主要な取引先への現金支払いが実現すると、それらの会社からの協力態度が目に見えて良くなっていく。現金支払いの持つ効果の大きさを実感することができるのだ。

このように進めていくと、裾切りの対象となる会社はみるみる減少し、新たに増える現金支払額もごく少額で済むようになる。

そのうち、割引手形が減少し、それに伴って手持ち手形が増えていくという、非常に好ましい状態が訪れる。手持ち手形、いわゆる「見せ金」を持っていることは、実に心強く、銀行も安心する。このような状態を何年か続けていくうちに、不況が訪れることになる。循環不況は必ず起こるからだ。

不況期の前半は「金詰まり」の状態になる。どの企業も在庫資金が必要となり、金利が高くなるだけでなく、銀行も貸し渋りを始める。このような状況が潜在意識の中に深く刻まれ、結果として「在庫恐怖症」になることもあるかもしれない。

不況の兆しは、売上年計グラフを確認していれば、これがない他社よりも3〜4カ月早く気づくことができる。そのため、在庫節減や在庫資金の確保を他社に先がけて行うことが可能だ。こうした状況でこそ、手持手形という「武器」が大いに威力を発揮するのである。

不況は、減産と在庫資金の返済が進むことで底を打つ。不況の前半では、在庫調整の影響で実際の需要よりも生産が少なくなっているが、やがてこの生産量が実需とバランスする段階に到達する。これがいわゆる「景気の底入れ」や「底打ち」と呼ばれる現象である。実需に見合った生産が再開されることで、景気は徐々に回復していく。

景気が回復すると、流通業者は在庫を積み増し、メーカーも原材料の調達を増やすため、景気はさらに上昇する。生産が勢いを増し、やがて実需を上回るようになる。こうして流通在庫とメーカー在庫が一定の限界を超えると、流通業者は買い控えを始める。これが「景気の頭打ち」と呼ばれる状態である。

しかし、メーカーの強気な見通しは過去の売上増加を根拠としているため、増産が続行され、その結果として品物のだぶつきが生じる。こうして、いよいよ本格的な不況が始まるのである。

以上が景気循環の基本的なパターンである。これに加え、農産物の豊作や不作、好況時の過度な設備投資、国際収支の変動、政治的要因(アメリカ大統領選挙に伴う軍備の拡大や縮小)、不況対策の公共事業、そして飛行場や巨大橋、ダムなどの大規模建設プロジェクトが相互に影響し合いながら、景気の動向が決まっていく。

しかし、経営者がこれらの要因すべてに一つ一つ注意を払っていたら、肝心な事業経営がおろそかになってしまうだろう。これらの情報は、新聞や経済誌、景気セミナーなどで把握し、社長の本来の活動を損なわない範囲にとどめるべきである。なぜなら、いくら研究しても景気そのものを変えることはできないからだ。

重要なのは、不景気の初期、中期(底入れ)、回復期の兆候を把握し、それに応じた戦略を持つことである。その戦略の一つとして、支払手形の減少が挙げられる。

不景気の初期段階で在庫調整が進むと、金融が次第に緩やかになっていく。銀行は資金が余るようになり、遊ばせておくのがもったいないと感じ、貸し出しを積極的に行ったり、株式投資に資金を振り向けたりする。これが「不景気の株高」と呼ばれる現象だ。資金の借り手が優位に立つ「借手市場」になり、金利も低くなる。

銀行の決算期が近づくと、支店長までが顧客を訪問して貸付促進に力を入れるようになる。このタイミングこそがチャンスである。この時期に金利を値切って多額の短期借入を行い、それを支払手形の削減に活用するのだ。銀行としても、このような時期には早急な返済を求めないため、短期借入は長期借入よりも金利が安く、有利な条件で資金を活用できる。

支払手形を減らし、割引手形も削減することで、資金繰りの安全性と安定性を高める。さらに、金利が高かった時期に借りた長期借入金を繰り上げ返済し、代わりに金利の低い時期に新たな長期借入を行うことで、金利負担を軽減することができる。

この戦略は、実際に行ってみると予想以上に有利である。しかし、この有利な方法を取らずにいる油断した会社も少なくない。それは経理をすべて経理部門や担当者に任せきりにしている会社である。

