真心から出た一念は、季節の理すら変え、堅牢な城壁を崩し、金属をも貫く力を持つ。
一方、偽りの心で飾り立てた者は、外見ばかりで中身がない。
そんな者は人と接すれば嫌悪を抱かれ、自分自身と向き合っても恥ずかしさに苛まれる。
形式より本質、見た目よりも内面。
人としての重みを決定づけるのは、地位でも能力でもなく「誠の心」なのだ。
原文(ふりがな付き)
人心(じんしん)、一(ひと)たび真(しん)なれば、便(すなわ)ち霜(しも)をも飛(と)ばすべく、城(しろ)をも隕(おと)すべく、金石(きんせき)をも貫(つらぬ)くべし。若(も)し偽(いつわ)りの人のごときは、形骸(けいがい)は徒(いたず)らに具(そな)わるも、真宰(しんさい)は已(すで)に亡(ほろ)ぶ。人に対(たい)せば則(すなわ)ち面目(めんもく)憎(にく)むべく、独(ひと)り居(お)れば則(すなわ)ち形影(けいえい)自(みずか)ら媿(は)ず。
注釈
- 真(しん)なれば:偽りのない、まことの心からの思いであること。
- 霜を飛ばす/城を隕す/金石を貫く:すべて強い真心の働きの比喩。自然や物理の法則をも超える力として描かれる。
- 形骸(けいがい):外見・形だけの存在。
- 真宰(しんさい):本質・本心・良心。人間の内的な核。
- 面目可憎(めんもくにくむべし):人と接するときの表情や態度が嫌われる。
- 形影自媿(けいえいみずからはず):一人でいても自分に対して恥ずかしくなること。
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