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理想のリーダーに求められる四つの心得

親しき者を忘れず、古きを捨てず、才に偏らず

周公旦(しゅうこうたん)は、自らの子である伯禽(はくきん)が魯公として赴任する際、治国の要諦を伝えた。
それは、君子たる者(すなわち政治を司る者)が守るべき四つの戒めであった。

  1. 親族を顧みることを忘れてはならない。
     血縁を重んじ、家族への誠実さを失っては、国を治めることはできない。
  2. 大臣たちに「自分は使われていない」と恨まれるようなことがあってはならない。
     人材を公平に評価し、用いられなかった者の不満を招かぬよう配慮せよ。
  3. 先代から仕えている者(故旧)は、大きな過失がない限り見捨ててはならない。
     忠義を尽くしてきた臣下を軽んじることは、国の礎を揺るがすことになる。
  4. 一人の人物にすべての資質を求めてはならない。
     完璧な人間など存在しない。長所を見て活かすことが、人を用いる知恵である。

これらは「用人の術」にとどまらず、人をどう見るか、どう関わるかという、リーダーとしての人間観そのものを問う教えである。


「君子(くんし)は其(そ)の親(しん)を施(す)てず。大臣(たいしん)をして以(もち)いられざるを怨(うら)ましむること無し。故旧(こきゅう)は大故(たいこ)無(な)ければ則(すなわ)ち棄(す)てざるなり。備(そな)わるを一人(いちにん)に求(もと)むること無(な)かれ。」

人を活かすとは、欠点ではなく志と役割を見極めることにある。


語句注釈

  • 施(す)てず:顧みる、忘れない。ここでは「親を大切にする」意味。
  • 以(もち)いられざるを怨む:役職に就けられないことに対する不満を抱かせること。
  • 故旧(こきゅう):古くから仕えてきた臣下、または長年の信頼関係がある者。
  • 大故(たいこ):重大な失策、道義に反するような過失。
  • 備わるを一人に求むること無かれ:人間に完全を求めるな、という用人の根本原理。

パーマリンク(スラッグ)案

  • principles-of-wise-leadership(賢き統治の原則)
  • no-one-is-perfect(完璧な人はいない)
  • honor-the-old-trust-the-worthy(古きを尊び、有能を信じる)

この教えは、単なる政治訓ではなく、人を育て、任せ、信頼することの難しさと美しさを説いています。
君子たる者が持つべき「用人の眼」が、今の時代にも通じる普遍的な智慧として、ここに示されています。

1. 原文

周公謂魯公曰、君子不施其親、不使大臣怨乎不以、故舊無大故、則不棄也、無求備於一人。


2. 書き下し文

周公(しゅうこう)、魯公(ろこう)に謂(い)いて曰(い)わく、
「君子(くんし)は其(そ)の親(しん)を施(す)てず。大臣(たいしん)をして以(もち)いられざるを怨(うら)ましめず。
故旧(こきゅう)大故(たいこ)無(な)ければ則(すなわ)ち棄(す)てざるなり。備(そな)わるを一人(いちにん)に求(もと)むること無(な)かれ」。


3. 現代語訳(逐語・一文ずつ)

  • 「君子は其の親を施てず」
     → 君子たる者は、自分の身内(親族や親しい者)を軽んじて見捨てたりはしない。
  • 「大臣をして以いられざるを怨ましめず」
     → 有能な臣下に対して、用いられなかったことで不満を抱かせるようなことをしない。
  • 「故旧、大故無ければ則ち棄てざるなり」
     → 古くからの友人や旧臣は、大きな過失がなければ切り捨てることはしない。
  • 「備わるを一人に求むること無かれ」
     → 完全な資質をすべて一人に求めようとしてはならない。

4. 用語解説

  • 周公:周の王室に仕えた賢臣。政治・礼制の基盤を築いた理想的な政治家とされる。
  • 魯公:魯国の君主。周公の後裔にあたる人物。
  • 親(しん):ここでは「近しい者」「血縁者」または「親しく信頼する人々」。
  • 施つ(すつ)=捨つ:捨てる、切り離す、縁を切る。
  • 以いられざるを怨ましむ:登用されなかったことを不満に思わせる。
  • 故旧(こきゅう):古くからの知人・友人・旧臣。
  • 大故(たいこ):大きな過失、深刻な問題。
  • 求備(きゅうび):完璧さ、すべての能力が備わっていることを求める。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

周公は魯の君主にこう言った:
「立派な人物は、身内や近しい人を安易に見捨てることはない。
有能な臣下が登用されずに不満を抱くような扱いは避けるべきだ。
古くからの臣や友人は、重大な過ちがない限り捨ててはならない。
また、人にすべてを求めてはならない。完璧な人間などいないのだから。」


6. 解釈と現代的意義

この章句は、人材登用におけるバランス感覚と、忠誠関係の維持の重要性を示しています。

  • 情を重んじながらも、合理的に人を使うこと
     → 「親を施てず」「故旧を棄てず」は、単なる情に流されるのではなく、信頼関係を大切にする姿勢。
  • 登用・不登用が不公平に見えぬよう心を配る
     → 部下が「なぜ自分が使われないのか」と感じる状況は、組織の不安定化を招く。
  • “完全な人材”を求めすぎない現実主義
     → 人には長所も短所もある。一人にすべてを求めるのではなく、補完的な組織運営が重要。

7. ビジネスにおける解釈と適用

人材マネジメントにおける原則

  • 信頼の蓄積を軽視しない
     → 長く共に働いてきた社員や関係者を、大過もないのに切り捨てると、周囲の士気を損ねる。
  • 適材適所と登用の透明性
     → 適切な説明もなく登用を外すと、組織全体の信頼を損なう。“怨ましめず”の精神を忘れずに。
  • “万能な人材”への幻想を捨てる
     → パーフェクトな人物は存在しない。チームで補い合い、役割分担で能力を活かす組織設計が鍵。

8. ビジネス用の心得タイトル

「信頼は積み、完璧を求めず──人を活かす君子の用人術」


この章句は、用人・信頼・継続的関係の尊重をバランスよく語る、現代の組織運営にも通じる非常に実践的なメッセージを持っています。

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