—— 正直さと親切心が、文化をつくる
孔子は、昔のよき習慣が失われていくことを惜しみながら、こう語った。
「私の若い頃、史官(しかん)は記録の際に、わからない部分は空白にしておき、後で確認できるようにしていた。
また、馬を持っている者は、自分の馬を人に貸して乗せてやるのが当たり前だった。
こうした風習は、今ではもう失われてしまったようだ」と。
この言葉に込められているのは、
**「誠実な記録」と「利他の精神」**という、社会の根本を支える徳の尊さ。
・知らないことは知らないとし、無理に埋めずに事実を重んじる。
・持っている者は自然に他者に分け与える、思いやりの心。
孔子は、こうした風習こそが文化であり、道徳の実践であると考えていた。
だからこそ、ただの過去の美談ではなく、未来に残すべき習慣として、この言葉を残したのだ。
原文とふりがな
「子(し)曰(い)わく、吾(われ)は猶(なお)お史(し)の闕文(けつぶん)に及(およ)ぶ。
馬(うま)有(あ)る者(もの)は人(ひと)に借(か)して之(これ)に乗(の)らしむる。
今(いま)は則(すなわ)ち亡(な)きかな」
注釈
- 「史(し)」:史官。記録係。国家の出来事や発言などを忠実に書き留める役目。
- 「闕文(けつぶん)」:不明な部分は空欄にしておくこと。わからないことを勝手に補わず、正直に残す。
- 「借して乗らしむる」:馬を人に貸して乗せてあげる。利他的な行動が日常に根づいていたことを示す。
- 「亡きかな」:今はもう、そんな風習がなくなってしまったという孔子の残念な嘆息。
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(よい風習を守れ)honest-and-kind-culture
(正直と親切の文化)lost-virtues-regain
(失われた徳を取り戻せ)
この章句は、現代においても「正確な記録のあり方」「日常的な思いやり」の重要性を問いかけています。
文化とは制度ではなく、日々の心遣いと実践の積み重ねである――そのことを思い出させてくれる一言です。
1. 原文
子曰、吾猶及史之闕文也。
有馬者、借人乗之。
今則亡矣夫。
2. 書き下し文
子(し)曰(いわ)く、吾(われ)は猶(なお)、史(し)の闕文(けつぶん)に及(およ)ぶ。
馬有(あ)る者は、人に借(か)して之(これ)に乗(の)らしむ。
今(いま)は則(すなわ)ち亡(な)きかな。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ)
- 「子曰く、吾は猶お史の闕文に及ぶ」
→ 孔子は言った:「私はまだ、歴史書の“闕文(抜けた部分・事実を隠した記録)”を知ることができた」。 - 「馬有る者は、人に借して之に乗らしむる」
→ 「昔は、馬を持っている人が他人にそれを貸して、乗せてやったものだ」。 - 「今は則ち亡きかな」
→ 「だが今では、そういう風潮もすっかり失われてしまったようだな」。
4. 用語解説
- 史(し):史官、あるいは歴史を記録する者。ここでは古の歴史書やその記録を指す。
- 闕文(けつぶん):文を欠く=記録に欠落がある部分。ただしこれは、あえて記さなかった、つまり“不都合なことを伏せておく”意味も含む。
- 借して乗らしむ:自分の持ち物(馬)を他人に貸して、便宜を図ること。利他の精神の象徴。
- 亡し(なし):失われている。存在しない。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
孔子はこう言った:
「私はまだ、歴史の記録に“闕文”が残っていた時代を知っている。
馬を持っている人が、自分の馬を他人に貸して乗せてやる、そんな思いやりのある風習もあった。
だが今は、そうした人の情も記録の奥ゆかしさも、すっかり失われてしまったようだ」。
6. 解釈と現代的意義
この章句は、**「過去にはあった美徳や文化が失われてしまったことへの孔子の嘆き」**であり、
2つの主題が含まれています:
■ ①「史の闕文」:記録の奥ゆかしさ、慎み
- 昔の歴史書には、**配慮からあえて記さなかった部分(=闕文)**があった。
- それは、事実をすべて暴露することではなく、人徳や社会の調和を重んじる文化でもあった。
■ ②「馬を貸す心」:利他の精神、思いやり
- 自分の持ち物(馬)を人に貸すのは、物質的豊かさよりも精神的な寛容さや共有の文化を表している。
→ つまりこの章句全体は、「利他と慎み」が失われていく社会への警鐘です。
7. ビジネスにおける解釈と適用
◆ 「知りすぎる社会へのバランス感覚」
現代社会は情報の開示と透明性が叫ばれるが、すべてを暴くことが必ずしも美徳とは限らない。
時には、相手を思って記さない・語らない配慮=“闕文”の美学も必要。
◆ 「助け合いは制度でなく、風土で育てよ」
助けを求める側・貸す側の関係は制度化されるが、かつてのように自然に「貸し、助ける」文化が信頼を生む。
◆ 「持つ者の責任=“馬を貸す者”の意識」
リソースや裁量を持つ立場の人ほど、他人の行動や成長を助けるために使うべき。それが信頼と持続可能なチームをつくる。
8. ビジネス用心得タイトル
「失われた“闕”と“貸”──語らぬ慎み、与える美徳」
この章句は、現代において「情報過多」「個人主義」「助け合いの希薄化」が進む中で、失われゆく“人の美徳”への示唆を与えてくれます。
組織文化の見直し、ナレッジシェアのあり方、助け合いの風土づくりなどに活用できる視点です。
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