加工業者が販売促進を進める際には、まずリスク分散を意識することが重要だ。「寄らば大樹の陰」とばかりに大企業をターゲットにするケースが多いが、このような戦略では、特定の業界や顧客に依存しやすくなる傾向がある。
「経営戦略篇」で述べたように、特定の業界や特定の得意先に依存することは避けるべきだ。特に、一つの業界や得意先に対して、自社の売上の30%以上を依存する状況を作らないことを、最優先の課題として意識しなければならない。
大企業をターゲットにする理由を尋ねると、主に二つの答えが返ってくる。一つは「倒産のリスクがほとんどない」という安心感であり、もう一つは「安定して大量の仕事を確保できる」という点だ。
大企業と取引する際、その利点ばかりに目を向けて、その裏に潜むリスクを見落としている場合が多い。さらに言えば、それは「都合のいい」発想を超えて、怠慢ともいえる考え方だ。販売活動という事業の中で最も難しい部分を避け、労せずに売上を確保しようとする安易な姿勢がそこに垣間見える。
そのような怠慢の代償として、まず第一に収益性の低下が挙げられる。第二に、特定の業界や得意先への依存が進み、結果として変化に対応するための機動力や柔軟性が失われていく。これらの問題は、長期的な事業の健全性に深刻な影響を与える。
論より証拠だ。石油ショック後の不況を振り返れば、大企業だけを得意先としていた会社は、受けた打撃が大きく、復元力が著しく弱かったことがはっきりしている。この事実が、大企業依存の危険性を物語っている。
さらに、大企業だからといって必ずしも安全とは限らない。大企業であっても「限界生産者」は存在し、そのリスクは無視できない。ただし、大企業には限界生産者が比較的少ないというだけの話に過ぎない。
企業の危険度を決定するのは、その規模ではなく市場での地位だ。市場での地位が低い、つまり占有率の低い会社こそが危険といえる。一方で、規模が小さくとも業界で第一位の地位を占めている会社は、基本的に安全とみなしてよい。
従業員が百人や二百人規模の小さな企業であっても、業界でトップの占有率を持つ会社は、一流企業として認識されるべきだ。安全性を測る基準を誤らないことが重要である。企業の価値は規模ではなく、市場での実力と地位によって測られるべきなのだ。
一般的に、大企業よりも中堅企業や中小企業の中で占有率の高い一流企業のほうが、より「いい条件」で仕事を発注してくれることを理解しておく必要がある。規模だけで判断するのではなく、取引先の質を見極めることが重要だ。
したがって、加工業者は大企業依存の姿勢を改めるべきだ。大企業からの売上は全体の20%以下に抑えるといった明確な上限を設け、それ以外は中堅・中小の一流企業をターゲットにすべきだ。この戦略を採用すれば、業界や得意先の分散が進み、リスクを減らしながら安全性と収益性の両方を高めることが可能になる。
次に検討すべきは、斜陽化、景気変動、季節変動といったリスクに備えるためのクッションとして、外注工場群を整備することだ。これにより、柔軟性と安定性を確保し、不確実な環境下でも事業を持続的に展開できる体制を構築することが可能になる。
自社の設備や人員は、閑散期や不況時の需要減少を想定した仕事量以下に抑え、それを超える分は外注で対応する体制を構築すべきだ。この方針によって、需要変動に柔軟に対応できるだけでなく、コストの無駄を最小限に抑えることが可能になる。
この体制の下で、社長自らが積極的に受注活動を展開し、仕事量を確保することが求められる。社内の設備や人員を常にフル稼働の状態に持ち込み、それでも消化しきれない部分を外注に回すという流れを確立するのだ。販売努力を怠っているのであれば、最低限これくらいの工夫と行動は不可欠である。
次に取り組むべき課題は、加工度の向上だ。単なる単一部品の加工に留まらず、サブアッセンブリーやユニット全体の加工まで手掛けるようにすることが重要である。このような取り組みによって、付加価値を高め、競争力を強化する道が開ける。
この戦略は、単に売上を増やすだけでなく、収益性の向上にも大きく寄与する。さらにこの考えを進めると、単一部品の加工は外注に任せ、社内ではアッセンブリーに集中するという方向性が見えてくる。アッセンブリーの魅力は、設備投資が比較的少額で済み、高度な技術者を多く必要としない一方で、収益性が非常に高い点にある。このモデルを導入することで、コスト効率と利益率を同時に高めることが可能となる。
