—— 恕(じょ)こそ、人として生きる要の道
弟子の子貢が、「一言で人生を通して実践すべき教えを教えてください」と問うと、
孔子は即座にこう答えた――「それは、**恕(じょ)**だ」。
「自分がしてほしくないことを、他人にしてはならない。
つまり、他人の心を、自分の心のように推し量って気遣うことだ」と。
“恕”とは、思いやり・共感・配慮の心。
それは、法律や命令による行動ではなく、心の底から人を思う道である。
人との関係がすれ違いやすい今だからこそ、
「自分だったらどう感じるか」「それは心地よいか、傷つくか」と思いを巡らすことが、
真のやさしさと信頼を生む。
原文とふりがな
「子貢(しこう)、問(と)うて曰(い)わく、一言(いちごん)にして以(もっ)て終身(しゅうしん)之(これ)を行(おこな)うべきもの有(あ)るか。
子(し)曰(い)わく、其(それ)れ恕(じょ)か。己(おのれ)の欲(ほっ)せざる所(ところ)は、人(ひと)に施(ほどこ)すこと勿(なか)れ」
注釈
- 「恕(じょ)」:自分の心のように、他人の立場に立って思いやること。孔子の教えの中でも極めて本質的な徳。
- 「己の欲せざる所は人に施すこと勿かれ」:自分がされたくないことを、他人にもしない。いわゆる「黄金律」の一種である。
- この言葉は、実践的な倫理の根幹であり、あらゆる人間関係の基盤となる。
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(恕の道)
この章句は、現代のビジネスや教育、家庭においても根本的な指針です。
「相手の立場で考え、行動すること」――それが、争いや誤解を防ぎ、信頼ある社会を築く鍵となります。
1. 原文
子貢問曰、有一言而可以終身行之者乎。
子曰、其恕乎。己所不欲、勿施於人。
2. 書き下し文
子貢(しこう)、問うて曰(いわ)く、一言にして以(もっ)て終身(しゅうしん)行(おこな)うべきもの有(あ)るか。
子(し)曰(いわ)く、其(そ)れ恕(じょ)か。己(おのれ)の欲(ほっ)せざる所(ところ)は、人(ひと)に施(ほどこ)すこと勿(なか)れ。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ)
- 「子貢、問うて曰く、一言にして以て終身行うべきもの有るか」
→ 子貢が尋ねた。「たった一言で、一生貫いて行える教えはありますか?」 - 「子曰く、其れ恕か」
→ 孔子は答えた。「それは“恕”だろう」 - 「己の欲せざる所は、人に施すこと勿かれ」
→ 「自分がされて嫌なことは、他人にしてはならない」
4. 用語解説
- 子貢(しこう):孔子の高弟。論理的・弁舌に優れた人物で、倫理や実践に関心が深い。
- 終身(しゅうしん):一生涯。生涯にわたって実行できるということ。
- 恕(じょ):思いやり・寛容・共感。孔子が非常に重視した「仁」に通じる徳目。
- 己の欲せざる所:自分がされたくないこと。
- 施す:実行する、行動として他人に及ぼすこと。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
子貢がこう尋ねた:
「たった一言で、一生守るに足る教えはありますか?」
孔子は答えた:
「それは“恕(思いやり)”だろう。
自分がされたくないことを、他人にしてはならない」。
6. 解釈と現代的意義
この章句は、「思いやり(恕)」という徳の核心を一言で表した、孔子倫理の凝縮形です。
- 「恕」は他者への共感から生まれる倫理行動の基盤。
- 孔子が最も重要視する「仁(じん)」の実践的かつ普遍的なかたちが、この「己所不欲、勿施於人」です。
- 「やってはいけないこと」ではなく、**「人間としての自省と配慮の在り方」**を示しています。
7. ビジネスにおける解釈と適用
◆ 「“恕”はすべての人間関係の土台である」
顧客・同僚・部下に対して、まず「自分がされて嫌なことかどうか」を判断基準にすれば、思いやりある関係性が築ける。
◆ 「ルールより“相手の気持ち”を想像せよ」
規則や立場だけではなく、「自分が同じ立場だったらどうか」を考える姿勢が、誠実な判断と信頼に繋がる。
◆ 「コンプライアンスの核心は“恕”」
法令順守もハラスメント防止も根本はこの考え方に集約できる。相手の尊厳を想像する力=社会人の基本。
◆ 「リーダーシップとは、思いやりと模範」
リーダーは部下に求める前に、自分自身がその姿勢を体現しているか(=己が欲せざることをしていないか)を問うべき。
8. ビジネス用心得タイトル
「思いやりは最強の規律──“恕”が信頼と秩序をつくる」
この章句は、倫理・人間関係・社会的信頼のすべてに通じる、普遍的かつ実践的な道徳原理です。
社員教育、リーダー育成、行動規範の指針などにおいて非常に有効です。
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