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志を貫く人は多く語られるが、ほんとうに実行する人は少ない

孔子は、善と不善への態度について、そして志と現実の距離について鋭く語った。

善を見れば、逃げる者を追うように全力で近づこうとし、
不善を見れば、熱湯に手を突っ込んだときのように、反射的に退くべきだ――
孔子は、そうした態度を実際に備えた人物を「見たことがある」と言う。

だが一方で、こう言う人々もいる。
「世に出ずとも、隠れて志を修め、いざ公の立場を得たら、それを実現する」
しかし孔子は、そのような志と行動の両立者には「未だ出会ったことがない」と嘆いた。

理想を語ることは易しく、理想を生き抜くことは難しい。
孔子の言葉には、静かな失望とともに、深い人間観察が込められている。


【原文引用(ふりがな付き)】

「孔子(こうし)曰(い)わく、善(ぜん)を見(み)ては及(およ)ばざるが如(ごと)くし、不善(ふぜん)を見ては湯(ゆ)を探(さぐ)るが如くす。吾(われ)其(そ)の人を見たり。吾其の語(ご)を聞(き)く。隠居(いんきょ)して以(もっ)て其の志(こころざし)を求(もと)め、義(ぎ)を行(おこな)いて以て其の道(みち)を達(たっ)す。吾其の語を聞く。未(いま)だ其の人を見ざるなり。」


【現代語訳・主旨】

善を見たときには、追いつこうとして懸命に求める。
不善を見たときには、思わず手を引っ込めるように、すぐに遠ざかる。
そういう人には、私は出会ったことがある。

一方で、隠居しながらも高い志を抱き、
世に出た時にはその志をもって義を実践する――
そのように言う人は多くいても、実際にそういう人間には、私はまだ会ったことがない。


【注釈】

  • 「及ばざるが如く」:善を見て、なんとか手を伸ばそうとするが届かない、という焦りと渇望を持って追いかけるさま。
  • 「湯を探る」:熱湯の中を手で探るように、即座に危険から引くこと。=悪から即時に距離を取る。
  • 「隠居以求其志」:官職を持たず、世間から離れながらも、自分の志を育むこと。
  • 「行義以達其道」:任官の機会を得たときには、その志を実際に行動で実現すること。

原文:

孔子曰、見善如不及、見不善如探湯。
吾見其人矣、吾聞其語矣。
隱居以求其志、行義以達其道。
吾聞其語矣、未見其人也。


目次

書き下し文:

孔子(こうし)曰(いわ)く、善(ぜん)を見(み)ては及(およ)ばざるがごとくし、不善(ふぜん)を見ては湯(ゆ)を探(さぐ)るがごとくす。
吾(われ)其(そ)の人を見たり。吾其の語(ことば)を聞けり。
隠居(いんきょ)して以(もっ)て其の志(こころざし)を求め、義(ぎ)を行(おこな)いて以て其の道(みち)を達(たっ)す。
吾其の語を聞けり。未(いま)だ其の人を見ず。


現代語訳(逐語/一文ずつ訳):

  1. 孔子は言った。
  2. 「善(良いこと)を見たときは、自分がまだそれに達していないと感じるように努めるべきだ。
  3. 悪(悪いこと)を見たときは、熱湯に手を入れるように即座に避けるべきだ。」
  4. 「私はそういう人を見たことがあるし、そう語る人の話も聞いたことがある。」
  5. 「世俗を離れて隠居し、理想の志を追求し、義を実践して人生の道を貫こうとする人。
  6. 私はそう語る者の言葉は聞いたが、まだ本当にそうした人を見たことはない。」

用語解説:

  • 見善如不及(けんぜんじょふきゅう):「善を見て及ばざるがごとし」=良い行いを見て、自分がまだ足りないと感じ、絶えず学ぼうとする姿勢。
  • 見不善如探湯(けんふぜんじょたんとう):悪事を見たら、熱湯に手を入れるかのように瞬時に避ける。反射的な自制力のたとえ。
  • 隱居(いんきょ):世俗の活動から離れ、理想や信念を追求する生き方。
  • 行義(ぎをおこなう):正義・倫理にかなった行動をすること。
  • 達其道(そのみちをたっす):自分の信じる道・人生哲学を貫いて体現すること。

全体の現代語訳(まとめ):

孔子はこう語った:
「善いことを見たら、自分はまだそれに及ばないと感じて一層努力し、
悪いことを見たら、熱湯に手を入れるのを避けるように、即座に遠ざかるべきだ。
私は実際にそうした行動をする人を見たし、そのように語る人の言葉も聞いたことがある。
また、自ら隠遁して志を追い、正義を行って道を全うしようとする者の話も聞いたことはあるが、
本当にそれを実行している人を、私はまだ見たことがない。」


解釈と現代的意義:

この章句は、理想の人間像と実践の難しさについて語っています。

  • 理想とは、“常に未達”を自覚しながら進む姿勢である。
  • 真の善人は、「自分はまだ十分ではない」と考え、常に改善を目指す。
  • 道徳的判断は、「理屈より即断」が必要な場合がある。悪には反射的に距離を取る感性が重要。
  • 高尚な理念を語ることと、それを“実際に生きる”ことの間には大きな差がある。
  • 孔子は、語ることではなく「実行すること」に価値を置いている。

ビジネスにおける解釈と適用:

1. 「“自分はまだ不十分”という意識が、成長を生む」

成功に満足せず、良きものを見たときに「自分はまだそこに至っていない」と思える人が、真のプロフェッショナル。

2. 「不正・不義には即時に反応せよ」

コンプライアンス違反、不正行為、不誠実な対応──これらに対して“見て見ぬふり”をしない。
「熱湯に触れるかのごとく」敏感であるべき。

3. 「理念を語るより、まず実践を」

“ミッション・ビジョン・バリュー”を掲げるのは簡単だが、それを日常業務で体現しているかが問われる。
語るだけでなく、行動として示すリーダーこそが信頼される。


ビジネス用の心得タイトル:

「語るより行う──“熱湯を避けるように悪を避け、善には届かんと励め”」


この章句は、理想と現実のギャップに対する誠実な向き合い方を教えてくれます。
経営者の哲学、現場での倫理判断、信頼される人格形成の教材として非常に価値ある内容です。


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