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採用面接には社長の方針を語れ

F社はもともと小規模な単店のスーパーとしてスタートした。開業当初は苦労が続いたものの、努力が実を結び業績が向上。さらなる成長を見据え、従来の縁故採用をやめ、一般募集へと切り替える決断をした。

最初の採用面接で、社長は自ら経営計画書を提示し、その中に込められた会社の方針やビジョンを熱心に語った。その言葉は応募者たちの心に響き、「ぜひこの会社で働きたい」と強く希望する者が二人も現れた。

採用してみると、どちらも非常に優秀な人材だった。そのうちの一人がこう語った。「実は、私は複数の会社に応募していました。しかし、どの会社でも採用試験の際に社長の方針を直接聞く機会はありませんでした。

しかし、この会社では初めて社長の方針を直接聞くことができました。それだけでも感動しましたが、その内容が私の心に深く響きました。社長の方針に共感し、それを実現するために全力を尽くしたいと強く思っています。どうか私を採用してください」――そう言って、自らの思いをF社長に熱くぶつけてきたのだった。

S社は社員数が40名余りの小規模な企業でありながら、その社員たちは皆、一騎当千の強者ばかりだ。毎年新卒の大学生を採用し続けているにもかかわらず、「たまには外れがいてもおかしくない」と思うものの、不思議なことに一人として外れがいないというのだ。驚くべき話である。通常、これほど小さな会社に応募してくる大学卒の中には、外れが混じっているのが一般的だからだ。

その秘密は、大学への募集申し込みにある。通常、企業は会社案内や募集要項といった一般的な資料を送るものだが、S社では一味違う。経営計画書の中から「方針書」を抜粋し、それをコピーして添付するのだ。

この方針書に目を通した学生の中で、優秀な人材ほどその内容に反応し、共鳴を覚える。そして、「この社長のもとで働いてみたい」という思いを抱き、応募してくるのだ。さらに、面接の場では通常の質疑応答ではなく、社長自らが方針を詳しく説明する時間を設ける。これが、優秀な人材を確実に引きつけ、採用につながる大きな要因となっている。

T社では、地域合同採用試験の場で大学卒の応募者が120名集まり、20数社が選考を行った。その中で、T社長が自ら語った方針に心を動かされた応募者はなんと40名にのぼった。全体の約3分の1がT社を志望したことになる。

20数社の中にはT社より規模が大きな企業も含まれていたが、驚くべきことに、それらの企業の志望者数はT社を大きく下回っていたのである。

採用試験の面接は、多くの会社で一方的に質問を投げかける「人物鑑定」のような形になりがちだ。会社側にとっては効率的かもしれないが、応募者にとっては救いのない形式であり、不安や不満を残す場になってしまうことが多い。

応募者の立場からすれば、これから働くことになるかもしれない会社、さらには一生を託すかもしれない会社が「どんな会社なのか」という点は極めて重要な問題だ。しかし、その会社について得られる情報といえば、たいていの場合、会社案内や募集要項といった表面的な資料に限られているのが現状である。

わずかな情報では情報と呼べるほどの内容もなく、会社の実態などまったく分からないというのが現実だ。それにもかかわらず、その状態のまま応募する人の不安や疑問に、社長は思いを巡らせたことがあるのだろうか。さらに採用試験では、会社側からの質問ばかりが続き、応募者に対して会社の具体的な話を伝えることはほとんどないのが一般的だ。

応募者が分かるのは、せいぜい会社の所在地、建物やその内部の様子、そして面接官の顔や雰囲気くらいのものだ。そんな限られた情報しかない中で、仮に採用通知を受け取ったとしても、本当に心から喜びを感じられるだろうか。

新しい人生の第一歩を踏み出す会社に対して、「よし、頑張るぞ」と意欲に満ちた気持ちで入社日を心待ちにすることができるだろうか。その答えは、言うまでもなく「ノー」だろう。

出社初日から不安な気持ちを抱えたまま足を踏み入れることになる。その状況を見れば、「新入社員のことを考えていない」と批判されても、会社側には反論の余地はないだろう。採用通知を出しても辞退される大きな理由の一つが、まさにここにあるのだ。

賢明な社長であれば、応募者に対して自らの経営理念、信念、そして経営方針をしっかりと説明するべきだ。それは単なる情報提供ではなく、応募者に対する責任であり、企業としての誠意を示す行為でもある。

そうすることで、応募者は社長の考えに共鳴し、「この社長のもとで働きたい」と心から決意することができる。さらに、面接後に他社へ応募した友人の話を聞き、他社との比較を通じて、自分の選択に対する確信を一層強めていくのである。

新入社員という貴重な新戦力を迎える際に、社長自ら方針を明らかにし、事前に動機づけを行うことは、社員にとっても会社にとっても大きなプラスとなることは疑いない。その一歩が、双方の信頼関係を築き、会社の発展につながる礎となるのだ。

採用面接で社長が経営方針を語ることは、新入社員の入社動機を高めると同時に、会社と応募者との長期的な信頼関係を築くうえで大変効果的です。以下にその意義と具体的な方法を整理します。

1. 経営方針を共有する重要性

応募者にとって、会社の方針や社長の信念を知ることは、自分の働く未来をイメージしやすくし、「自分はここで活躍できるのか」という判断基準を得る手助けになります。単なる仕事内容や給与条件だけでなく、会社の方向性や理念に共感できれば、入社後の満足度や意欲も高まります。

また、会社側としても、面接の場で方針を明確に示すことで、企業理念に共鳴する人物を見極めやすくなります。採用後のミスマッチを防ぐ意味でも、これは非常に重要です。

2. 面接における経営方針の伝え方

  • 経営計画書の活用: F社のように、経営計画書や方針書を面接で共有することで、応募者に具体的な会社の目標や戦略を知ってもらう方法は効果的です。方針書があれば、それをコピーして応募者に配布し、方針を説明する時間を設けましょう。
  • 方針に基づくエピソード紹介: ただ方針を説明するだけでなく、その方針が社内でどう実践されているか、具体的なエピソードや事例を紹介することで、方針が現場に根付いていることを伝えられます。
  • 応募者の疑問に応える: 方針説明の後には、応募者の質問や意見を受け付ける時間を設けることも重要です。応募者に方針のどこに共感したのか、あるいはどのような疑問があるかを率直に話してもらうことで、応募者の価値観や仕事への姿勢も見えてきます。

3. 応募者のモチベーション向上

社長自らが方針を説明し、その場で経営のビジョンを共有することで、応募者は「この社長のもとで働きたい」という気持ちを強く持つようになります。こうした採用面接の取り組みがあれば、内定後も応募者の入社意欲は高まり、出社日を楽しみに待つような意識改革が期待できます。

4. 社長の方針説明が生む影響

優秀な人材が応募してくるだけでなく、社内のモチベーション向上や一体感の強化にもつながります。採用段階から経営方針に共鳴する人材が集まるため、将来の会社の成長や活力の源にもなり得ます。

社長が経営方針を語る採用面接は、応募者の心に残り、会社との長い関係の第一歩として大変意義深いものになります。

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