孟子は、人の行動や志の持ち方について次のように説いている。
やめてはならないときにやめる者は、何に対しても簡単に手を引く。
厚く(大切に)すべきことを薄く扱う者は、すべてを軽んじる傾向がある。
そして、むやみに勢いよく進む者は、退くときもあっという間である。
「孟子曰く、已むべからざるに於いて已むる者は、已めざる所無し。厚くする所の者に於いて薄くするものは、薄くせざる所無し。其の進むこと鋭き者は、其の退くこと速やかなり」
つまり、一見、熱心に見えるような者でも、判断や信念に根ざしていなければ、それは持続せず、やがて急に引いてしまう。
孟子がここで教えているのは、「行動の勢い」よりも、「志や信念の根の深さ」が重要だということである。軽々しく熱中する者ほど、あっさり冷める。反対に、本当に価値ある行動や思索には、忍耐と熟慮が伴っているべきだと説いている。
※注:
- 「已む」…やめる、引く。
- 「厚くする」…価値を置く、大切にする。
- 「鋭く進む」…勢いよく進む。思慮に欠けた突進のこと。
『孟子』離婁章句下より
1. 原文
孟子曰、於不可已而已者、無所不已。於所厚而薄者、無所不薄也。其進銳者、其退速。
2. 書き下し文
孟子曰く、已(や)むべからざるに於いて已むる者は、已まざる所無し。
厚(あつ)くする所に於いて薄(うす)くする者は、薄くせざる所無し。
其の進むこと鋭き者は、其の退くこと速やかなり。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳)
- 「やめてはいけないところでやめてしまう者は、どんなことでもやめてしまう」
→ 本当にやるべきことをやめる人は、結局何でもやめてしまう性格である。 - 「大切にすべき対象に対して軽んじる者は、他の何も大切にできない」
→ 大事にすべき人や物を軽視するような人間は、あらゆるものに対して誠意がない。 - 「勢いよく進む者は、後退するときもあっという間だ」
→ 極端な行動をする人間は、退くときも極端。継続的な信念がない。
4. 用語解説
- 已む(やむ):やめる、行動を中止する。
- 已むべからざる(やめてはならない):本来やめるべきでない、重大な局面や責務。
- 厚くする/薄くする:大切に扱う/軽んじる。ここでは人や価値への態度。
- 鋭く進む(進銳):勢いよく積極的に取り組むさま。
- 速やかに退く(退速):一気に手を引く、あっさりと撤退するさま。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
孟子はこう言った:
「本来やめてはならない場面でやめてしまうような人間は、どんなことでも簡単に投げ出してしまう。
大切にするべき相手を軽んじるような人間は、どんな相手に対しても敬意を持つことはできない。
勢いよく進んでいく者は、いざとなるとあっという間に退いてしまう。」
6. 解釈と現代的意義
この章句は、人間の“誠意・継続力・行動原理”を見抜く基準を語っています。
- 一貫性がなければ信頼は築けない
本来やるべきときにやらない者は、他でも同じように逃げる。「ここぞ」というときの姿勢で、その人の本質がわかる。 - 優先順位を見誤る者に誠はない
大切にすべき存在(例えば親、部下、信念など)を軽んじる人は、他でも同様に裏切る。 - 極端な行動は危うい
勢いに任せて進む人は、同じようにあっさり引く可能性がある。持続可能な信念が問われる。
7. ビジネスにおける解釈と適用
✅ 「やめてはならない場面で踏ん張れるか」
- プロジェクトが苦境に立たされたとき、「ここは続けるべきか否か」の判断は、リーダーの胆力にかかっている。
本来のミッションを投げ出すと、信頼と成果は二度と戻らない。
✅ 「本当に大切な相手を、軽んじていないか」
- 古参社員、現場の声、原価にこだわる誠実さ。
これらを疎かにして“他を大事にしているつもり”では、企業文化は崩壊する。
✅ 「勢いだけの人材は、退くときも速い」
- 面接で情熱を語る人、急に数字を出す人ほど、失速も早い。
“淡々と継続する力”こそが、組織に必要な本質的資質。
8. ビジネス用の心得タイトル
「一を貫けぬ者に、すべては続かぬ──誠意と継続が信頼をつくる」
この章句は、あなた自身やチームの「判断の一貫性」や「誠実さの優先順位」を見直すための、鋭く、しかも普遍的な指針です。
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