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言葉に魂を宿せ――口上に“色気”を添える心得


目次

一、原文と逐語訳

原文:

小早川隆景より、何方へ使者を以て事むつかしき口上申遣はされ候に付て、直茂公へ、「口上御指南下され候様に」と、右使者を佐賀へ遣はされ候。
御面談にて口上聞召され、仰せられ候は、
「御回上に申す処少しもこれなく候。ただし、これは、言葉の色の入る口上にて候。
総じて舞・平家なども上手のを聞いては落涙に及び候。下手のも同じ文字節にて候へども、涙出で申さず候。
これはお手前心得の為申し候」由、御意成され候へば、右の使者、有難き由感じ奉り、罷帰り候由なり。

逐語訳:

小早川隆景が、ある重要な案件を伝えるために使者を立てた際、
その口上(申し入れの文句)について指南を受けるため、鍋島直茂公を訪ねさせた。
使者が実際の口上を申し述べると、直茂公は次のように仰せになった:

「内容についてはまったく問題ない。ただし、この申し入れには“言葉に色気”が必要である。
能や平家物語の語りも、名人がやると感動して涙を流すが、同じ詞章を語っていても下手では何も感じない。
これは、申す者の心得次第なのだ。」

使者はこの言葉に深く感動し、帰って隆景にその旨を報告したという。


二、用語と背景の解説

用語意味
口上(こうじょう)公的または儀式的な申し入れ・伝言
色気ここでは「情感・気配り・温度感」など、言葉に宿る人間味のこと
舞・平家など能や琵琶法師の語り芸を指し、芸術的な“間”や“感情表現”の喩え
御回上上申内容の意、申し上げる筋書き

三、全体現代語訳(まとめ)

小早川隆景が他家への重要な申し入れのために使者を立てた際、
その言葉遣いを磨くために鍋島直茂の元を訪ねさせた。
直茂はその口上の“内容”には非の打ち所がないと認めつつも、
その伝え方――「言葉の表情」や「心のこもり方」、すなわち“色気”が必要であると説いた。

これは能や平家物語と同じで、同じ言葉であっても話し手の心構えや技量で、相手の感動はまったく変わってくるという教えである。


四、解釈と現代的意義

この章句の核心は:

「伝え方の中に“情”を込めることで、言葉は人を動かす」

ということである。

✔ 内容だけでは不十分
✔ 相手に届くように“感情”や“温度”を込める必要がある。
✔ 話し方・言い方・間の取り方など、非言語的要素が重要になる。

この考えは現代でいう「ノンバーバル・コミュニケーション」や「プレゼンテーションスキル」、「パラ言語(声の調子・抑揚・間など)」の重要性と重なるものです。


五、ビジネスにおける応用

シーン色気のある伝え方の例
プレゼン原稿棒読みではなく、間の取り方や相手を見ながら話すことで印象が変わる。
謝罪正確な説明に加え、「申し訳ない」という気持ちを言葉に滲ませる。
提案数字やロジックだけでなく、「なぜこれが大事なのか」「どんな思いで作ったのか」を語る。
接客定型文だけでなく、相手の表情に応じて言葉を添える柔軟さ。

☝ 感情がこもった言葉こそ、人の心を動かす。


六、まとめと教訓

「言葉に色気を。話し手の魂が、聞き手の心を動かす」

『葉隠』は、単に正しいことを言えば良いのではなく、
“どう伝えるか”にこそ人格が宿ることをこのエピソードで示しています。

それは「技術」であり、そして「心」でもあるのです。

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