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不況期にも戦略はある

不況と好況は循環する経済の宿命であり、多くの経営者は不況期をただ耐え忍ぶものと捉えがちである。しかし、実際には不況期だからこそ実施できる戦略や、逆に不況期に打ち出すことで強みを発揮する施策がある。

ここでは、不況期に適した経営判断や戦略を事例とともに考察し、各企業がどのように効果的な対策を取って成長に繋げたかを紹介する。

目次

不況と好況の循環とその対策

不況と好況は、自由主義経済の特性として循環するものである。

しかし、多くの社長は「不況期に何をすべきか」が分かっておらず、不況は避けられない宿命だと思い込んでいる。

このため、「景気セミナー」は常に人気であり、多くの経営者が軽症で済むのか重症に陥るのか、また不況が長引くのか短期で終わるのかを知りたいと考えている。

多くの経営者は、不況を宿命と捉えつつも、何とかしようと対策を講じる。典型的には、値下げによるダンピングや経費節約、残業規制、外注品の引き上げやパートの削減といった手段に頼る。

また、普段は気にかけていないフォローやメンテナンスを急に始める会社もあるが、こうした取り組みは一時的なものに終わりがちだ。景気が回復し始めると、すぐに元の状態に戻してしまうからである。

大企業が不況期に中小企業の領域に手を出すこともあるが、思いつきに過ぎないため成功する例は少なく、最終的にはぼやきに繋がってしまうことが多い。

一般的な不況対策は、多くの場合効果が薄く、芸のないものに見えてしまう。しかし、本当にそうなのだろうか。不況期には確かに一時的な対症療法的な対応が必要かもしれないが、それだけでは不十分だ。

実は、不景気のときにこそ実行できることや、不況期だからこそ進めやすい戦略が存在する。このような時期を利用した対策こそが本質的に重要であり、次にそれについて詳しく述べていこう。

S社は作業衣の市販品を専門とするメーカーで、支援を開始してから3年が経過していた。

これまでの3年間、過当競争から抜け出すために製品の高級化を徐々に進めてきており、その効果がようやく見え始め、順調に売上と収益性が向上しつつあった。

しかし、3年目に突入した不況の影響で売上は頭打ちの状態となってしまった。

競合他社が猛烈な値下げ競争に突入したため、S社長は対抗して値下げすべきかどうかで迷っていた。

値下げに走れば、泥沼の価格競争に巻き込まれるリスクがあるため、慎重にならざるを得なかったのである。

グラフ分析で見える「占有率の原理」

私への相談は「この状況でどうすべきか」というものであった。

私は、売上の年計グラフを用いた状況判断を勧めた。

S社では、商品別売上高年計グラフと主要得意先別売上高年計グラフを既に作成していたので、まずは得意先別年計グラフの検討から始めることにした。

私はグラフを見ている社長に対し、横からヒントを投げかけた。「この不況下でも売上が上昇している得意先がいますね。一方で横ばいの得意先もあり、下降している得意先もある。このように三つのグループに分け、それぞれのグループに共通する要因があるかどうか、まずそれを検討してみてください」と伝えたのだ。

社長はしばらくグラフを見つめて考え込んでいたが、やがて膝を叩かんばかりの様子で、「分かりました。売上が上昇しているグループは、我が社がナンバーワンの納入実績を持っています。一方、横ばいや下降しているグループは、我が社がナンバーツーか、それ以下の実績しかないグループです」と言ったのだ。

まさに絵に描いたような「占有率の原理」がここにあったのだった。

私は、「社長、この占有率の原理は覆せません。だから、この原理に従った対策を立てるべきです。

不況とは市場全体の需要が減少している状態であり、売上増大を無理に求めるのは、まるで存在しない需要を求めているようなものです。無理に売ろうとするから値下げ競争が激化するのです。

