書物を読むときは、まず自分の心を清め、素直な気持ちで向き合うことが何より大切である。
でなければ、たとえ善行を目にしても、それを都合よく利用して自分の利益にしようとしたり、
優れた言葉を聞いても、自分の欠点を覆い隠す道具にしてしまう。
そうなってしまえば、本来学ぶべき善意や叡智が、かえって自己欺瞞や利己の武器に変わってしまう。
これはまるで敵に武器を貸し、盗人に糧を与えるようなもの。
「学び」とは、まず己を整えるところから始まる。書の中にある真理は、素直な心にしか宿らない。
原文とふりがな付き引用
心地(しんち)乾浄(けんじょう)にして、方(はじ)めて書(しょ)を読み古(こ)を学(まな)ぶべし。然(しか)らざれば、一(いち)の善行(ぜんこう)を見(み)ては、竊(ひそ)みて以(もっ)て私(わたくし)を済(すく)し、一(いち)の善言(ぜんげん)を聞(き)いては、仮(か)りて以(もっ)て短(たん)を覆(おお)う。是(こ)れ又(また)寇(あだ)に兵(へい)を藉(か)し、盗(ぬす)びとに糧(かて)を齎(もたら)すなり。
注釈(簡潔に)
- 心地乾浄(けんじょう):心をきれいにし、偏見や私心を取り除いた状態。吉田松陰も「心を虚しくして読むべし」と説いた。
- 私を済す:善行を見て、自分の利益にすり替えること。自己都合の解釈。
- 短を覆う:欠点や短所を、借り物の言葉で隠そうとする姿勢。
- 寇に兵を藉し、盗に糧を齎す:『史記』の成語。善なるはずのものが逆に悪に利用されるさま。いわば利敵行為。
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