経理担当者には妙な習性があり、危険な支払手形の増加には無頓着である一方、安全な借入金が増えることを極度に気にする傾向がある。彼らが嫌うのは「借入金」という言葉やその表記であり、支払手形や割引手形が増えてもほとんど気にしない。しかし、支払手形とは仕入れ先に対する借用証であり、割引手形は受取手形を担保にした銀行借入であるにもかかわらず、この違いが軽視されがちなのだ。

支払手形の削減は、資金運用の観点から見ると、実際には資金構造を健全化するものである。資金繰りとは、発生した借金を精算する後始末的な業務に過ぎない。

社長たる者、この点をよく理解し、資金繰りは経理部門に任せるとしても、資金運用については明確な方針を打ち出し、その実施を経理部門に委ねるべきである。これが本来の経営の在り方である。

そうでなければ、金融緩和時の好機を逃してしまうことになる。支払手形が、車両などの割賦手形を除き、実質ゼロに達した時には、新たな大きなメリットが生まれるのだ。

資材納入業者や下請工場の態度が一変し、非常に協力的になる。たいていのことには二つ返事で応じてくれるようになり、ビジネスの円滑な進行が一層可能になる。

平成2〜3年の深刻な人手不足に見舞われた建設業界においても、工賃金額を現金で支払っていた会社には、協力工場や下請業者が常に最優先で協力してくれた。つまり、そのような会社では人手不足の影響を受けなかったのである。この現金支払いが会社の信用を大きく高め、結果として業績の向上につながった。

銀行は競って融資を申し出てくれるようになり、金利も引き下げてくれる。私の提案で支払手形をゼロにした社長たちは、口を揃えて「支手がないと、こんなにも経営が楽になるとは思わなかった」と話す。これは、倒産の不安が消え、安定した経営が実現できたからである。

まとめ

支払手形を計画的に削減することは、企業の財務構造を健全化し、長期的に安定した経営を実現するために欠かせない戦略です。現金支払いを増やすことで、取引先からの信頼を高め、さらなる協力を得るとともに、金融機関からの優遇条件も得やすくなります。支払手形ゼロを目指した取り組みは、結果として倒産リスクの回避や安定成長につながり、企業が不況期でも強固な基盤を持って前進できる礎となるのです。

支払手形(支手)を削減することは、企業にとって非常に重要であり、特に経営の安全性や信用力の向上に寄与します。以下のポイントに基づいて、支手の減少と資金運用の健全化について考察します。

支払手形の減少方法とメリット

  1. 支払手形の危険性
    支払手形は借金の一種であり、金利が発生する「資金調達手段」です。手形を増やすことは取引先への「支払い約束」を増やすことを意味し、資金繰りの観点からもリスクが大きく、会社の安全性を損ねます。
  2. 裾切り法による支手削減
    小口の支払先から順に現金払いに切り替えていく「裾切り法」が有効です。例えば、まず10万円以下を現金払いとし、しばらく後に20万円以下、さらに次は30万円以下と段階的に現金化していきます。この方法により、少しずつ支手を減少させ、現金払い先が増えるとともに、支手の残高を削減します。
  3. 金融緩和時の借入活用
    金融機関が金利を引き下げて融資を活発にする不況の回復期には、銀行からの借入を活用して支手を減少させます。こうした時期には、短期借入金の金利も低下しており、支手よりもコストが低い融資が利用しやすくなります。このタイミングでの借入金の活用は、資金繰りを楽にするだけでなく、割引手形の必要性も低下させ、資金運用を健全化します。
  4. 割引手形の減少と健全な資金運用
    割引手形は、受取手形を担保にした借入の一種であり、これが減少することで「見せ金」(手持手形)が増加します。手持手形は資金的な安全性を示し、金融機関からの信用を高める材料となります。
  5. 取引先や銀行からの信用増加
    支手がゼロに近づくと、資材納入業者や下請工場からの協力が得やすくなります。支払いに現金が使われる企業には、業者が優先的に協力してくれるため、安定した業務運営が可能になります。また、銀行からも高い評価を受けやすくなり、低金利での融資や追加融資が受けやすくなるメリットがあります。

実践的な経営指針

経理部門に資金繰りを任せるだけでなく、資金運用の方針を社長が決定し、戦略的に支手を削減することが企業の健全化につながります。支手を削減することにより、つぶれるリスクを低減し、長期的な安定経営が実現します。

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