MENU

■価格戦争

Y社は菓子を製造するメーカーだ。昭和44年に私が訪問した際、同社の月商は約7,000万円程度で、業界内のランキングではベストテンにも入らない位置にとどまっていた。

私が経営計画の立案をお手伝いしてから、Y社の成長は驚異的だった。それまで同社は潜在的な力を十分に発揮できていなかったが、経営計画を通じてその力を効果的に引き出す方法を学んだのだ。特に、Y社においては長期経営計画が極めて重要な役割を果たしたと言える。この計画が、同社の方向性を明確にし、資源を効率よく配分する基盤となったのである。

昭和50年には、Y社は業界内で第二位の地位にまで上り詰めていた。この急成長を目の当たりにした第一位と第三位の企業は驚きを隠せず、同時に強い脅威を感じていた。そしてついに、これら三社が結託し、Y社を標的にして攻撃を仕掛け始めたのだ。Y社の躍進が、業界の勢力図に大きな影響を及ぼし始めていた証拠でもある。

三社は、Y社の主力商品と外見上ほとんど見分けがつかない商品を製造し、それをY社の価格より10~15%安く市場に投入した。しかし、見た目を真似ただけでは本質に迫ることはできなかった。その商品は確かに似ていたが、味の面では明らかに劣っていた。むしろ、それはY社の商品があまりにも美味しいからこそ際立ってしまった欠点だったのかもしれない。品質で勝負してきたY社の強みが、ここでも明確に浮き彫りになったのである。

Y社にとって、この状況はまさに一大事だった。私のセミナーに参加されたY社長は、「大苦戦の状況ではありますが、何とか売上を落とさずに踏ん張っています」と話してくれた。その言葉を聞いた私は、次のように声をかけた。

「十年前の試練がまた巡ってきましたね。当時は現会長(当時の社長)が、どんな状況でも姿勢を崩さず、信念を持って戦い抜きました。そして最終的に見事な勝利を収めましたね。その時の経験と覚悟が、今回も必ず力になるはずです。」

過去の成功に裏打ちされた信念が、再びY社を支えると確信していた。

「今度も社長が正しい姿勢を貫き通すことが重要ですね」と私は申し上げた。この「正しい姿勢」とは、言うまでもなく「味を守る」ことである。私がそこまで明言しなくても、Y社長にはその意味がしっかりと伝わっているはずだ。Y社の成功の鍵は、何よりも品質へのこだわり、特に他社に真似できない「味」を守り続ける姿勢にあることを、社長自身が深く理解しているからである。

十年前の出来事というのは、S県のある業者が粗悪品を極端に安い価格で売り出したことに端を発する。それによってY社の売上は急激に減少し、ついには赤字に転落する事態となった。しかし、当時の社長(現会長)は、どんなに厳しい状況でも歯を食いしばり、一切妥協せず品質を守り抜いた。その結果、約1年後には安売りを仕掛けた会社が市場から姿を消すことになる。粗悪な品質のために顧客から見放され、売上が一気に落ちたのだ。

その後、Y社の徹底した品質主義が流通業者から改めて高く評価され、信頼がさらに強固なものとなった。このエピソードこそが、私がY社長に伝えたかったメッセージだ。過去の試練を乗り越えた経験が、今の困難に立ち向かう勇気と指針を与えてくれると確信している。

話を元に戻そう。約1年ほどで業界第一位の会社がこの競争から手を引き、「三社連合」はあっけなく瓦解してしまった。理由は明白だ。粗悪な商品では売上を伸ばすこともできず、結果としてY社に致命的な打撃を与えるどころか、自社の収益性まで悪化してしまったからだ。

これは、顧客を無視した戦略がいかに脆弱であるかを物語っている。どんな状況であれ、「顧客無視」という姿勢が成功を収めることは決してない。Y社のように品質を守り続け、顧客の信頼を勝ち取る姿勢こそが、長期的な成長と安定を築く鍵であることが、改めて証明されたと言える。

第二話

S社はプラント用連続自動検査機の専門メーカーで、従業員数は約50名の中小企業だ。一方、同業他社として競合するのは、第一部上場企業であるT電機。こちらは従業員数が1万人にも及ぶ巨大企業である。規模においてはまさに圧倒的な差がある中、S社はどのようにこの競争の中で生き抜いていくのかが問われていた。

T電機は、あらゆる手段を駆使してS社を叩き潰そうと執拗に攻勢を仕掛けてくる。その姿勢には、驚きと呆れを禁じ得ない。一万人を擁する巨大企業が、たった50人の小さな会社に全力で攻め込むとは、何ともおとなげのない行動ではないか。