ですから、値下げでの競争は他社に任せ、あなたの会社は、やがて来る景気回復に備えて手を打つべきです」と伝えました。

その対策として、次のような内容を提案しました。

「上昇グループ」に対しては守りを固め、競合が入り込む隙を与えないようにする。

「売上横ばいグループ」については、景気が回復した際にナンバーワンの地位を確保できるよう、今からナンバーワン企業の三倍以上の訪問を重ねることが重要である。

もし可能なら、三倍、四倍とさらに訪問回数を増やすのが望ましい。そして、特に社長自身が積極的に訪問することが欠かせません。

「下降グループ」については、従来の訪問頻度を維持するだけでよい、という対策を提案しました。

高価格商品の開発と不況対策の新戦略

商品別売上年計グラフを確認すると、安価な商品ほど過当競争の影響で売上が大幅に減少していることが一目瞭然でした。

その一方で、特筆すべきは、最近開発した二つの高価格商品が急上昇している点でした。

不況の影響をまるで感じさせない安定した売上を示しており、この分野での高価格品の需要が明らかに強いことがわかった。

私が具体的な対策を申し上げるまでもなく、社長はすぐに「高価格商品の開発を急ぐ」という方針を決断しました。それは、実に理にかなった選択だった。

売上年計グラフが示す方向性があまりに明確だったため、それまでの迷いや不安は一気に払拭された。

ここで付け加えたいのは、不況対策に必要な資金の確保方法についてである。

資金が不足すれば、通常は銀行からの借り入れに頼るものですが、単に「不況で資金繰りが厳しいので貸してほしい」というだけでは、説得力に欠ける。

その際に、売上年計表を持参し、現状分析と具体的な対策を説明することで、銀行側も融資の妥当性を理解しやすくなる。

備蓄戦略とタイミングを見極めた在庫管理

S社では、二年前に実施して大成功を収めた「備蓄戦略」があった。この年は冷夏の影響で夏物作業衣の売れ行きが振るわず、ほとんどの会社で売れ残りが出て在庫が増加してしまった。そこで私は、S社長に競合会社が冬物の準備にどのように取り組んでいるかを調査するよう提案した。これは、各縫製工場の状況を確認するだけで全体の動向がつかめるものである。

調査の結果、どの会社でも冬物の仕入れを控えめにしていることが明らかになった。これは、冷夏で夏物の在庫が増えたことで、在庫を恐れる心理が働いたためである。各社の社長は夏物の在庫過多を見て「在庫を減らせ」という指令を出していた。こうした指令を「社長のトンチンカンな指令」と呼ぶべきもので、状況をよく見極めずに出された指示である。夏物が余ったからといって無差別に在庫圧縮を命じると、冬物の生産も控えざるを得なくなってしまうのだ。

その冬、市場で冬物が不足するのは確実と見られたため、私はS社長に冬物在庫を大胆に増やすよう提案した。S社長はこの助言を受け、思い切って冬物の備蓄を大幅に増加させる決断をしたのだった。

I社の在庫恐怖症を克服した成長の秘訣

その結果、11月頃から冬物の注文が殺到し、出荷が間に合わないほどの状態となった。

これはまさにS社の完勝であった。この成功によってS社に対する仲介業者や取引先の信頼が大いに増し、翌年の夏物の注文も大幅に増加することとなった。

この好機を契機として、S社の成長率は飛躍的に高まり、さらに業績を伸ばしていったのである。

1月になってもなお冬物の生産に追われ、夏物への切り替えが間に合わず、夏物供給に支障をきたすライバル企業を尻目に、S社では12月中に夏物生産への切り替え準備を終え、1月にはすでに夏物生産に移行していた。

その夏の商戦でS社が圧倒的な優位に立ったことは言うまでもない。

この成功を機に、S社は他社の備蓄状況を見極めながら、この備蓄戦略を毎年の恒例とするようになったのである。

I社は鉄骨製造を手がけており、長年低収益の状態に悩まされていた。その原因のひとつが、春から夏にかけての閑散期に稼働率が下がり、収益が落ち込むことだった。閑散期の解消が、低収益から脱出するための最も手っ取り早い方法だったのである。

そこで、I社は「在庫恐怖症」を乗り越えることを決意した。

閑散期にも通常と同様の生産ペースを維持し、需要が増える秋から冬に備えて在庫を積み上げる戦略を導入した。

こうすることで、繁忙期にすぐ対応できる体制を整えたのである。

この備蓄戦略は功を奏し、需要が急増するタイミングで在庫が十分にあることで即座に対応でき、注文に応じた安定供給が実現した。

その結果、顧客からの信頼も増し、I社は業績を大幅に改善させ、繁栄への足がかりを築くことができた。この成功を機に、I社は季節ごとの在庫戦略を年中行う方針を定め、安定した利益を得られる体制を確立した。

