—— 地位にふさわしい行いとは、人を見抜き、推すこと
孔子は、魯の国の大夫・臧文仲(ぞうぶんちゅう)を厳しく批判した。
「彼はまるで“給料どろぼう”のようなものだ。
なぜなら、柳下恵(りゅうかけい)が賢者であることを知っていたにもかかわらず、彼を推薦して仕えようとはしなかったのだから」と。
地位のある者が、優れた人材を認めながら推薦しないのは、
自分の立場を守るために他者の能力を埋もれさせる行為であり、職責を果たしていないことになる。
リーダーに求められるのは、自らの働きだけではない。
人を見る目と、その人物を生かす責任を果たすこともまた、地位の重みにふさわしい務めなのだ。
原文とふりがな
「子(し)曰(い)わく、臧文仲(ぞうぶんちゅう)は其(そ)れ位(くらい)を窃(ぬす)む者(もの)か。
柳下恵(りゅうかけい)の賢(けん)なるを知(し)りて、与(とも)に立(た)たざるなり」
注釈
- 「臧文仲(ぞうぶんちゅう)」:魯の大夫で、当時の政治を担っていたが、孔子からの評価は低い。
- 「位を窃む者」:「地位を盗む者」という厳しい批判で、職責を果たさないことを強く咎めた表現。
- 「柳下恵(りゅうかけい)」:展禽(てんきん)のこと。清廉で賢明な人物として古来称賛される。孔子もその人格と知恵を高く評価していた。
- 「与に立たざる」:ともに仕える・登用するという意味。優れた人材を起用しないことを指す。
パーマリンク候補(英語スラッグ)
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(ふさわしい者を推せ)lead-by-elevating-others
(他者を高めてこそ真のリーダー)position-demands-action
(地位には行動が伴う)
この章句は、リーダーシップの本質は「人を選び抜き、活かす」ことにあるという厳格な倫理観を教えてくれます。
現代の企業や組織においても、「実力ある人を埋もれさせない」構造を築くための重要な指針といえるでしょう。
1. 原文
子曰、臧仲其竊位者與。知柳下惠之賢、而不與立也。
2. 書き下し文
子(し)曰(いわ)く、臧仲(ぞうちゅう)は其(そ)れ位(くらい)を竊(ぬす)む者か。柳下恵(りゅうかけい)の賢(けん)なるを知(し)りて、与(とも)に立(た)たざるなり。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ)
- 「子曰く、臧仲は其れ位を竊む者か」
→ 孔子は言った。「臧仲は、まるで地位を盗んでいるような人物ではないか?」 - 「柳下恵の賢なるを知りて、与に立たざるなり」
→ 「柳下恵の賢さを知っていながら、自らの政務に取り立てなかったのだから」。
4. 用語解説
- 臧仲(ぞうちゅう):臧文仲とも。魯国の政治家で、孔子の目からは徳が足りないとされた。
- 竊位(せつい):地位を「盗んでいる」と評される状態。=本来その地位にふさわしくない者が権力を持っていること。
- 柳下恵(りゅうかけい):春秋時代、徳が高く温厚な人物。孔子が理想的人材としてしばしば評価している。
- 与に立たず(ともにたたず):共に職に就かせない、登用しないこと。つまり「人材を活かさなかった」。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
孔子はこう言った:
「臧文仲は、まるでその地位を盗んでいるかのようなものだ。
柳下恵が賢者であると知りながら、彼を登用しなかったのだから」。
6. 解釈と現代的意義
この章句は、**「真に賢い人材を見抜きながらも、それを起用しない者こそ、地位に値しない」**という、孔子の強烈な批判を示しています。
- 臧文仲は、表面的には有能な政治家だったかもしれませんが、「人材登用において徳を軽んじた」という点で孔子の倫理観から外れている。
- 特に柳下恵のような**“賢徳を備えた理想的人物”**を活かさなかったことは、指導者失格であり、地位を盗む者同然だと非難されています。
- **「地位にふさわしい者とは、賢者を見抜き、登用する者である」**という、孔子の統治観・人材観が明確に表れています。
7. ビジネスにおける解釈と適用
◆ 「優れた人材を登用しないリーダーは、地位を盗んでいるようなもの」
自分の地位保全や保身のために、優れた人を敢えて遠ざける──これは孔子に言わせれば「その職に値しない」。
◆ 「人を見る目+抜擢する勇気=真のマネジメント力」
見る目があるだけでは不十分。「登用する」「任せる」「信じる」という行動まで伴ってこそ、リーダーの資質が問われる。
◆ 「組織の衰退は“賢者が埋もれること”から始まる」
いかに優れた人がいても、それを活かさずに「無難な人」ばかりが重用されれば、やがて組織は腐敗する。
◆ 「嫉妬・恐れ・派閥で登用を誤るな」
利害関係や派閥、嫉妬によって人事を歪めることは、組織の自殺行為である。仁・義を基準に人を選べ。
8. ビジネス用心得タイトル
「人を見抜き、活かす──それが地位にふさわしい者の責任」
この章句は、「人材登用とは組織の徳を映す鏡である」という孔子の強烈なメッセージです。
リーダーシップ評価、人事戦略、経営者教育などにおいて、「あなたは賢者を登用しているか?」という自省を促す指針として極めて有効です。
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