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実力に応じた昇進と抜擢を行なう

企業にとって、人材を最大限に活用するためには、優れた能力を持つ者を昇進させたり、抜擢して活躍の場を与えたりすることが欠かせない。その重要性については改めて語るまでもない。

しかし、現実にはそれが実行に移されることは少ない。実力主義や少数精鋭を掲げる言葉だけが先行し、実態が伴っていないケースが多い。これらの言葉は社員の意欲を刺激するためのものであり、企業が本気でそれを実践する意図はないように見える。

これが実行されない最大の理由は、人間関係にある。昇進しなかった者や追い抜かれた者の立場や感情を考慮するあまり、踏み切れないのだ。不満を抱いた人々が会社を辞めてしまうのではないかという懸念も絡む。しかし、そんな心配をするのであれば、最初から実力主義を掲げるべきではない。

口先だけで実力主義を掲げるような社長に、業績を上げることなどできるはずがない。一度方針として打ち出した以上、実行に移さなければ意味がない。特に、少人数で運営される中小企業において、社員の力を活用しなければどうやって競争を生き抜くつもりなのか。そう問いかけたい気持ちだ。

もう一つの理由として挙げられるのは、抜擢するほどの実力者が存在しないという言い訳だ。しかし、実際には「いない」のではなく、「いる」のにそれを認めようとしていないだけだ。

優秀な社員がいるにもかかわらず、その欠点ばかりが取り沙汰される。「積極性や能力はあるが、他人と衝突しがちだ」「計画性はあるが、協調性が足りない」などと評価されるのが典型的な例だ。しかし、こうした見方自体が間違っている。

優秀で積極的な人間には、失敗や他人との衝突がつきものだ。香木を焚く者が屁をしないわけではないということを忘れるべきではない。若いうちから無難に人間関係をこなしている者に限って、真に有能であることはまずない。

実力は認めつつも、「まだ若い」という理由で抜擢を避けるのが、社長族の厄介な癖だ。実力は年齢に左右されるものではない。「まだ若い」とは経験が浅いという意味だろうが、優秀な人間は一年の経験で普通の人間の三年、五年、いや十年分の学びを得るものだ。確かに、人間的な成熟が足りないと言うかもしれないが、それを補って余りある若さ、情熱、そしてエネルギーがあることを忘れてはならない。

若さの強みを早く活かすことで、優秀な人間はさらに輝きを増すものだ。「若い」ということは抜擢をためらう理由ではなく、むしろ抜擢を決断する理由であるべきだ。それを忘れないでほしい。抜擢されたことへの感激から、全力で努力し、社長の期待に応えることは間違いないはずだ。

社長は、優秀な人材をまだ若いうちからどんどん抜擢し、実力を発揮させるべきだ。これに特別な制度や仕組みは必要ない。すべては社長の決断一つで実現できることだ。

ただし、これは社長一人ががむしゃらに進めるものではない。(もちろん、そうしても構わないが……)渋る重役を説得し、幹部社員、さらには場合によっては抜擢対象の社員の先輩や同僚にまで根回しを行う必要がある。その努力を惜しまないことが重要だ。この点に関して、優れた実例をいくつか紹介しよう。

昭和41年のことだ。九州松下電器が佐賀工場を建設した際、青沼専務は初代工場長として、わずか22歳の主任・村井を抜擢した。副長、課長代理、課長の三段階を飛び越えた異例の大抜擢だった。村井はその責任の重さに三日間足が震え、夜も眠れなかったと言う。それも無理はないだろう。しかし、このような場合、抜擢されなかった者たちがショックを受け、「やる気」を失う懸念も生じる。

青沼専務は、この大胆な抜擢に先立ち、入念な根回しを行った。社員を階層ごとに分け、なんと20回以上にも及ぶ説明会を開催したのだ。そこで、まず村井を抜擢する理由を丁寧に説明したうえで、こう語った。
「もし能力が不足して成果を上げられなければ、元の主任に戻す。その場合、誰の責任にもならない。だからこそ、みんなで村井を応援してやってくれ」
この一言が、社員たちの心を動かした。

