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加工業の価格政策

採算が取れない製品の受注を断るという決断は、短期的には大きなリスクを伴うものだったが、それでも実行に踏み切った。その結果、主要な取引先三社のうち一社とは完全に関係が断たれる事態となった。

一方で、B社の状況に理解を示し、採算が取れる単価に調整した上で発注量を増やしてくれた取引先が一社あった。また、もう一社は、一度はこちらが手放した案件を引き受けたものの、代わりとなる下請け工場を見つけられず、最終的にはB社の希望する単価で引き続き発注してくれる形となった。

中堅企業への営業は、現在の主要取引先である大企業の系列会社を最初のターゲットとし、さらに会長の人脈を活用した働きかけも加え、全力で展開された。

その取り組みは驚くほどの成果をもたらし、わずか一か月ほどの間に、半年先までの受注の見通しが立つ状況に至った。まさにB社にとって奇跡ともいえる展開だった。

資金繰りの面でも銀行との交渉が功を奏し、半年間は心配の必要がなくなった。ここまで来れば勢いに乗るだけだ。状況が好転し始めると不思議なもので、良い出来事が次々と舞い込むようになる。自社商品として有力な候補が、あっという間に二つも見つかった。私の目から見ても、どちらも将来性のあるものだった。

B社の奇跡が示す教訓は、たとえ下請け加工業であろうと、さらにそれが不況下であろうと、取るべき手段は必ず存在するという点だ。その原動力となったのは、トップの揺るぎない決意に裏打ちされた「価格政策」の果断な実行である。

事業経営とは、まず生存に不可欠な条件を定め(B社の場合は「賃率」)、それを達成するために必要な手段(営業方針)を明確にし、それを徹底的に推進していくものだ。この基本原則に基づき、全力を尽くした努力があったからこそ、B社は危機を乗り越えることができたのである。

「自分たちは下請けだから価格政策なんて無意味だ。見積書を出しても、親会社の見積合わせや工賃基準でチェックされ、結局は最低価格に落ち着くだけだ」と考えている限り、いつまで経っても状況は変わらない。そこにあるのは、自ら行動を起こそうとせず、他人任せにしている甘えた姿勢に過ぎない。

加工業における価格政策の成否は、最終的には社長の姿勢にかかっている。つまり、たとえ下請け加工業であっても、価格政策を持ち得るし、それを実行する余地があるということだ。

社長の強い姿勢を貫いている下請け加工業のもう一例として、E電化を挙げたい。同社はメッキ加工を手がけており、明確な価格基準を設けているのが特徴だ。得意先の規模、業績、発注量、支払条件などをもとに格付けを行い、それに基づいて各案件の最低価格を事前に設定している。この最低価格は、値下げ要求があった場合に受け入れ可能な下限として機能するものであり、それを下回る要求があれば、ためらうことなくその仕事を手放すという方針を徹底している。

これほどの自主性を発揮できる背景には、同社が持つ優れた技術力がある。親会社側も、安易な値下げ要求をすれば反撃を受けることを理解しており、無闇に値下げを求めることはしないのだ。

E電化のような方針が、いつの時代にも、どんな状況下でも通用するとは限らない。しかし、それでもこのように明確な方針を掲げ、それを貫く姿勢は称賛に値するものだ。

自ら方針を持たず、特色を打ち出す努力もせず、ただ効率とコスト削減ばかりに囚われているようでは、価格交渉で親会社の言いなりになるのは当然だ。それにもかかわらず親会社への不満だけを口にするような姿勢では、いつまで経っても状況が好転することはないと心得るべきである。

※いくらの工賃を稼いだらやっていけるのか。それは「賃率」(チャージ)単位時間あたりの加工高にしていくらになるのか。まず計算し、それを実現するには、どうしたら良いかを徹底的に考え、明確な方針を立てなければならない。

加工業の価格政策

ある加工業者が、経営危機に直面した際、価格政策を強力に推進して奇跡的に立て直した実例を通じて、下請加工業における価格政策の重要性を解説します。B社は金型を主力とする加工業を営んでいましたが、不況下で受注単価が低く、赤字が続いていました。大手の取引先が価格を押し付ける中で泣く泣く受注を続けた結果、危機的な資金繰りに陥ったのです。

価格政策の策定

私は、B社に対して「必要賃率」(単位時間当たりの必要な加工高)を計算し、それを基準に営業と受注方針を見直すことを提案しました。こうして、以下の方針が策定されました:

  1. 必要賃率を満たす単価でのみ受注
  2. 必要賃率に満たない単価の場合は外注化(外注もできない場合は受注拒否)

また、従来の大企業中心から中堅企業への営業活動を強化することで、B社は新しい顧客基盤を築くことに成功しました。特に会長と社長が自ら営業活動を行うことで、主要取引先のうち二社がB社の単価に応じた受注を増やす結果をもたらしました。

成功の要因

B社の再建は、トップの不退転の決意と明確な価格政策によるものでした。単に言いなりで価格を受け入れるのではなく、「いくらの単価でなければ会社が存続できないのか」という基準を持ち、交渉を行う姿勢が功を奏したのです。加工業であっても価格政策を持つことは可能であり、経営者の姿勢がその成否を決定します。

価格基準の重要性:E電化の例

別の加工業者、E電化は、独自の価格基準を設定し、値下げ要求が最低基準を下回る場合は受注を拒否する方針を徹底しています。これは、同社が持つ技術的な強みがあってこそ可能なものですが、結果として親会社もむやみに値下げを要求しない関係を築いています。

結論

加工業者が「親会社任せ」や「価格言いなり」となるのではなく、自社の基準と方針を持つことで生き残る道が開けます。自社の強みや独自の価格基準を確立し、トップ自らが価格交渉に挑む姿勢こそ、価格政策の成否を決めるものです。

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