なぜこれほどの大企業が、規模で遥かに劣るS社を目の敵にするのか。その背景には、S社が特定の分野で築き上げた独自の技術力や市場での信頼が、T電機にとって無視できない脅威となっている事情があるのだろう。しかし、規模の差を考えると、その必死さがかえって滑稽にすら映る。

どんな手を使ってもS社が屈しないことに業を煮やしたT電機は、ついに価格攻勢に出てきた。どの案件でも必ずS社との一騎打ちになるよう仕向け、極端な手段に打って出たのだ。それは、見積書に具体的な金額を記載せず、ただ「S社の10%安」とだけ記すという、常識を逸脱した行為であった。

この行動からは、T電機の品位の欠如と、相手を蹴落とすためなら何でもするという浅ましい姿勢が透けて見える。私は、このような手段に頼るT電機を軽蔑してやまない。企業としての矜持をかなぐり捨て、他者を貶めることに終始する姿勢は、到底容認できるものではない。

しかし、それでもT電機はS社に勝つことができない。S社にとって、T電機に敗れることはそのまま会社の存続を失うことを意味している。だからこそ、S社は生き残りをかけて死に物狂いで戦っているのだ。

S社が勝利への道筋として見出したのは、価格ではなく性能、品質、そしてメンテナンス・サービスの徹底強化である。この3つの分野でT電機を凌駕することで、市場での信頼と競争力を守り抜く戦略だ。S社長をはじめとする全社員が、まさに背水の陣でこれらに取り組んでおり、その姿勢こそがT電機の攻撃を凌ぎ、勝利への礎となっている。

一方で、T電機は品質の悪さで知られる存在だ。ユーザーからの信頼を損ねる要因はそれだけに留まらない。メンテナンス・サービスの対応もひどくお粗末で、顧客の期待に応える姿勢がまるで感じられないのだ。

こうした状況で、いくら価格を下げたところで、ユーザーの支持を得られるはずがない。顧客が求めているのは単なる安さではなく、安心して使える性能と信頼できるアフターサポートである。その点で、S社の徹底した品質主義と手厚いサービスは、ユーザーにとって圧倒的な選択肢となる。T電機がどれだけ攻撃を仕掛けても、支持を得られないのは当然の結果だ。

最近、S社が好調だという話を聞き、まるで自分のことのように嬉しく思う。低価格で勝負するというのは確かに一つの強みではある。しかし、戦略を伴わない単なる低価格競争が持続可能な優位性を生むことはほとんどないという例を、これまで何度も目の当たりにしてきた。

価格だけでなく、性能、品質、そして顧客サービスといった本質的な価値に注力することこそが、企業としての信頼と長期的な成功を築く鍵である。S社は、まさにその価値を武器にして困難を乗り越え、強敵に打ち勝ってきた。その姿勢と結果が多くの企業への教訓になると確信している。

低価格競争が失敗に終わる多くのケースでは、それが「正しい価格」ではなく、単に「価格だけを安くする」ことに注力した結果であることが多い。そのために品質が犠牲にされ、粗製濫造に陥ったり、顧客サービスが軽視されたりするからだ。

こうした姿勢では、一時的に価格の安さで注目を集めても、顧客の信頼を得ることは難しい。顧客が本当に求めているのは、適正な価格で提供される高品質な商品と、それを支える充実したサービスである。価格だけを武器にする戦略は持続可能ではなく、長期的には必ずその限界に直面するのだ。

「顧客無視」の姿勢が成功することは、どんな状況であれ決してあり得ない。この原則を、企業は常に肝に銘じるべきである。顧客が求めるものを理解し、誠実に応えることこそが、長期的な信頼と利益を築く唯一の道だからだ。

また、一度限界を超えて設定した低価格は、短期的に市場を刺激することはあっても、最終的には企業自らの収益性を悪化させる要因になる。この事実を軽視してはいけない。価格競争に陥るだけではなく、顧客に提供する価値を高めるための努力を怠らないことが、持続可能な成長につながる唯一の方法である。

どの時代においても、企業が成功を収めるための基本は変わらない。それは、社長の正しい姿勢を基盤とし、顧客の要求に応じた商品を適正なマージンで提供することだ。この「適正なマージン」とは、顧客に満足を提供しつつ、企業が持続可能な収益を確保するバランスを意味している。

さらに、その販売活動を支えるのは、正しい市場戦略だ。市場のニーズを深く理解し、戦略的に対応することで、企業は確実に成果を上げることができる。無闇な価格競争や短期的な利益を追うだけではなく、長期的な視点で顧客と企業の双方にとって価値ある関係を築くことが、真の成功につながる道である。