さらに、同期の社員たちに向けても青沼専務はこう説いた。
「同期全員が一度に工場長になれるわけではない。次にはもっと大きなチャンスが巡ってくるかもしれない。だから、ひがむのではなく、次の機会に備えよ」
この抜擢は結果的に大成功を収めた。しかし、抜擢されなかった者たちへの配慮と同じくらい、抜擢された側のフォローも重要だ。それを踏まえ、社長は抜擢された者に対してどのように振る舞うべきだろうか。この点については恐縮ながら、私自身の経験を少し紹介したい。

F社に入社して2年目のことだ。当時混乱していた資材課の課長を任されることになった。課員は17名ほどいたが、全員が私よりも先に入社しており、なかには勤続10年近い者もいた。ただし、年齢だけは私が最年長だった。実力には自信があったものの、部下全員が自分よりも古株という状況では、やりにくいことは目に見えていた。

そこで、私はこれまでの部下の中から信頼できる人物を一人連れて行きたいと考え、その旨を社長に希望として伝えたのだ。

そのとき、社長に厳しく叱責された。
「お前は一体何を考えているのか。旧部下を連れて行けば、それだけで資材課の課員とお前たち二人との間に溝が生まれる。それでは資材課がまとまるわけがない。だから、お前は一人で行け。あとは自分の努力と実力で資材課をまとめ、成果を上げろ。それをやり遂げてこそ、お前は一人前の男になれるんだ」

その言葉に、私は自分の甘さを痛感し、大きな覚悟を持って資材課に向かう決意を固めた。

この叱責は、これまで数多くの恩師や先輩、知人からいただいた忠告の中でも、最も貴重なものの一つとなった。その言葉は私の心に深く刻まれ、その後の行動指針にもなった。実際に資材課長に就任してからも、社長は私を陰で特別にかばったり、ひいきしたりすることは一切なかった。その公平な姿勢が、私にとってさらに大きな励みとなったのだ。

実力に応じた昇進と抜擢の重要性

企業が真に成長し続けるためには、優れた人材を早期に見極め、年齢や経験にとらわれず、実力に応じて昇進や抜擢を行う必要がある。以下に、この実力主義を実践する際の要点と、成功事例をいくつか紹介する。

1. 人間関係への配慮を超えた決断

抜擢の際、他の社員の気持ちや人間関係の影響を考慮することは当然だが、これが過度になれば優秀な社員が正当な機会を失うことになる。抜擢を行わず、周囲への配慮ばかりを優先していると、組織は停滞し、業績の向上も期待できない。したがって、社長が一度「実力主義」を掲げたなら、業績向上を最優先にして実行に移す覚悟が求められる。

2. 「若さ」を抜擢の理由にする

抜擢の判断において、年齢や経験年数にこだわらないことが重要である。実力のある若手には、豊富なエネルギーと情熱が備わっているため、「まだ若い」という理由で昇進をためらうのではなく、むしろ若さこそが抜擢の理由であると捉えるべきである。社長が若手を抜擢すれば、その人材は期待に応えるべく尽力し、成長が加速することが多い。

3. 抜擢に対する周囲への根回しと説明

抜擢が行われる際、周囲の理解と協力を得るための説明が必要である。九州松下電器の青沼専務が行ったように、抜擢の理由と意図を社員に説明し、共に応援するよう促すことで、周囲も納得しやすくなる。また、抜擢されなかった社員には次のチャンスがあることを示し、前向きに捉えられるように支援することが効果的である。

4. 抜擢者に対する試練と自己成長の機会

抜擢された社員が、これまでの部下を連れて新しい職場に行くことは、チームの一体感を損なう可能性がある。むしろ、抜擢された社員が新たな環境で単独で挑戦し、信頼関係を築きながら実力を発揮できるよう、社長や上司が背中を押すことが大切である。自らの実力と努力で周囲と協力し、成績を上げることで、抜擢された社員は真のリーダーとして成長する。

5. 実力主義を定着させるには社長のリーダーシップが不可欠

実力主義を実現するためには、社長の強いリーダーシップが不可欠である。抜擢が行われる際、周囲の説得や根回しを積極的に行い、反対意見や不満があれば社長自らがその責任を負う姿勢を見せることで、組織全体が一丸となって抜擢を支える風土を築くことができる。

実力に応じた昇進と抜擢は、ただの社内ルールではなく、社員が自ら成長し組織の発展に貢献するための機会である。この原則を実行し続けることで、企業全体が活性化し、変化する市場に対応できる組織を築くことが可能となる。

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