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歴史は飾るために非ず、正すために記せ


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華やかさより、誠実な諫言を記録せよ

貞観の初年、太宗は国史の編纂を担当していた房玄齢に対して、歴史のあるべき姿を問うた。
『漢書』や『後漢書』には、楊雄や司馬相如、班固らの書いた華美な賦(詩的散文)が数多く収録されていたが、
それらは「勧善懲悪にも資せず、政治の教訓ともならない」として、実質のない美辞麗句を歴史に記すことを批判した。

太宗の真意は、「歴史は美を競うものではなく、政治の助けとなる真実と教訓を記すべきである」ということである。
そこで、上奏文や意見書のうち、言葉が正しく、理が通り、政治に資するものがあれば、
たとえ君主である自分がその意見を採用しなかったとしても、すべて記録に残すべきだと命じた。

これは、「歴史とは事実の記録であり、権力の美化ではない」という、太宗の歴史観と誠実な政治理念を表している。


出典(ふりがな付き引用)

「楊雄(ようゆう)『甘泉(かんせん)』『羽獵(うりょう)』、司馬相如(しばしょうじょ)『子虛(しきょ)』『上林(じょうりん)』、班固(はんこ)『両都(りょうと)』等の賦(ふ)」
「此(こ)れ文体(ぶんたい)華(はな)やかなるも、勧誡(かんかい)無(な)く、何(なん)ぞ之(これ)を史策(しさく)に載(の)せんや」
「上書(じょうしょ)して事(こと)を論(ろん)じ、詞理(しり)切直(せつちょく)にして、政理(せいり)に裨(たす)くる者(もの)あらば、従(したが)うと否(いな)とに関(かか)らず、皆(みな)載(さい)すべし」


注釈

  • 賦(ふ):韻文と散文を交えた華麗な文学形式。装飾的で内容が空虚なものが多いとされた。
  • 史策(しさく):歴史書・正史のこと。後世に国家や人物のあり方を伝えるもの。
  • 詞理切直(しりせつちょく):言葉と道理が簡明かつ正直であること。真摯な主張を意味する。
  • 裨於政理(ひせいり):政治の道理を助ける、補強する意。政策の参考・助力となること。

パーマリンク(スラッグ)案

  • record-truth-not-ornament(飾りより真実を記せ)
  • history-should-teach(歴史は教訓であるべし)
  • value-of-honest-petitions(誠実な諫言の価値)

この章は、歴史の本質とは、美しい物語ではなく、後世の教訓となる真実の記録であるという、
極めて現代的な「公文書管理・史実尊重の理念」を表しています。
記録とは、支配者の美化ではなく、失敗や忠告を含めて未来への糧とするための行為なのです。

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