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心を澄ませて読む——知を己の欲に染めないために

書物を読むときは、まず自分の心を清め、素直な気持ちで向き合うことが何より大切である。
でなければ、たとえ善行を目にしても、それを都合よく利用して自分の利益にしようとしたり、
優れた言葉を聞いても、自分の欠点を覆い隠す道具にしてしまう。

そうなってしまえば、本来学ぶべき善意や叡智が、かえって自己欺瞞や利己の武器に変わってしまう。
これはまるで敵に武器を貸し、盗人に糧を与えるようなもの。
「学び」とは、まず己を整えるところから始まる。書の中にある真理は、素直な心にしか宿らない。


原文とふりがな付き引用

心地(しんち)乾浄(けんじょう)にして、方(はじ)めて書(しょ)を読み古(こ)を学(まな)ぶべし。然(しか)らざれば、一(いち)の善行(ぜんこう)を見(み)ては、竊(ひそ)みて以(もっ)て私(わたくし)を済(すく)し、一(いち)の善言(ぜんげん)を聞(き)いては、仮(か)りて以(もっ)て短(たん)を覆(おお)う。是(こ)れ又(また)寇(あだ)に兵(へい)を藉(か)し、盗(ぬす)びとに糧(かて)を齎(もたら)すなり。


注釈(簡潔に)

  • 心地乾浄(けんじょう):心をきれいにし、偏見や私心を取り除いた状態。吉田松陰も「心を虚しくして読むべし」と説いた。
  • 私を済す:善行を見て、自分の利益にすり替えること。自己都合の解釈。
  • 短を覆う:欠点や短所を、借り物の言葉で隠そうとする姿勢。
  • 寇に兵を藉し、盗に糧を齎す:『史記』の成語。善なるはずのものが逆に悪に利用されるさま。いわば利敵行為。

1. 原文

心地乾淨、方可讀書學古。不然、見一善行、竊以濟私、聞一善言、假以掩短。是又藉寇兵、而齎盜糧矣。


2. 書き下し文

心地(しんち)乾淨(けんじょう)にして、方(はじ)めて書を読み、古(いにしえ)を学ぶべし。然(しか)らざれば、一(いち)の善行(ぜんこう)を見ては、竊(ひそ)かに以て私(わたくし)を済(すく)い、
一の善言(ぜんげん)を聞いては、仮(か)りて以て短(たん)を覆(おお)わん。是(こ)れ又(また)寇(あだ)に兵(へい)を藉(か)し、盗(ぬすびと)に糧(かれい)を齎(もた)らすなり。


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳す)

  • 心地乾淨、方可讀書學古。
     → 心が清らかであってこそ、初めて読書や古人の学びが意味を持つ。
  • 不然、見一善行、竊以濟私。
     → そうでなければ、他人の善い行いを見て、自分の私利私欲のためにそれを盗んで利用し、
  • 聞一善言、假以掩短。
     → 良い言葉を聞いても、自分の欠点を覆い隠すための道具にしてしまう。
  • 是又藉寇兵、而齎盜糧矣。
     → それはまるで、敵に兵器を貸し与え、盗賊に食料を運ぶようなものである。

4. 用語解説

  • 心地(しんち)乾淨(けんじょう):心が清らかで濁っていない状態。私欲や邪念がないこと。
  • 竊以濟私(ひそかにもってわたくしをすくう):こっそりと他人の善行を自分の利益に転用すること。
  • 假以掩短(かりてもってたんをおおう):「善い言葉を借りて自分の欠点を隠す」。上辺だけ真似て誤魔化すこと。
  • 藉寇兵(こうにへいをかす):敵に武器を貸し与える。
  • 齎盜糧(とうにかれいをもたらす):盗人に食料を与える。
     → いずれも「自ら敵を助け、害を招く愚行」のたとえ。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

心が清らかでなければ、本を読んだり古人の教えを学んだりしても、本質は得られない。
もし心が濁っていれば、善行を見てもそれを自分の私利のために使い、善い言葉を聞いてもそれを借りて自分の欠点を隠そうとするようになる。
それはちょうど、敵に兵器を与え、盗賊に食糧を与えるようなもので、自分に害をもたらすことに他ならない。


6. 解釈と現代的意義

この章句は、「内面の動機の純粋さこそが学びの価値を決定する」という本質的な教えです。

たとえどれほど高尚な知識や善行に触れても、それを自分の評価向上や打算的な目的で利用するなら、結果的にそれは「善を偽装する道具」になってしまいます。つまり、真の学びは“心の純粋さ”があってこそということです。

悪意を持って善を利用する行為は、かえって自分を傷つけ、信頼を損ない、人生の根幹を脅かします。


7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)

▪ 「善行の利用」は信頼を破壊する

社会貢献・SDGs・倫理的消費など、現代ビジネスにも「善のアピール」は多い。しかし、それを自社の利益目的にだけ使おうとすると、顧客や社会は敏感に見抜き、反発することもある。

▪ 心が濁れば、学びも武器になる

リーダー研修や倫理教育を受けたとしても、それを「権威づけ」や「アピール材料」にしか使わない人は、学びを「自己正当化の盾」に変えてしまう。これはまさに「敵に兵を貸す」行為。

▪ 純粋な動機が、言葉と行動に力を宿す

同じアドバイスでも、「相手のために心から言った」か、「自分の立場を良くするために言った」かで、受け取る印象も効果もまったく違う。


8. ビジネス用の心得タイトル

「善を偽るな、学びを濁すな──心が清らかであってこそ、知は力となる」


この章句は、現代においても「見せかけの誠実さ」や「計算づくの倫理」を鋭く戒める言葉です。
ビジネスにおける本当の力とは、**知識や戦略よりもまず“心の動機の透明さ”**から生まれるのです。


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