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豊かな生活基盤と教育が、王者への道をつくる

孟子は、仁政を実現するための政策を次のように具体的に提示します。これは、実現可能で段階的な国家ビジョンであり、理想論ではなく施策提言です。


① 基本的な生活の保障

孟子は、以下の三点を挙げて、老いても穏やかに暮らせる社会のモデルを描きます:

  • 五畝(ごほ)の宅地に桑を植える(養蚕)
    → 50歳を過ぎた人も絹の衣を着て暮らせる
  • 雞豚狗彘(にわとり・豚・犬など)の家畜を適切に育てる
    → 70歳を過ぎた人も肉を食べて暮らせる
  • 百畝(ひゃくほ)の田地を与え、農繁期に夫役(労役)を課さない
    → 8人程度の家族でも飢えることがない

これらは、年齢を重ねた者でも物質的に安心して暮らせる制度設計であり、「仁政」の社会的インフラ整備といえる内容です。


② 教育の重視と道徳の浸透

  • 庠序(しょうじょ)の教育を整備する
    → 地方学校での教育を徹底する
  • 孝悌(こうてい)の義を教える
    → 親を敬い、兄弟や目上を重んじる徳を育てる

これによって、

「白髪まじりの老人が、道路で重い荷物を背負って歩くことなどなくなる」

つまり、社会が個人の道徳心によって自然と秩序を保つようになるという思想です。


③ 誰もが安らぎ、王道が完成する世界

  • 老人は絹の服を着て、肉を食べることができる
  • 民は飢えることなく、寒さに苦しむこともない

孟子は、このような政治を行えば、

「それでも王者とならなかった者は、古今を通じてただの一人もいない」

と断言します。
つまり、仁政による安定と繁栄は、必ず「王者」という結果をもたらすという確信の言葉です。


引用(ふりがな付き)

「五畝(ごほ)の宅(たく)、之(これ)に樹(う)うるに桑(くわ)を以(も)てせば、
五十(ごじゅう)の者(もの)、以(もっ)て帛(はく)を衣(き)るべし。

雞豚狗彘(けいとんくてい)の畜(ちく)、其(そ)の時(とき)を失(うしな)うこと無(な)くんば、
七十(しちじゅう)の者、以て肉(にく)を食(しょく)うべし。

百畝(ひゃくほ)の田(でん)、其の時を奪(うば)うこと勿(な)くんば、八口(はちこう)の家、
以て飢(う)うる無かるべし。

庠序(しょうじょ)の教(おし)えを謹(つつし)み、之に申(しん)ぬるに孝悌(こうてい)の義(ぎ)を以てせば、
頒白(はんぱく)の者、道路に負戴(ふたい)せず。

老者帛を衣、肉を食い、黎民(れいみん)飢(う)えず、寒(かん)えず。
然(しか)り而(し)して王(おう)たらざる者は、未(いま)だ之(これ)有(あ)らざるなり」


注釈

  • 五畝・百畝…土地の面積。五畝=家屋敷、百畝=農地。生活基盤。
  • 雞豚狗彘(けいとんくてい)…家禽・家畜。卵・肉・労力をもたらす。
  • 庠序(しょうじょ)…郷校(地方の学校)。教養・道徳を教える場。
  • 孝悌(こうてい)…親孝行と兄弟・年長者への敬愛。
  • 頒白(はんぱく)…白髪混じりの老人。

パーマリンク案(英語スラッグ)

  • prosperity-and-virtue-lead-to-kingship(豊かさと徳が王道を築く)
  • feed-clothe-teach-rule(衣食を満たし、教えて治めよ)
  • no-true-king-without-caring-rule(仁ある統治なくして真の王なし)

補足:王者とは、剣で従わせる者ではなく、心で集める者である

孟子のこの章は、「仁政」とは具体的な制度と教育によって作られるという現実的提言であり、
また、「仁政による繁栄こそが王者への最短で唯一の道」だというメッセージでもあります。

この章で描かれる社会は、老いも若きも安心して暮らせる福祉国家モデルに近い。
それは、古代においてさえ、理念として確立されていたことを示しています。

目次

1. 原文

五畝之宅、樹之以桑、五十者可以衣帛矣。
雞豚狗彘之畜、無失其時、七十者可以食肉矣。
百畝之田、勿奪其時、八口之家、可以無飢矣。
謹庠序之教、申之以孝悌之義、頒白者不負戴於道路矣。
老者衣帛、食肉、黎民不飢不寒、然而不王者、未之有也。


