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セールスマンの適格者

U社は高級レジャー用品を製造する企業で、直販形式で小売店に商品を供給している。販売力を高めるため、セールスマンの増員を決定。最初の増員策として社内スカウトを活用する方針を立てた。これは、管理業務に無駄が見られる現状を見直し、業務効率化によって余剰人員を活用する狙いも含まれている。

こういった場合、どの部署でも優秀な人材は手放さず、結果的に能力の低い者が放出されるのが常だ。G君もその流れでセールスマンに回された一人だった。管理能力に乏しく、気が利かず、口数も少ない上に見た目も冴えない。唯一の長所と言えば、真面目さだけだった。

営業部門に回されたG君に、当然ながら優良な顧客が任されるわけもなく、いわゆる「どさ回り」を担当させられた。1か月が経過した頃、意外な結果が出た。G君はなんと150万円という驚異的な売上を記録したのである。それは新人として前例のない数字だった。この成果の裏には、彼の地道な努力があった。150店舗を訪問し、その手段は乗用車などではなく、電車、汽車、バスといった公共交通機関を駆使したものだった。名簿の住所を頼りに、道を尋ねながらの訪問を繰り返して得た結果だったのだ。

G君の実績を支えたのは、その真面目さと根気だった。彼は口数少なく、「いずれ月商500万円を達成したい」と控えめに語るのみ。U社長はその成果に驚きと喜び、そして一種の困惑を隠せなかった。どうしてこれほどの結果を出せたのか、不思議に思う気持ちが交じり合っていた。

T社は石油不況による大幅な売上減を補うべく、「ディーラー・ヘルプ」と称した施策を実施した。その一環として、販売経験のない製造部門や管理部門から大量の社員が動員され、営業の最前線に送り込まれることとなった。

この際、目覚ましい成果を上げたのは、意外にもT社長が「営業には向かない」と見なしていた人々だった。彼らは見た目に華やかさはなく、口数も少なく、一見すると営業職に不向きと思われていた人物たちだったのである。

T社長は、「セールスマンのイメージを根本的に変える必要がある」と私の知人に漏らしたという。実際、N社で最も優れた実績を誇る営業所長も、見た目には全く冴えない人物だとN社長は私に話した。彼は背が低く、肌は日焼けで黒く、がに股歩きで、一見して営業マンらしさとはほど遠い印象だった。

D社の専務によれば、高度成長期には抜群の成果を上げていたあるセールスマンが、石油不況以降はまったく振るわなくなってしまったという。

よく考えてみれば、高度成長期には引き合いが豊富にあり、その中から取引先を選び取るだけでよかった。この状況では、頭の回転が速いセールスマンが成果を上げやすかったのだ。

しかし、石油不況の時代には、頭の切れだけでは注文を取ることができない。それどころか、高度成長期には不器用で成果を上げられなかったセールスマンが、コツコツと地道な努力を積み重ねて結果を出している。逆境の中で求められるのは、頭の回転の速さではなく、粘り強い努力そのものなのだ。

A社長はベテランセールスマンには期待できないと語る。彼らは大きな案件ばかりを追いかけ、手柄を立てることに執着しがちだ。確かに時折大口の注文を取ることはあるが、それが続くことはほとんどないのだという。

それに対し、経験がわずか1~2年の若手セールスマンは、社長の指示を忠実に守り、得意先を地道に巡回する。一件あたりの受注金額は小さいものの、安定した成果を積み重ねている。こうした堅実で地味な営業スタイルこそが、U社長が求める理想の形である。

世間一般に描かれる「有能なセールスマン」のイメージは、頭の回転が速く、社交性に優れ、弁舌が爽やかであることだ。しかし、実際にはこのようなタイプのセールスマンが最も営業には不向きであるという現実がある。

このタイプのセールスマンは、確かに個々の商談では強みを発揮するかもしれない。しかし、その手腕が逆に顧客に「してやられた」という印象を与え、次回から警戒されるリスクを伴う。こうした手法は、いわゆる「押し込み販売」には適しているかもしれないが、それは販売の本筋から外れた手段であり、決して理想的な営業スタイルではない。

適性のあるセールスマンとは、頭の回転が速いわけでもなく、社交性に乏しく、口数が少ない人間である。そして、何よりも真面目で根気強いことが重要だ。このようなタイプは、顧客に警戒心を抱かせることがなく、もし外見が冴えない場合でも、相手に優越感を与えることさえある。その真摯な態度は信頼を勝ち取り、粘り強さは顧客に感心を抱かせる。だからこそ、これまで挙げた実例のように、優れた成果を生み出すことができるのだ。

商売は「飽きない」と書くように、その本質は根気強く続けることにある。これは時代が変わっても変わらない、セールスの普遍的な秘訣だ。私の考えでは、セールスにおいて最も重要な要素は、第一に根気、第二に根気、そして第三もやはり根気である。結局のところ、成功は地道な努力を惜しまない姿勢から生まれるのだ。

断られても、注文が取れなくても、根気強くお客様を訪問し続けることが、セールス成功の鍵であることを優れたセールスマンは理解している。そのため、優秀なセールスマンは経験を積み重ねたベテランになっても、むしろ訪問に一層力を入れる。彼らにとって訪問の積み重ねこそが信頼と成果を生む源泉なのだ。

一方で、無能なセールスマンは最初の2~3年は真面目に取り組み、それなりの成果を上げる。しかし、仕事の流れが分かるようになるにつれて、効率を優先しようと要領よく立ち回るようになり、次第に「狙い撃ち」の営業スタイルに走るようになる。

