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私的には控えめに、公では明確に発言する

── 状況に応じた態度が、人としての信頼を生む

孔子は、自らの身近な場所や日常生活では控えめで、おとなしい人物のように振る舞った。
だが、宗廟での祭祀や国家的な公務の場では、すらすらと淀みなく、しかも慎み深く話したという。
それは、私的な場と公的な場の違いをわきまえ、場にふさわしい態度を選び取っていた証である。
必要なときに、必要なことを、適切に伝える――そこに成熟した人物の姿が見える。


原文とふりがな付き引用

「孔子(こうし)、郷党(きょうとう)に於(お)いては、恂恂如(じゅんじゅんじょ)たり。言(い)う能(あた)わざる者に似(に)たり。其(そ)の宗廟(そうびょう)、朝廷(ちょうてい)に在(あ)るや、便便(べんべん)として言(い)う。唯(ただ)だ謹(つつし)しむのみ。」


注釈

  • 恂恂如(じゅんじゅんじょ):控えめでおとなしい様子。「如」は状態を表す語。
  • 郷党(きょうとう):自分の郷里、私的な生活圏のこと。
  • 宗廟(そうびょう):祖先を祀る国家的な場。儀式・祭祀の空間。
  • 朝廷(ちょうてい):政治が行われる公的な場。
  • 便便として言う:流れるように明快に話すこと。
  • 謹しむ:慎みを忘れず、分をわきまえた態度を取ること。

1. 原文

孔子於鄕黨恂恂如也、似不能言者、其在宗廟廷、便便言唯謹爾。


2. 書き下し文

孔子、郷党(きょうとう)に於(お)いては、恂恂如(じゅんじゅんじょ)たり。言(い)う能(あた)わざる者に似(に)たり。其(そ)の宗廟(そうびょう)・廷(てい)に在(あ)るや、便便(べんべん)として言(い)う。唯(た)だ謹(つつし)むのみ。


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳す)

  • 「孔子、郷党に於いては、恂恂如たり」
     → 孔子は、郷里の人々と接する際には、慎み深く穏やかであった。
  • 「言う能わざる者に似たり」
     → あたかも、話す能力がないかのように見えるほど、控えめだった。
  • 「其の宗廟、朝廷に在るや、便便として言う」
     → しかし、祖先の祭祀の場や朝廷においては、よどみなく立派に話した。
  • 「唯だ謹しむのみ」
     → ただ、常に慎重さを失わなかった。

4. 用語解説

  • 郷党(きょうとう):故郷や身近な地域社会、地元の人々のこと。
  • 恂恂如(じゅんじゅんじょ):「恂恂」は慎み深く温和なさま。「如」は〜のようである、という語。
  • 言う能わざる者に似たり:「話せない人のように見える」ほど控えめな態度。
  • 宗廟(そうびょう):祖先の霊を祀る重要な国家儀礼の場。
  • 廷(てい):朝廷、公的な政務の場。
  • 便便(べんべん):よどみなく流れるような弁舌。
  • 謹しむ(つつしむ):慎重で礼をわきまえる態度。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

孔子は地元の人々と接する際には、とても謙虚で温和であり、まるで言葉が少ない人のように見えるほどであった。しかし、宗廟や朝廷といった公的な儀式や政務の場においては、堂々と流れるように発言した。ただし、常に謹みを忘れることはなかった。


6. 解釈と現代的意義

この章句は、状況に応じてふさわしい態度・振る舞いを変える「礼」の精神を説いたものです。

孔子は、自分の属する共同体の中では控えめに振る舞い、目立たないようにしていた。しかし、公的な儀式や政治的議論の場では、求められる役割に応じて堂々と発言していたのです。これは、「目立てば良い」「常に自己主張せよ」という現代的な風潮に対するバランスの提言でもあります。


7. ビジネスにおける解釈と適用

🧭「場と役割をわきまえる」リーダーシップ

  • 社内では謙虚に、社外では堂々と
     → 身内の中では過度に自己主張せず、チームとして調和を優先。一方で顧客・取引先・外部ステークホルダーとの場では、会社を代表する者として、自信と明快さを持って発言する。

🧘‍♂️「静かなる信頼」と「動じぬ発信」の両立

  • 静かな職場の信頼構築
     → 地道な態度で信頼を積み上げ、無用な目立ちを避ける姿勢は、職場での安定感を醸成する。
  • 公の場での発言力
     → プレゼン、会議、取材、交渉など、外の目があるときは、ためらわずリーダーシップを発揮すべき。

🧩「慎みは弱さにあらず」

  • 控えめな姿勢は、時に「自信がない」と誤解されがちだが、孔子の姿に学べばそれはむしろ「強さ」の表れである。

8. ビジネス用の心得タイトル付き

「謙虚にして剛毅──“場に応じた態度”が信頼を築く」


この章句は、現代のビジネス社会において「場に応じた立ち居振る舞い」の重要性を教えてくれます。常に前に出るのではなく、ふさわしいときにふさわしく発言・行動することが、真の品格あるリーダーの条件だと言えるでしょう。

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