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集中の原理とは

企業が成長し競争力を発揮するためには、どの市場を対象にするか、どの範囲で商品を展開するかが重要である。

広大な市場のすべての要求を満たすことは、たとえ大企業でも難しく、中小企業にとってはなおさらだ。

しかし、狭く絞り込んだ分野での特化が、新たなチャンスを生み、確固たる顧客基盤を築くことに繋がる。

ここでは、集中と特化の原理を活かし成功を収めている実例を通して、その効果を考察していく。

目次

1. 市場の多様性と企業の集中戦略

市場の規模は企業規模と比べものにならないほど巨大であり、その中でお客様の要求は、まさに無限といえるほど多様である。

無限に近い市場の要求をすべて満たすことなど、たとえ巨大企業であっても最初から不可能である。ましてや中小企業においてはなおさらである。

市場のすべての要求を満たそうとすればするほど、かえってどれも満たせなくなってしまうものだ。

もちろん、企業、特に中小企業が全市場を対象にしているわけではないが、狙う市場が企業規模に比べて非常に大きい場合が多い。その結果として、市場の要求を十分に満たせなくなるのは変わらない。

なぜなら、対象とする市場が広すぎることで、提供する商品の層が極めて薄くなってしまうからである。商品の層が薄ければ、お客様はその中から自分の好みに合った品を選ぶ余地を失ってしまう。

たとえば、洋服タンスを買おうとしても、わずか二、三品しか選択肢がなければ、好みに合ったものを見つけるのは難しくなる。二十品も三十品も見比べて、初めて自分に合ったものを選べるのだ。

2. 商品選択の絞り込みがもたらす強み

お客様は、複数の商品を見比べてから選ぶ、という方法で買い物をする。お客様の購買行動を理解せずに、商売が成り立つはずがない。

お客様は見比べてから購入するため、十分に比較できるだけの多様な商品を揃える必要がある。そのためには、商品カテゴリーを絞り込み、その中で多様化を図る以外に方法はないのである。

つまり、企業規模や売場面積が小さいほど、扱う商品の範囲をさらに絞り込む必要があるということだ。たとえば、スーパーの場合、小型店舗は食料品に特化し、その中で多様な商品を揃えている。

小型店であっても、食料品に限れば大型店に比べて大きく劣るわけではない。ここに小型店の活路があるのだ。

売場面積が十分の一しかないのに、十倍の規模の店舗と同じ品揃えを目指すと、各商品のスペースは十分の一となり、デザインやサイズなどの多様化もできなくなってしまう。

このような状況では大型店と競り合うことはできない。しかし、売場面積が十分の一の小型店が、品種を大型店の十分の一に絞れば、各品種においては大型店と同等の品揃えが可能になる。

さらに、品種を二十分の一に絞り込めば、各品種あたりの規模は大型店の三倍となり、より際立った特色を発揮できる。これが、いわゆる「専門店化」である。

3. 専門店化による成功事例

その典型例が、大阪の心斎橋筋にある「F社」という売場面積四〜五坪のアクセサリー専門店だ。私はこの店を、同じ心斎橋筋にある「大丸」デパートの五十倍の超大型店と呼んでいる。

その理由は「金色のくさり」にある。大丸では二〜三十本しか置いていないが、F社では数百本に及ぶように感じられる。

そして、その金色のくさりの前には、いつも五人や七人のお客様が集まり、熱心に品定めをしている姿が見られるのだ。

F社は、金色のくさり以外の商品についても、同様の品揃え方針を徹底している。

私が感心している店のひとつに、同じ心斎橋筋にあるショルダーバッグ専門店「M社」がある。この店はショルダーバッグ一本に絞り込んだ優良店である。

同じエリアにはM社と同規模のバッグ店がいくつも存在するが、多くはショルダーバッグに限らず、ハンドバッグや財布、買い物袋など様々な商品を並べている。

そのため、ショルダーバッグに関しては、M社が心斎橋筋で一番の「大型店」となっている。通常、専門店の客層は衝動買いが多いが、M社はどこか「目的買い」の店のようだ。

店の前で観察していると、お客様はわき目も振らず、まるで必要な物を買いに来たかのように、確固たる意図を持って入店していく様子が見受けられる。

輸入袋物の卸売業である「M産業」も、当初は民芸品やアクセサリーなど多種多様な商品を扱っていたが、思うような成果が出なかった。

そこで、試しに袋物一本に絞り込み、二〜三百種類を揃えたところ、売上が一気に急上昇したという。これは、社長のY氏の言葉である。また、スター精密の自動旋盤も、棒径を六ミリ以下に絞ることで好成績を収めている。

