直接原価計算が実際に積極的な効果をもたらすのか、第一章の例題を用いて検討してみる。
●商品別の収益比較は可能か
〈第20表〉を確認すること。〔1〕は〈第5表〉を再掲したものであり、〔2〕はその内容を直接原価方式に基づいて書き換えたものである。
直接原価計算では、まず単位当たりの加工高を計算する。この結果から、B商品の方が収益性に優れていることが一目でわかる。したがって、会社全体の加工高を計算するのも容易である。固定費は会社全体として一定であり、A商品やB商品によって変動することはない。利益は総加工高から固定費を差し引いた値で決まる。
このような表を用いると、「AとBのどちらが有利か」という判断に迷う余地は全くない。それだけでなく、たとえばA商品を10個減らし、その分B商品を10個増やして計20個にした場合、加工高がどれだけ増加するかも即座に計算できる。要するに、「変化する部分」だけを計算すればよいということだ。その結果が示されているのが〈第21表〉である。この方法では、極めて簡単に、しかも正確な結果が得られる。
●新しい仕事は採算が合うか
〈第22表〉は、〈第10表〉のデータを用い、全部原価方式と直接原価方式で比較した結果を示している。
この場合、設備や人員に大きな余裕があるため、B商品を導入した際に「変化する部分」はB商品から生み出される加工高のみとなる。具体的には、売価45円から変動費22円を差し引いた差額の13円が加工高として計上される。この加工高が10個分となるため、合計で130円の加工高が増加することになる。現状では100円の赤字が出ているが、その増加分で赤字を埋め、結果的に30円の黒字に転じることがわかる。
全部原価方式では、会社全体の計算を一からやり直す必要があるが、直接原価方式では極めて簡単に計算が行える。この手軽さこそが直接原価方式の利点であり、複雑で手間のかかる計算では実務に適さないことは明白である。念のため損益計算書で確認した結果が〈第23表〉に示されている。
以上の説明から明らかなように、直接原価方式を用いれば、複雑さや煩雑さは一切なく、誰でも簡単に理解し、活用することが可能だ。経理の専門的な知識がなくとも十分に使いこなせる点が、この方式の大きな魅力である。具体的な運用方法については、後述するさまざまな事例を通して解説していくので、それまでお待ちいただきたい。
スキー宿の例題では、すでに「変るもの」と「変らぬもの」の説明を異なる表現で行い、「変るもの」に対する前向きな検討法について触れていた。この例が他の例と異なる点は、同一商品において売価が変動する場合の考え方を解説した点にある。このような状況では、単に「売価をいくらに設定すればよいか」を考えるだけでは答えを導き出すのは難しい。
事前にさまざまな売価とそれに伴う粗利益の関係を具体的な数字で設定しておくことが重要である。「事前に数字を用いてシミュレーションする」という方法は、この例に限らず、さまざまな状況で非常に有効であることを理解しておいてほしい。これが実際に役立つ場面は必ず訪れるものである。
直接原価計算による損益比較の有効性
直接原価計算は、前向きな意思決定に必要な会計資料を提供し、事業経営に非常に役立ちます。ここでは、第一章の例題から直接原価計算がどのように実際の収益判断に貢献するかを見ていきましょう。
商品別の収益比較
直接原価計算で、商品ごとの加工高を算出することで、収益性が即座に分かります。たとえば、A商品とB商品がある場合、直接原価計算に基づき、各商品ごとの加工高を求めることで、どちらの商品が収益性が高いかがすぐに判断可能です。
- 例:〈第20表〉を基にすると、B商品の加工高の方が高いため、収益性が高いと判断できます。また、もしA商品を10個減らしてB商品を10個増やすと、加工高がいくら増加するか(例えば、20個に増やすと増加分が簡単に計算できる)も即座に計算できます。ここでは「変わる部分」のみ計算すれば済むため、意思決定がシンプルかつ迅速です。
新しい仕事が引き合うかどうか
次に、新規のB商品導入による損益を判断するケースを考えます。設備や人員が余っている状況であれば、固定費の増加はないため、売価から変動費を引いた差額(加工高)だけが重要な要素です。
- 例:〈第22表〉を参考に、B商品の売価45円と変動費22円の差額である13円を加工高として算出します。B商品を10個売ると130円の加工高増加が見込めます。この時点で、現在100円の赤字をカバーし、さらに30円の黒字が見込めることが分かります。
この計算により、新規案件の収益性がシンプルに算出できるため、実務においてもスムーズな意思決定が可能です。直接原価計算であれば、こうしたケースでも細かな計算や調整が不要なため、実務で活用しやすいのです。
まとめ:直接原価計算のメリット
直接原価計算は「変わる部分」のみを把握すれば収益性を迅速かつ正確に判断できるため、事業経営に非常に有効です。売価やコスト構造に変更が生じた場合にも、事前にシミュレーションが可能であり、意思決定をサポートします。
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