MENU

混乱の中でも平静を保つには、静かなときに心を養うべし

忙しく慌ただしいとき、本性を乱さず冷静でいたいのなら――
それには、普段から心を清らかに整え、精神を養っておく必要がある。

また、死の間際に取り乱さず、穏やかに終わりを迎えたいと願うなら、
生きているうちに、物事の本質や人生の理(ことわり)、生死の意味をきちんと見つめておくべきである。

いざというときに慌てず、平常心であるためには、平常時にこそ準備が要る。
何ごとも、突然のときに備えるには、「今」の自分をどう整えておくかがすべてなのである。


引用(ふりがな付き)

忙処(ぼうしょ)に性(せい)を乱(みだ)さざらんとせば、須(すべか)らく間処(かんしょ)に心神(しんしん)を養(やしな)い得(う)て清(きよ)かるべし。
死時(しじ)に心(こころ)を動(うご)かさざらんとせば、須らく生時(せいじ)に事物(じぶつ)を看得(みえて)破(やぶ)るべし。


注釈

  • 忙処に性を乱さざらんとせば:忙しいときに本性を失わず、冷静でいたいと願うなら。
  • 間処に心神を養う:時間に余裕のあるときに、精神を磨き整えておくこと。日々の鍛錬。
  • 死時に心を動かさざらんとせば:死の間際に心を乱さず、静かに最期を迎えたいのなら。
  • 事物を看得て破る:物事の道理や生死の実相を見破る。執着を手放し、達観する。
  • 性(せい):本性、内面的な穏やかさや徳性。

関連思想と補足

  • 『論語』里仁第四:「君子は終食の間にも仁に違うこと無し。造次にも必ず是に於いてし、顚沛にも必ず是に於いてす」――日常も非常時も変わらぬ仁の実践が大切と説く。
  • 『論語』先進第十一:「未だ生を知らず、焉んぞ死を知らん」――生の意味を知ることが死を理解する道に通じる。
  • 佐藤一斎『言志四録』:「死生、命有り」「吾れ何ぞ畏れん」――死は天命であり、心の準備が整っていれば恐れる必要はない、という達観。
目次

原文:

處不亂性、須閒處心神養得淸。
死時不動心、須生時事物看得破。


書き下し文:

忙(いそが)しき処にありて性(せい)を乱さざらんと欲せば、須(すべか)らく閒(かん)の処にて心神(しんしん)を養い得て清(きよ)からんことを要す。
死する時に心を動かさざらんと欲せば、須らく生ける時に事物(じぶつ)を看(み)得(え)て破(やぶ)るべし。


現代語訳(逐語/一文ずつ):

  • 「忙しき処にありて性を乱さざらんと欲せば、須らく閒の処にて心神を養い得て清からんことを要す」
     → 忙しい状況でも自分の本性を乱さずに保ちたいのなら、普段から静かな環境で心と精神を養い、清らかにしておく必要がある。
  • 「死する時に心を動かさざらんと欲せば、須らく生ける時に事物を看得て破るべし」
     → 死を迎えるときに動揺しない心を持ちたいなら、生きている間に世の中のあらゆる事物をしっかり見極め、その本質を見破っておくべきである。

用語解説:

  • 處(ところ)不亂性(せい):忙しさや混乱の中でも本来の性(=本性・人格)を乱さないこと。
  • 閒處(かんしょ):静かで落ち着いた場所・時間。内省に適した環境。
  • 心神(しんしん):心と精神、気持ちと気力。
  • 養得清(ようとくせい):養って清らかにする。心を澄ませること。
  • 事物(じぶつ):世の中の出来事や現象。名利や感情などの執着対象も含む。
  • 看得破(かんとくは):見抜いて、執着を破ること。本質を見通し、迷わなくなる境地。

全体の現代語訳(まとめ):

慌ただしい状況でも自分の本性を失わずにいられるためには、日頃から静かな環境で心と精神を養い、清らかな状態を保つことが必要である。
また、死を目前にしても心乱されないようにするには、生きている間にこの世の事物の本質をしっかりと見極め、執着を断っておくべきである。


解釈と現代的意義:

この章句は、**「緊張の場における動じない心は、日常の備えから生まれる」**ことを説いています。

1. “修養”は平時にこそ為すべき

  • 忙しいときに冷静さを保てる人は、静かなときにこそ自分を整えている。
    → “訓練されていない心”は、乱世では役に立たない。

2. “死生観”は生き方に現れる

  • 死に際して動じない心は、生きている間に何に執着し、何を見破ってきたかで決まる。
    → “執着”が少なければ少ないほど、心は軽くなる。

3. 「見る」「破る」が人生を自在にする

  • 物事の本質を“見る”だけでは足りない。“見破って”こそ、自由になれる。
    → 分析だけでなく、断ち切る力(決断力)が重要。

ビジネスにおける解釈と適用:

1. 日頃から「心の筋トレ」をしておけ

  • 緊急時・トラブル時にパニックにならない人は、平時に内省・習慣・自己管理を積んでいる。
    → “平時に整え、乱時に備える”のがリーダーの心得。

2. 死を意識すれば、判断軸が研ぎ澄まされる

  • 「今自分が死ぬとしたら、この選択は正しいか?」という問いは、迷いを減らす。
    → 迷わぬ人は、すでに多くのものを見破っている。

3. 本質を見極め、執着を断つ経営判断を

  • 情報・数字・流行に振り回されるのではなく、事物の“本質”を見て不要なものを切る勇気を。
    → 「看得破」の経営が、組織をぶれない軸に導く。

ビジネス用心得タイトル:

「静けさに備え、混乱に動ぜず──見る・破る・整える心の戦略」


この章句は、真の強さとは、平時に内面を磨いた人間が持つ「動じない心」から生まれるという、大きな真理を教えてくれます。

生と死、静と動、閑と忙という対比の中で、人生や仕事の本質をどう捉え、準備しておくべきか。その問いを突きつけてくる非常に含蓄のある一節です。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次