■ 引用原文(『ダンマパダ』第八章「ことば」第十三偈)
好ましいことばのみを語れ。
そのことばは人々に歓び迎えられる。
つねに好ましいことばのみを語っているならば、
それによって(ひとの)悪(意)を身に受けることがない。
■ 逐語訳と注釈
- 好ましいことば(ピヤ・ヴァチャナ):優しく穏やかで、聞く者の心に安らぎや好意をもたらす言葉。
- 歓び迎えられる:人々に受け入れられ、好意的に聴かれる。対人関係を円滑にする力を持つ。
- つねに…語っているならば:一貫してその姿勢を保ち続けることで、信頼や徳が積み上がる。
- 悪(意)を身に受けることがない:恨まれたり憎まれたりすることが少なくなり、人間関係の摩擦を回避できる。
■ 用語解説
- ピヤ(piyā):愛らしい、喜ばしい、好意をもって受け入れられる性質。
- ヴァチャナ(vacana):語ること、発言、言葉。
- 悪意を受けない:攻撃や敵意の原因を自ら作らず、周囲に調和と敬意を生むこと。
■ 全体の現代語訳(まとめ)
あなたが語る言葉は、常に優しく好ましいものであるべきだ。
そうした言葉は人々に好意をもって迎えられ、聞く者の心を温かくする。
そして、もし一貫して好ましい言葉を語り続けていれば、誰かから悪意を向けられることも少なくなる。
それはあなた自身を守る徳となるのである。
■ 解釈と現代的意義
この偈は、**「言葉が人間関係を和らげ、攻撃を防ぐ盾となる」**という仏教の深い洞察を示しています。
人の心を乱す言葉は、敵意・嫉妬・怒りを招きます。一方、穏やかで好意ある言葉は、たとえ議論や注意を伴う場合でも、
相手に安心感を与え、摩擦を回避する効果があります。
これは単なる「おべんちゃら」や「迎合」ではなく、**「尊重と配慮に基づく語りの技法」**です。
感情を爆発させるのではなく、善意と誠意を込めた言葉で人と接することが、結果的に自他を守ることになるのです。
■ ビジネスにおける解釈と適用
観点 | 適用例 |
---|---|
クレーム・交渉対応 | 誠実で柔らかい言葉づかいをすることで、相手の怒りを和らげ、冷静な対話へ導ける。 |
社内コミュニケーション | 配慮のある言い回しを徹底することで、対立や無用な誤解を減らし、組織の信頼感を高める。 |
顧客対応・営業 | 共感を示し、相手の立場に立った言葉を使うことで、関係構築がスムーズになる。 |
指導やフィードバック | 注意を促す場合でも、「否定」ではなく「成長を支援する姿勢」で伝えることで、反感を持たれず効果的。 |
■ 心得まとめ
「好ましい言葉は、心を開かせ、悪意を遠ざける」
仏陀の教えは明快です。優しさのある言葉、慈しみに満ちた語りは、あらゆる人間関係を豊かにし、
同時に自分自身をも守るという真理を示しています。
ビジネスにおいても、人を惹きつけ、信頼を育み、争いを遠ざける最大の戦略は、
「語り方」にあると言っても過言ではありません。
「何を言うか」と同じくらい、「どう言うか」が重要なのです。
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