—— 仁を前にしたら、誰が相手でも一歩踏み出せ
孔子は、「仁(じん)」の実践における姿勢を明快に示しました。
「仁を実践する場面においては、たとえ相手が師であっても、遠慮してはならない。
進むべきと思ったら、ためらわず行動すべきである」と。
これは、上下関係や礼儀が重んじられる社会であっても、
“仁”の実践だけはためらうべきでないという孔子の信念です。
仁とは、人に対する思いやり・誠実さ・道徳的行動の総体。
その実践を、地位や年齢や権威の前で止めるようなことがあってはならない。
孔子は、人間の根本的な善意や正しさは、誰よりも優先されるべきだと考えていたのです。
目の前に「仁」があるなら、誰に気兼ねすることなく、まっすぐに進め。
この言葉は、道徳的勇気を求めるすべての人への激励でもあります。
この章句は、現代においても「正しいと思うことを、誰の前でも実行できる勇気」の重要性を教えてくれます。
組織や社会の中でも、遠慮や上下関係を超えて善をなす覚悟が求められている場面は少なくありません。
原文
子曰、當仁不讓於師。
書き下し文
子(し)曰(いわ)く、仁(じん)に当(あた)りては、師(し)に譲(ゆず)らず。
現代語訳(逐語/一文ずつ)
- 「仁に当たりては」
→ 仁(思いやり・正義・道徳的に正しい行為)を行う場面に出くわしたときは、 - 「師に譲らず」
→ たとえ先生(目上の人)であっても、その実行を譲ってはならない。
用語解説
- 仁(じん):孔子の教えにおける中核的な徳目。思いやり・人間愛・他者への善意。
- 当たる(あたる):直面する、出くわす。
- 譲る(ゆずる):相手に譲歩する、遠慮して先を譲る。
- 師(し):ここでは「先生」や「目上の人物」、学ぶべき相手。
全体の現代語訳(まとめ)
孔子はこう言った:
「仁の行いをすべき時には、たとえ相手が自分の師であっても、その実行を譲ってはならない」。
解釈と現代的意義
この章句は、**「道徳的な行為(=仁)は、身分や序列に関係なく実践すべきである」**という、
孔子の“行動倫理”の力強い表明です。
- 「仁」に値する行い(例:困っている人を助ける、弱者をかばう、正義を貫く)に出くわしたなら、
上下関係を問わず、ためらわずに自ら進み出て行うべき。 - 礼儀や秩序を重んじる儒教においてすら、仁は最上位にあるべき行為であり、実践の優先権を持つとされる。
この教えは、実践的道徳の中核であり、勇気・率先・使命感を求める姿勢でもあります。
ビジネスにおける解釈と適用
◆ 「正しいことは、立場を問わず実行すべき」
たとえ上司が関与していても、道義的に正しい行為(=仁)であれば、黙って従うのではなく、率先して実行する。
◆ 「年次・地位より、“行動する誠意”が組織を動かす」
部下だからといって傍観せず、自ら動いて問題を解決する姿勢が、真の信頼とリーダーシップにつながる。
◆ 「権威や序列に遠慮して、“正しさ”を譲ってはいけない」
おかしいことをおかしいと言う、困っている人を助ける、率直に意見を述べる──
こうした“仁の行動”は、誰よりも先んじて行うべきものである。
◆ 「価値ある行動は、“誰が言ったか”より“何をしたか”」
役職や年齢を理由に“仁”を遠慮するのは、本末転倒。
“仁を譲らない”ことは、信頼される人間になるための必須条件である。
まとめ
「仁に当たれば、立場を越えて動け──正しき行動は、誰にも譲るな」
この章句は、「真に価値ある行動は、立場や関係性を越えて率先して実行されるべきだ」という強いメッセージを含んでおり、
実践的リーダーシップ・行動倫理・職場での正義と勇気のあり方を示す非常に力強い言葉です。
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