やみくもな低価格戦略は、一見顧客に有利に思えるかもしれないが、実際には社長自身の見識の浅さや知恵の欠如を露呈する行為にほかならない。適切な価格設定は、企業の価値観や経営の力量を表す指標であり、ただ安さだけを追求するのは、将来を見据えた経営とは言い難い。

私は、度を越えた低価格政策を掲げる会社を見るたびに、その社長が持つべき信念や洞察力の不足が浮き彫りになり、哀れに思えて仕方がない。価格を下げることは誰にでもできるが、真に価値ある商品やサービスを提供し、顧客に納得してもらえる適正価格を維持するのが、本物の経営者の知恵である。

価格戦争の事例と戦略

第一話: Y社の価格戦争

背景:
Y社は菓子メーカーで、業界ベスト・テンにも入っていなかったものの、経営計画を策定した後、急速に成長し、昭和50年には業界第2位に上り詰めた。しかし、これを見た業界のトップ3社は連携してY社を叩こうとしました。彼らはY社と見分けのつかない商品を、10~15%安で販売を始めたものの、その品質は劣悪で、味の面でY社に及びませんでした。

問題:
Y社は、競争相手からの不正な価格攻勢に直面し、売上が減少する危機に立たされていました。この状況は、かつてS県で粗悪品を安価で販売した業者と似たような展開で、競争が激化し、売上の減少を招いていました。

対応戦略:
Y社長は、過去の経験を活かし、「品質を守る」という姿勢を貫くことが重要だと再確認しました。かつての経験においても、品質を守り続けた結果、最終的には低価格を打ち出した他の業者が撤退し、Y社の信頼が回復したという実績があります。今回も、品質を守り続けることが最も重要な戦略であると判断し、相手が価格で攻めてくる中でも、Y社は品質を守り抜きました。

結果:
約一年後、R社の競争は失敗に終わり、彼らの低価格政策は逆に自社の収益性を悪化させ、最終的にY社が市場での地位を維持することに成功しました。顧客無視や過度な価格競争は、最終的に収益を圧迫し、長期的には失敗に終わることが示された事例となりました。

第二話: S社の価格戦争

背景:
S社はプラント用の連続自動検査機を製造する小規模なメーカーで、競争相手はT電機という大企業でした。T電機はS社を叩くため、価格競争に持ち込もうとしました。T電機は、S社に対して「S社の価格より10%安」という見積もりを出すという戦術を取りました。

問題:
S社は、T電機の大規模なリソースに比べて小さな企業であり、価格で競争することは不可能でした。しかし、品質と性能、そしてアフターサービスでの差別化を図ることが最も効果的な戦略だと考えました。

対応戦略:
S社は、価格での競争を避け、製品の性能や品質、メンテナンスサービスを徹底的に強化することに注力しました。S社の製品は、T電機の製品に比べて高品質であり、アフターサービスも充実していました。S社は、品質を守り抜くと共に、顧客に対して信頼性のあるサポートを提供することで、競争優位性を確保しました。

結果:
S社は、T電機に勝つために、品質とサービスで顧客から信頼を獲得し、低価格戦争に巻き込まれることなく、独自のポジションを確立しました。T電機は、低価格戦略だけでは顧客の信頼を得ることができず、失敗しました。価格だけで勝負する戦略は一時的な強みでしかなく、品質とサービスの差別化が長期的には勝利を導くことを示す事例となりました。

結論: 価格戦争における教訓

これらの事例から得られる教訓は、価格競争に頼りすぎることの危険性です。短期的には価格を下げることで市場シェアを奪うことができるかもしれませんが、長期的には品質やサービスを犠牲にすると、収益性が悪化し、最終的には市場から撤退を余儀なくされることになります。

  • 品質と差別化の重要性: 価格だけで競争するのではなく、品質やサービス、顧客サポートなどの差別化要素を強化することが、持続可能な競争優位を築く鍵となります。
  • 過度な価格引き下げのリスク: 価格を下げすぎることは、短期的な利益を犠牲にし、顧客の信頼を失うリスクを伴います。過度な価格引き下げは、競争相手にも同じ戦略を取らせ、結果的に市場全体の利益を圧迫するだけです。
  • 正しい戦略の確立: 価格戦争に巻き込まれず、自社の強みを活かした戦略を貫くことが重要です。正しい戦略を持ち、それを実行し続けることで、市場でのポジションを守り、競争に勝つことができます。
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次