訪問の重要性を忘れ、電話で済ませて空いた時間を作るようになる。それを狙いを定めた顧客への訪問に充てるならまだしも、多くの場合、その時間を「休息」と称してサボることに使ってしまう。こうした態度が、やがて成果の低下につながるのは言うまでもない。

サボりが過ぎて業績が振るわなくなると、彼らは一時的に力を入れて何とか形だけの受注を確保し、その場しのぎで体裁を整える。中小企業の社長たちが「経験豊富なセールスマン」を求める際、実際にスカウトに応じてくるのは、こうした本質的には使い物にならないタイプが大半を占めているのが現実である。

本当に優秀なセールスマンやセールスマネージャーになれる人材は、すでにその資質を活かせる場所で活躍しており、スカウトの誘いに応じることはまずない。したがって、外部からベテランセールスマンを求めるのは控えるべきだ。セールスマンの適格者に必要な条件を改めて見直せば、その人材が実は自社内に多く存在していることに気づけるはずだ。外部に求めるより、内部に眠る可能性を発掘することが成功の近道である。

販売とは、セールスマン個人の能力に頼るだけでは成り立たない。市場戦略に基づいたさまざまな活動を有機的に結びつけて初めて成果を上げるものだ。その戦略の核となるのがセールスマンの訪問活動であり、この活動は占有率目標に基づいた訪問計画を忠実に実行することで効果を発揮する。この点については既に述べた通りである。

しかし、セールスマンが一度外に出てしまえば、その行動は完全に本人の裁量に委ねられる。どのような行動を取るかはセールスマン自身の判断次第であり、これを社内から直接コントロールすることは事実上不可能である。

さらに、自由気ままな行動を取るのは、往々にして社内のベテランセールスマンや外部からスカウトしてきた同じくベテランたちである。このようなタイプのセールスマンは、市場戦略の展開を阻害する要因となることが少なくない。こうした点からも、こういったベテランへの依存は慎重に見直すべきだろう。

一方で、真に優れたベテランセールスマンは、訪問こそが販売の基本であることを深く理解している。そのため、市場戦略を妨げるどころか、その推進を積極的に支援する存在となる。こうしたベテランは、新人セールスマンに対しても適切な指導を行い、訪問活動の重要性や効果的な方法を教え込むことで、チーム全体の成果向上に寄与してくれる。

いずれにしても、市場戦略の基盤となる定期的な顧客訪問は、確実に実施されることが不可欠である。この訪問活動は、上司の目が届かない場所で行われるため、計画に忠実であるかどうかはセールスマン個人の責任感とプロ意識に大きく依存する。そのため、訪問計画の管理とセールスマンの意識付けが極めて重要となる。

だからこそ、誠実で陰日向のないセールスマンが求められる。市場戦略なしでも商品が売れた高度成長期の時代は過ぎ去り、今や計画に基づいた粘り強い取り組みが必要不可欠な時代に突入している。個々のセールスマンの姿勢と行動が、会社全体の成果を左右する時代なのである。

低成長や停滞する市場の中で、激しい競争を繰り広げながら占有率を確保する戦略を実行するためには、セールスマンの資質もかつての高度成長期のように「適当」で済まされるものではない。「陰日向なく根気強く取り組む姿勢」こそが、現代のセールスマンに最も求められる重要な資質であり、この特性が戦略を成功に導く鍵となるのである。

U社のような小売店直売方式の高級レジャー用品メーカーにとって、セールスマンを選ぶ際には、従来のイメージに囚われず、適格な資質を見極めることが重要です。以下に、適格なセールスマンの資質とその選定のポイントをまとめます。

1. 真面目さと根気

  • 成果を出したG君のように、セールスマンには地道な努力と根気が求められます。特に困難な時代においては、一見して目立たないものの、地道な訪問と顧客対応を続ける真面目な人物が、長期的な成果をあげやすいとされています。

2. 外見や社交性に囚われない

  • 社会では、セールスマンには華やかなイメージが求められがちですが、実際には、口が重く、風采が上がらない人物の方が適任であることも少なくありません。これは、顧客に警戒感を与えず、信頼を得やすいというメリットがあるからです。表面的な社交性よりも、信頼と誠実さが評価されます。

3. 根気強い訪問

  • どんなに断られても、根気よく訪問し続けることが、セールスの成功の鍵となります。断られても諦めずに訪問を重ね、長期的に関係を築く姿勢が重要です。

4. 新人や経験の少ないセールスマンに期待する

  • 一年や二年のセールス経験しかない新人の方が、社長の指示を忠実に守り、継続的に顧客を訪問する傾向があります。こうした地味で安定したセールス活動が長期的な成績に貢献します。反対に、大きな成果ばかりを狙うベテランは、一時的な売上は出しても安定した成果を継続するのは難しい傾向があります。

5. 定期的な顧客訪問の重視

  • 占有率確保を目指すためには、計画的な顧客訪問が欠かせません。訪問の基本を重視し、定期的に顧客を訪問するセールスマンが、市場戦略の基盤を支えます。この訪問活動の継続性が、低成長期や不況下の厳しい市場での競争力となります。

6. 適度な監督と育成

  • セールスマンは一度外に出ると自分で行動を選択できるため、陰で手を抜かないように誠実な人材を選ぶ必要があります。優秀なベテラン・セールスマンは新人の手本になり、訪問の重要性を伝えられる指導役としても貴重な存在です。

結論

セールスマンの適格者は、真面目で根気強く、地道に顧客対応を行う人物です。時代が変わり、市場の成長が鈍化した現在では、華やかさや一時的な成功よりも、地に足の着いた誠実な姿勢が重視されます。

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