上述のような方針を推進するには、社長自らが積極的に既存の得意先を訪問し、関係を深めるとともに、新規の得意先を開拓する活動が不可欠だ。トップ自らが動くことで信頼を築き、取引の幅を広げることが可能になる。これが企業の成長と安定に直結する重要な要素となる。
P社の社長は、主要な得意先を週に一度訪問し、他社を寄せ付けない関係性を築くとともに、非常に有利な条件で受注を獲得している。この取り組みの中で特筆すべきは、営業部門だけでなく、製造、検査、技術部門の責任者にも社用車を支給している点だ。この仕組みによって、急ぎの納品や得意先からの呼び出しにも即座に対応できる体制を整えている。こうした機動力と顧客対応力が、P社の競争力を支える大きな要因となっている。
このような迅速な対応が得意先に好印象を与え、有利な価格条件の確保にも繋がっている。一方で、加工業の社長には極端な出不精が多く、「完全穴熊型」ともいえる人物が少なくない。彼らは作業衣をまとい、自ら現場の最前線に立って能率向上や合理化に取り組むことが、業績向上の最善策だと信じている。
しかし、これは社長というよりも「工場長」や「技術部長」に過ぎない役割だ。社長としての本来の使命を果たすには、現場に閉じこもるのではなく、外部と積極的に関わり、企業を成長させる戦略を実行する必要がある。私自身、このような作業衣姿の社長には苦手意識を抱くことが多い。なぜなら、社長としての本質的な役割を見失っているからだ。
事業経営とは何か、そして社長の役割とは何かを理解させることは非常に難しい。これは私の説得力の不足も一因ではあるが、それ以上に、彼らが「外部」の世界を全く知らないために、私の言葉を実感として受け止めることができないからだ。
外部の環境や市場動向、取引先との関係性など、事業経営における本質的な要素を体験的に知らない社長にとって、経営の本質を語られても、それは抽象的で実感の伴わない話に過ぎない。その結果、彼らは現場に閉じこもりがちになり、経営者としての本来の役割を果たせないままに終わることが少なくない。これが、経営改革の大きな壁となっている。
最近では、私も工夫を重ねるようになった。支援を依頼された際には、まず冒頭で「社長が外に出ること」を条件として提示し、この条件を受け入れない場合は支援を辞退する、といった強硬な姿勢を取るようにしている。この一見強引なアプローチが、実は社長の意識改革に大きな効果をもたらしている。
結果として、多くの社長が外部との関わりを持つようになり、その変化に対する感謝の言葉がすぐに返ってくることが少なくない。外に目を向けることで、社長自身が新しい視点や可能性に気づき、経営の在り方に新たな方向性を見いだせるようになるからだ。
加工業の販売促進には、まずリスク分散を図ることが重要です。そのためには以下のような戦略が推奨されます:
1. 危険分散
- 特定業界や大手企業への依存を避ける:売上高の30%以上を特定の得意先や業界に依存することはリスクです。可能であれば、売上高の20%以下に留めるようにし、その他の中小・中堅企業へと顧客基盤を広げるようにします。
- 中小企業の一流企業を狙う:小さくても市場シェアの高い企業は安定しており、取引価格も適正で収益性が高いことが多いです。
2. 柔軟な生産体制と外注活用
- 外注工場の確保:季節変動や景気変動に対応するため、自社の設備や人員を最小限に抑え、仕事量が多いときは外注を活用する体制を整えます。これにより、自社は常にフル稼働しつつもリスクを分散できます。
3. 加工度の向上
- 単一部品からユニットやアッセンブリーまでの加工:製品の加工度を上げることで、収益性を向上させます。アッセンブリーを社内で行い、単一部品の加工は外注とすることで、少ない設備投資で収益性を高めることが可能です。
4. 社長自らの営業活動
- 積極的な得意先訪問と新規開拓:社長自身が定期的に主要顧客を訪問し、他社の参入を防ぎながらも有利な価格で受注できる関係を築くことが重要です。営業、製造、技術部門の責任者にも迅速な対応体制を持たせることで、得意先からの信頼を得やすくなります。
5. 社長の役割の再認識
- 社長は経営の指揮者:社長が工場業務に留まらず、会社の経営や成長戦略の立案に従事することが求められます。特に、社長が積極的に外部の視野を広げ、企業の戦略的な舵取りを行うことで、販売促進や業績向上の道が開けます。
以上の施策により、加工業の企業はリスクを減らし、安定した収益基盤を築きつつ、変化に強い柔軟な経営体制を整えることが可能になります。
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