太宗が著した帝王指南書『帝範』には、軍備の本質について明確な思想が記されている。
「兵器とは国家の凶器である。
戦を好めば民は疲れ、備えを怠れば民は危険にさらされる。
だから、戦わずとも備え、民に戦を教え、用意を怠らないことが肝要なのだ」
越王勾践は、小さな蛙の勇にさえ敬意を払い、備えを怠らず、ついに覇者となった。
一方、徐の偃王は武を棄てたことで、国を失った。
孔子も「民に戦を教えずして戦わしめるのは、民を見捨てることだ」と戒めている。
太宗は、軍備の真義をこう結んだ:
「武器を使わずに済むよう備えることこそが、天下を利する道である」
武とは、争うための力ではない。
守るための備えであり、動かぬための強さである。
平時にこそ備えを怠らず、戦わずして国を守る――それが真の帝王の道である。
■引用(ふりがな付き)
「兵甲(へいこう)とは、国家(こっか)の凶器(きょうき)なり。
土地(とち)広(ひろ)くとも、戦(たたかい)を好(この)めば民(たみ)凋(しぼ)む。
中国(ちゅうごく)安(やす)しといえども、戦(いくさ)を忘(わす)れば民危(あやう)し。
兵(へい)は除(じょ)くべからず、また常(つね)に用(もち)うべからず」
■注釈
- 帝範(ていはん):太宗が太子(のちの高宗)に授けた帝王の教訓書。政治・軍事・道徳など幅広い内容を含む。
- 兵甲(へいこう):兵器、武具全般。
- 軾蛙(しょくあ):車中から蛙に礼を示した故事。越王勾践の慎重さ・謙虚さを象徴する。
- 弧矢(こし):弓と矢。象徴的に軍備、軍事力を指す。
- 孔子の言葉:「以不教民戦、是謂棄之」=「民に戦い方を教えずに戦わせるのは、見捨てるのと同じ」という兵の教育と準備の重要性を説いたもの。
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