商品にはさまざまな性格があり、その性格に応じて売り方も異なる。それを十分に理解することが、販売戦略を立案する上で極めて重要なポイントとなる。商品特性に適した販売手法を選ばなければ、効果的な販売は期待できない。
商品の性格を分類する方法はいくつかあるが、販売方式の違いを理解するには、生産方式による分類が最も分かりやすい。生産方式を大きく分類すると、以下の3つに分けられる。
- 個別生産
顧客ごとの要望に応じて一つ一つの製品を作る方式。 - 多量生産
標準化された製品を大量に生産する方式。 - 装置生産
専用の設備や装置を用いて、連続的に製品を生産する方式。
この分類は、それぞれの生産方式に応じた適切な販売戦略を考える基盤となる。
個別生産とは、顧客の要望や仕様に基づいて一品一品を作り上げる生産方式を指す。これには、道路や橋梁、ダムといったインフラ工事から、船舶、ビル、プラント(生産設備)などの大規模なプロジェクトが含まれる。また、特殊用途の機械類なども個別生産の範疇に入る。これらの製品は、規模や内容に応じて価格が大きく異なるが、数百億円に達するものも珍しくなく、最も安価なものでも数百万円はする高額商品である。
このような高額商品になると、その購入決定は、当然ながら社長や事業部長といったトップ層によって行われる。そのため、これらの商品を契約または受注する際には、相手方のトップと交渉する必要がある。重要な局面では、こちら側もトップ自らが出向き、交渉に臨むべきだ。まさにトップ対トップのやり取りが求められる場面なのである。
もちろん、成約に至るまでには多くの手続きや交渉があり、そのすべてにトップが出向く必要はないし、むしろ出るべきではない場面もある。しかし、最終的な決定に関しては、トップ同士の直接交渉が求められる。この点を忘れてはならない。トップ対トップで進めることが、高額商品における契約の本質である。
多量生産は、効果的な販売網の整備が前提となって成り立つものだ。しかし、その重要性を理解せず、多くの企業が多量生産品の製造に没頭し、生産効率ばかりに目を奪われる一方で、販売網の整備を怠るという過ちを犯している。この結果、せっかく生産した製品が売れず、在庫の山を抱えることになるのだ。
特に中小企業では、効果的な販売網を構築する方法を知らないにもかかわらず、多量生産品に手を出す企業が非常に多い。「多量に消費される商品」であれば、自動的に「多くの売上が期待できる」と安易に思い込んでいるのだ。しかし、販売網が整備されていなければ、いくら多量生産しても市場に商品が行き渡らず、結果的に売上につながらないという現実を見落としている。
いくら多量生産して効率を上げたとしても、それを販売するための有効な手段を持たなければ、収益には結びつかない。この基本的な事実を理解しなければならない。販売戦略なくして生産効率だけを追求しても、事業は成功しないのだ。
論より証拠、多量生産で高収益を上げている中小企業は、特殊な技術や特許によって競争相手が入り込めないよう守られている場合を除けば、ほとんど存在しないと言っても過言ではない。多量生産だけでは、差別化が難しく、競争に埋もれてしまうのが現実なのだ。
中小企業が成功する道は、小さな市場で圧倒的な占有率を獲得することにある。この戦略こそが、高収益を期待できる唯一の方法と言える。ただし、この場合でも、販売力が鍵を握る点に変わりはない。市場が小さい分、効果的な販売網を構築しやすく、資源を集中させて効率的に販売活動を展開できるのが強みとなる。
3つ目の装置生産では、販売の鍵となるのは需要の喚起と新市場の開拓だ。ただし、この場合でも効果的な販売網が不可欠であることに変わりはない。いかに優れた装置を生産しても、それを必要とする市場を開拓し、製品の価値を顧客に伝えられなければ成功は望めない。
需要を喚起する上で最も効果的な手段の一つは値下げである。その実現には、装置の大型化が必要となる。生産規模を拡大しコストを引き下げることで価格競争力を高めるためだ。このようにして、装置の大型化競争が始まるのである。
各社が競って装置の大型化を進める結果、供給過剰がたちまち発生し、価格競争がさらに激化する。この状況が業界全体に不況をもたらす。そして、不況を乗り越える過程で、カルテルの形成、業者の淘汰、需要の自然増加といった動きが進行し、不況から脱出すると、再び設備競争が始まる。こうしたサイクルを繰り返すのが、装置生産の避けられない宿命である。
新市場開拓の手法は、用途開発とキャンペーンの二つに分けられる。その好例が積水化学の創業当時の取り組みだ。同社は、全国の金物屋や雑貨店を訪問し、現物を持ち歩いて直接的なキャンペーンを展開した。これによって新たな用途を提案しながら市場を切り開いていったのである。
以上は、生産方式と販売方式の関連を大まかに分類して述べたものだ。しかし、現実には少量生産という方式も存在し、それが需要の増大に伴って中量生産へと移行する場合もある。こうした柔軟な移行も、販売方式との関連を考慮しながら戦略を立てる上で重要な要素となる。
同じ商品であっても、個別受注生産から規格品の見込生産に移行することがある。このような状況では、特に注意が必要だ。常に意識すべきなのは、生産方式が変われば、それに応じて販売の手法も変えなければならないという点だ。生産と販売の連動が、成功の鍵を握っている。
これはつまり、少量生産で対応していた商品が中量生産に移行した場合、販売方法もそれに合わせて変化させる必要があるということだ。生産規模の変化に伴い、販売戦略を適切に見直すことが求められる。生産と販売のギャップを埋めることが、事業の成否を左右する。
生産方式は需要量によって変化し、それに伴ってコスト構造も変わる。生産方式の変化が量とコストに影響を与える以上、販売方法もそれに応じて柔軟に変えなければならない。生産・コスト・販売のバランスを適切に保つことが、事業の成功につながる。
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