I社では、例年9月になると受注が急増し、年度末まで納期遅れや受注辞退を余儀なくされる状況が続いていた。

そこで、「あらかじめ作りだめできるものを製造しておけばいいのではないか」と考え、その対象となる製品があるか確認してみたところ、かなりの数量があることがわかった。

この発見により、閑散期に作りだめを行うことで、繁忙期には余裕を持って顧客の需要に応えられる体制が整った。結果的に、受注の取りこぼしや納期遅延が減り、顧客からの信頼も向上し、I社は着実な成長基盤を築くことができた。

I社が閑散期に作りだめをしない理由について尋ねたところ、在庫金利が大きいからだという。しかし、実際にどれくらいの金利がかかるのかと聞いてみると、計算はしていないとのことだった。

つまり、具体的な計算もせずに「在庫を抱えると金利がかかりすぎる」という固定観念にとらわれ、在庫を持つことを恐れていたのである。

私は社長に、増分計算を行いながら説明をしてみせた。この計算はとても簡単で、在庫を持つことで発生する金利を具体的に示すものだった。

計算してみた結果、実際の在庫金利は、社長が思い込んでいたほど大きくはなく、むしろ非常に少額であることがわかった。

さらに、作りだめを行った場合に得られる経常利益の増加額も明らかになり、社長はその効果に驚いていた。

この計算結果を見て、社長は私の勧告に従い、閑散期に在庫を作りだめする方針を決断したのである。

しばらくして、主要な得意先からI社に対して、在庫の作りだめについて相談したいという話が持ちかけられた。

先方は謙虚な態度で希望する作りだめの数量を提示してきたが、その数は、I社がすでに作りだめを計画している数量の半分にも満たないものであった。

このような状況から、I社の事前の備蓄戦略が功を奏していることが明らかであった。

この作戦はまさに大成功を収め、利益は増大し、お客様も大満足となった。

しかし、それだけにとどまらず、I社への信頼が一層強まったことで、この年はまさに「繁栄の元年」とも言える転機となった。

その後、注文は増加の一途をたどり、I社は予想をはるかに超える繁栄を実現できるようになったのである。

まとめ

不況期の対策として一般的に行われがちな値下げや経費削減だけでなく、企業には不況時にこそ有効な戦略的対応がある。

得意先の売上データや市場の状況を分析して適切な対策を講じ、景気回復に備えることが重要である。

さらに、備蓄戦略や閑散期の在庫管理により、需要が高まった際に迅速に対応する体制を整えることで、長期的な信頼と繁栄の基盤を築くことが可能。

不況期の対策を経営戦略に活かすことで、企業は経済環境に左右されにくい成長を実現できる。

不況期には多くの企業が困難に直面しますが、実はこの時期こそが特定の戦略を実行する好機でもあります。多くの経営者は、不況を宿命と捉え、値下げや経費削減など短期的な対策に頼りがちです。しかし、長期的な視点に立つことで、企業は不況の中でも成長の基盤を築くことができます。

不況期に有効な戦略的アプローチ

1. 得意先別の分析による戦略

  • 占有率の確認:不況期には占有率の高さが売上の安定をもたらします。S社の例では、得意先別に売上の上昇・横ばい・下降をグループ化し、占有率の高さが売上に直接影響していることを確認しました。この分析を基に、ナンバーワンの顧客には守りを固め、横ばいの顧客にはナンバーワンの地位を狙う積極的な訪問を実施しました。

2. 高価格帯商品の開発

  • 不況期には安価な商品ほど価格競争が激化しがちです。S社では、逆に高価格帯の商品を開発することで競争を回避し、独自の市場を築きました。このように、不況期にこそ付加価値の高い製品を打ち出すことで、安定的な売上が期待できます。

3. 備蓄戦略による供給安定化

  • 不況期には在庫管理が重視されるものの、必要以上の在庫削減は販売機会の喪失を招くことがあります。S社はライバルの備蓄状況を調査し、不足が予測される冬物の備蓄を増やした結果、大きな販売機会を得ました。これにより、得意先からの信頼が増し、将来の注文も増加しました。

4. 在庫恐怖症からの脱却

  • I社の例では、春夏の閑散期に製造し、需要が高まる秋冬のピーク時に備蓄していたことが功を奏しました。在庫恐怖症を克服し、増分計算を行うことで実際の金利負担が小さいと判明し、閑散期の時間を有効に活用することができました。この準備によって、得意先からの信頼が増大し、長期的な発展につながりました。

結論

不況期には、対処療法的な対応だけでなく、戦略的な準備や市場の隙間を狙った高付加価値商品へのシフト、顧客信頼を獲得する備蓄戦略などが大きな効果を発揮します。

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