2. 書き下し文

五畝の宅、これに桑を植うれば、五十の者帛を衣るべし。
鶏・豚・狗・彘の畜、時を失うこと無くば、七十の者肉を食うべし。
百畝の田、その時を奪わざれば、八口の家、飢うること無かるべし。

庠序の教を謹み、これに孝悌の義を加うれば、
白髪の者、道において荷を負わず。

老人は帛を着、肉を食らい、庶民は飢えず寒えず。
それでいて王者とならぬ者、未だこれ有らざるなり。


3. 現代語訳(逐語・一文ずつ)

  • 五畝の宅地に桑の木を植えれば、50歳の人でも絹(帛)の衣を着ることができる。
  • 鶏・豚・犬・猪を時機を逃さずに飼えば、70歳の人でも肉を食べることができる。
  • 100畝の農地を農期に応じて耕作すれば、8人家族が飢えることはない。
  • 学校(庠序)での教育を大切にし、それに孝や兄弟愛の道徳を加えれば、
  • 髪の白い高齢者が街道で重荷を背負うことはなくなる。
  • 老人は絹の衣を着て、肉を食べ、
  • 庶民は飢えも寒さもない。
  • このようにして王になれなかった者など、これまで一人もいない。

4. 用語解説

  • 五畝(ごほ):約300坪ほどの宅地。一般的な家の敷地。
  • 帛(はく):絹。上質な衣料。
  • 雞豚狗彘(けい・とん・く・てい):鶏・豚・犬・豚(イノシシ属)の家畜。庶民の家畜を象徴。
  • 庠序(しょうじょ):古代中国の教育機関。地方ごとの学び舎。
  • 頒白者(はんぱくのもの):白髪まじりの老人。
  • 負戴(ふたい):背負い運ぶこと。労働・荷物運びの意味。
  • 黎民(れいみん):一般庶民。普通の人民のこと。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

住宅に桑を植え、適切に家畜を飼い、耕作の時期を守って農業を行えば、
老いた人々でも衣食に困らず、8人家族でも飢えることはない。

そこに教育と道徳が伴えば、高齢者が路上で重労働に苦しむこともなく、
社会全体が温かく支え合うものになる。

こうした仁政を施せば、庶民は飢えも寒さもなく、
老人は豊かに暮らし、国は自然にまとまる。

それでいて、王者となれなかった者は、今まで一人もいない──
孟子はそう断言している。


6. 解釈と現代的意義

この章句は、孟子の仁政の理想社会像を簡潔に、かつ具体的に描いています。

  • 社会保障(衣食住)の充実
  • 教育と倫理の連携
  • 高齢者への尊重とケア

現代的に言えば「持続可能な福祉国家モデル」に通じるものであり、
ただ衣食に困らないだけでなく、尊厳ある老後安心して育てる子育て環境など、
人間の尊厳と安定が備わった社会を描いています。

そして孟子は「このような社会を実現できれば、君主が民に支持され、自然と覇者になれる」と喝破しています。
つまり、徳と実利が矛盾せず一致するという思想です。


7. ビジネスにおける解釈と適用

✅ 安定した“生活基盤”が、パフォーマンスとロイヤルティを生む

  • 従業員の基礎的福利(住宅・食事・健康・家族支援)を整えることが、忠誠心・貢献心を高める。

例:ワークライフバランス、フレックス制度、住宅補助、ファミリーケア制度の設計。


✅ 教育と道徳は、基盤が整って初めて効く

  • 人材育成や道徳教育も、まずは「生活の不安」を取り除くことが先。

例:研修制度だけでなく、精神的・物理的セーフティネットの整備もリーダーの責務。


✅ 高齢者や弱者への「見える支援」が信頼につながる

  • シニア人材や退職者、非正規スタッフにもケアを示せる企業は、社会からの信頼も厚い。

8. ビジネス用の心得タイトル

「民を飢えさせず、老を労せず──仁政の実現は“暮らしの保障”から」


孟子の思想は、単なる理想論ではなく、極めて具体的な政策指針です。
今の企業経営・福祉制度・地域運営においても、「この通りにやればうまくいく」と断言できる力があります。

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