モーター専門メーカーのP製作所は、外径三十ミリから九十ミリまでのモーターに対象を絞り込んでいる。そのため、大手と競合する汎用モーターや、収益性の低いマイクロモーターを扱わずに済む。

この範囲外の要望があってもすべて断り、その範囲内で徹底した品質とコストを追求し、結果として高い占有率と安定収益を実現しているのだ。

4. 競争力と占有率の確保

P製作所の例から、私たちは占有率について重要な学びを得ることができる。

占有率の項で述べたように、企業規模と市場の大きさには確かな相関関係がある。しかし、あまりに大きすぎる市場であっても、特定の商品や範囲に絞り、その中で高い占有率を確保すれば、十分に成功を収めることができる。

このようにして、市場選択の幅が広がってくるわけである。

では次に、商品を徹底的に絞り込んで成功している事例を見てみよう。

山際電気の照明器具は非常に有名だが、ビル用や工場用の照明は扱わず、装飾的な照明に特化して多種多様な商品を揃えている。

シャンデリアや門灯、風呂場用からトイレ用に至るまで幅広く揃え、さらにシャンデリアひとつとっても、さまざまなデザインや価格帯が用意されているため、お客様は好みや予算に合わせて自由に選ぶことができる。

家を新築する際などに非常に便利である。間取図を持参して、「これはここに」「あれはここに」とメモを取りながら商品を選んでいるお客様が多い。

そのため、店内は常に多くの来店者でにぎわい、商品の売れ行きも良い。私が数回訪れた際にも、その様子が確認できた。

5. 新しい市場でのパイロット展開

G社はサンドイッチに特化しており、その内容も一般的な薄いハムを挟んだものとは一線を画している。

一つで通常のサンドイッチ五個分ほどの厚みを持つデラックスな品であり、「世界のサンドイッチ、五十五種類」というキャッチフレーズが示すように、非常に多様なラインナップを揃えている。

ショーウィンドーに並ぶ見本を見るだけでも、楽しさが伝わってくる。

あまりにデラックスで厚みがあるため、食べにくいという声もあるが、そこが良いのだとS会長は語る。食べやすくしてしまえば、デラックス感が失われてしまうからだという。G社は日本全国に三十余りのチェーン店を展開しており、どの店舗も小型である。

どの店も常に満席に近く、子連れのお客様などは長時間テーブルを占領することも多い。「子供連れだと回転が悪く、効率が下がりますね」との声もある。

その話を会長にすると、「とんでもない。有難いお客様です。何しろ未来のお客様でもありますからね」と返答があった。名経営者の視点はやはり異なるものだ。

最近、G社はハワイのホノルル・カラカウア通りにパイロットショップをオープンし、好調な滑り出しを見せている。

顧客の大半は日本人以外で、特にアメリカ本土からの来客が多く、米国進出への自信を深めたとの便りを受け取り、私もまるで自分のことのように嬉しかった。

東京・渋谷には「壁の穴」というスパゲッティ専門店がある。ここも数十種類のスパゲッティを揃え、アサリスパゲッティや納豆スパゲッティ、イカスミスパゲッティまで取り揃えているのだから驚かされる。もちろん、大繁盛している。

6. 常識を超える集中の可能性

このような優れた実例は、「さまざまな商品を扱わなければならない」という常識(?)に対して、再考を促すものである。

まとめ

市場の無限ともいえる要求に応えるには、分野を絞り込み、特定の商品ラインに集中することが有効である。

F社やM産業、P製作所などの例が示すように、限られたカテゴリー内での充実した品揃えは、顧客に満足感と選択の幅を提供し、競争優位を生む。

さらに、絞り込み戦略に基づく専門店化が、他にない独自の強みとなり、海外進出の自信にも繋がっている。

企業は「多くの商品を扱うことが良い」という常識にとらわれず、集中することで生まれる成長の可能性を見直すべきである。

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