善いことをしていても、その効果や報いはすぐには目に見えないかもしれない。
だがそれは、草むらに隠れて育つ瓜のようなもの。目立たずとも、確かに成長し、やがて実を結ぶ。
逆に、悪いことをしても、その報いがすぐに表れないために、何の問題もないように思えるかもしれない。
しかしそれは、春の雪が静かに溶けていくようなもの。目に見えぬうちに、着実に身を滅ぼす道をたどっているのだ。
老子も「天道は親無し、常に善人に与す」と説いた。
善は必ず実り、悪は必ず消える。たとえ今、報いが見えなくても、確かな運命の流れがそこにある。
この条は、目先の損得ではなく、静かに積み重ねる善行の尊さを私たちに教えてくれる。
原文(ふりがな付き)
「善(ぜん)を為(な)して其(そ)の益(えき)を見(み)ざるも、
草裡(そうり)の東瓜(とうが)の如(ごと)く、
自(おの)ずから応(まさ)に暗(あん)に長(ちょう)ずべし。
悪(あく)を為(な)して其(そ)の損(そん)を見(み)ざるも、
庭前(ていぜん)の春雪(しゅんせつ)の如(ごと)く、
当(まさ)に必(かなら)ず潜(ひそ)かに消(き)ゆべし。」
注釈
- 東瓜(とうが):冬瓜やかぼちゃの類。草むらの中で見えずともよく育つ。
- 春雪(しゅんせつ):春に降る雪。しばらくして自然に跡形もなく溶けていく。
- 暗に長ず(あんにちょうず):人目につかぬところで静かに育つこと。
- 潜に消ゆ(ひそかにきゆ):表面には現れず、静かに滅びていくこと。
パーマリンク候補(英語スラッグ)
quiet-growth-of-good
(善は静かに育つ)evil-melts-like-snow
(悪は雪のように消える)invisible-but-inevitable
(見えねども、必ず訪れる)
この条は、「目に見える結果」ばかりを求めがちな現代人にとって、大きな視野と信念の在り方を示してくれます。
報われなくとも善を選ぶ――それは損得ではなく、生き方の選択なのです。
1. 原文
爲善不見其益、如草裡東瓜、自應暗長。
爲惡不見其損、如庭前春雪、當必潛消。
2. 書き下し文
善(ぜん)を為(な)して其の益(えき)を見(み)ざるも、草裡(そうり)の東瓜(とうか)の如(ごと)く、自(おの)ずから応(まさ)に暗(あん)に長(ちょう)ずべし。
悪(あく)を為して其の損(そん)を見ざるも、庭前(ていぜん)の春雪(しゅんせつ)の如く、当に必ず潜(ひそ)かに消(き)ゆべし。
3. 現代語訳(逐語訳/一文ずつ訳)
- 「善を為して其の益を見ざるも、草裡の東瓜の如く、自ずから応に暗に長ずべし」
→ 善い行いをしても、その効果がすぐには見えないかもしれないが、それは草の下で育つ瓜のように、見えないところで確実に成長している。 - 「悪を為して其の損を見ざるも、庭前の春雪の如く、当に必ず潜かに消ゆべし」
→ 悪い行いをしても、すぐにその害が現れないかもしれないが、それは春の日差しで静かに消えていく雪のように、必ず見えないところで損失が進行している。
4. 用語解説
- 東瓜(とうか):カンピョウとしても知られるウリ科の植物。つる性で、草の陰に実る様子が見えにくい。
- 草裡(そうり):草の中、草むらの中。隠れた場所の比喩。
- 春雪(しゅんせつ):春に降る雪。暖かさで静かに溶ける雪を象徴する。
- 潛消(せんしょう/ひそかにきゆ):ひそかに消えていく。表に見えずに進行する変化。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
善いことをしても、すぐにその利益が目に見えるわけではない。だが、それは草の下で静かに育つ瓜のように、見えぬところでしっかり成長しているのだ。
一方で、悪いことをしても、すぐに罰や損失が表れるとは限らない。だが、それは春の雪が静かに溶けていくように、知らぬ間に確実に消耗していくものである。
6. 解釈と現代的意義
この章句は、**「因果応報のタイムラグ」と「行為の本質的な価値」**について語っています。
- 善因善果、悪因悪果とは言うものの、結果がすぐに現れるとは限らない。
- しかし見えなくても、善は静かに成果を育み、悪は静かに代償を生む。
つまり、「目に見える評価や反応に一喜一憂するな」という**“見えない世界の摂理”への信頼**を説いています。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
●「短期成果だけで善悪を測るな」
- 長期的視野で見れば、正しい行動・誠実な対応は必ず信頼を育てる。
- たとえ顧客や上司に評価されなくても、誠実な働きは“草の下”で根を張っている。
●「悪しき慣習は、静かに組織を腐らせる」
- 不正、不透明なルール、軽視された誠意──これらはすぐに表面化しないが、信頼や士気を静かに蝕む。
- 春雪のように、穏やかに見えても、確実に損失は進行している。
●「評価されない“善”を信じ、続ける力」
- 見返りや称賛がないからといって、正しいことをやめてはならない。
- 「成果が見えなくても、育っている」と信じることが、真のプロフェッショナリズムである。
8. ビジネス用の心得タイトル
「善は芽吹くまで見えず、悪は蝕むまで気づかれず──行為の本質を信じよ」
この章句は、**「行いの本当の結果は、目に見えるスピードでは測れない」**という深い真理を教えてくれます。
華やかな成果や即時の反応に惑わされず、善きことを静かに、根気強く続ける勇気を支える言葉です。
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