孟子は、**現実的な利益への備え(利)と、人間性の根本たる道徳的修養(徳)**の両方に通じていることの大切さを語った。
利に明るく用意周到な者は、たとえ凶作や飢饉の年であっても、命を落とすことはない。
同様に、徳を積み、心を磨き続けている者は、どんなに世が乱れ、風紀が崩れていても、心を乱されることはない。
生きるための知恵(利)と、生き方そのものを支える徳(道徳・人格)。
この二つに通じている者は、時代の混乱や災厄にも揺るがぬ力を持つ。
これは、実利主義と精神主義を対立させるのではなく、「両立すべき要」として捉えた孟子のバランス感覚を物語っている。
吉田松陰はこれを「一句は治国の要、一句は修身の効」と評価し、国家運営と個人修養の根本原理として読んだ。
つまり、「利に周き」は現実に備える力、「徳に周き」は心の揺るぎなさを意味する。
孟子の言葉は、備えと品格の両立が、真の強さとなることを教えてくれる。
引用(ふりがな付き)
「孟子(もうし)曰(いわ)く、利(り)に周(あまね)き者(もの)は、凶年(きょうねん)も殺(ころ)すこと能(あた)わず。徳(とく)に周(あまね)き者(もの)は、邪世(じゃせい)も乱(みだ)すこと能(あた)わず」
注釈
- 利に周き者…現実的な経済・生計・社会生活に通じ、備えや工夫に抜かりがない人。
- 凶年…飢饉や不作など、災厄の年。
- 徳に周き者…道徳的修養を積み、人格的に成熟している人。
- 邪世…世の中が乱れ、道が廃れた時代。混乱の象徴。
- 周き(あまねき)…あまねく通じ、隅々まで備えがあるさま。深く理解し、実践していること。
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