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要職にある者は、正しさと親しみを備え、悪人に近づかず毒に刺されるな

士君子(しのくんし)――すなわち品位ある人物が、権力を持つ立場や重要な職務に就いたときには、
まずその行いを厳格かつ明確に保つことが求められる。どこまでも公明正大に仕事を進めるべきである。

同時に、人と接する際には、和やかで柔和な心持ちを忘れてはならない。
堅すぎず、威圧的でもなく、周囲から信頼される姿勢を保つことが重要である。

しかし、このような立場になると、悪人や私利私欲の徒が、親しげに近づいてくる。
彼らは「腥羶(せいせん)」――つまり、生臭い魚や獣のような不快なにおいを放つ人間たちであり、決して近づいてはならない。

また、正義感に駆られて過激な言動を取れば、「蜂蠆(ほうたい)」――毒をもつ蜂やサソリのような者たちに刺される恐れがある。
つまり、行き過ぎた正義もまた危険なのである。

正しさと柔らかさを兼ね備え、悪に染まらず、毒に刺されぬ賢明さ――
これこそ、君子が権力を持ったときに最も大切な徳である。


原文(ふりがな付き)

「士君子(しくんし)、権門要路(けんもんようろ)に処(お)れば、
操履(そうり)は厳明(げんめい)なるを要(よう)し、
心気(しんき)は和易(わい)なるを要す。

少(すこ)しも随(したが)いて腥羶(せいせん)の党(とう)に近(ちか)づくこと毋(な)かれ。
亦(また)た過激(かげき)にして蜂蠆(ほうたい)の毒(どく)に犯(おか)さるること毋かれ。」


注釈

  • 権門要路(けんもんようろ):政治や経営などの権力中枢。重要な決定を担う立場。
  • 操履(そうり):ふるまい、行動のあり方。
  • 厳明(げんめい):厳格でありながら明快なこと。私心のない公正さ。
  • 和易(わい):やわらかく、親しみやすいこと。
  • 腥羶の党(せいせんのとう):私利私欲にまみれた悪人たちの集団。倫理や誠実さを欠いた者たち。
  • 蜂蠆(ほうたい):蜂とサソリのように、危険で毒をもった存在。陰険な報復や裏切りに注意せよという比喩。

パーマリンク候補(英語スラッグ)

  • power-needs-integrity(権力には徳が要る)
  • avoid-scoundrels-and-stings(悪党と毒に近づくな)
  • firm-and-gentle-leadership(厳格にして柔和なリーダーシップ)

この条は、まさに現代の政治家、経営者、管理職などすべての「影響力ある立場」にある人々に向けた金言です。
**力を持った者がまず守るべきは「慎み」**であり、悪に近づかず、怒りに振り回されず、
清廉と温厚を同時に持ち続けることが真の力量であることを静かに説いています。

1. 原文

士君子處權門要路、操履宜嚴明、心氣宜和易。
毋少隨而近腥羶之黨。亦毋太激而犯蜂蠆之毒。


2. 書き下し文

士君子(しくんし)、権門要路(けんもんようろ)に処すれば、操履(そうり)は宜しく厳明(げんめい)に、心気(しんき)は宜しく和易(わい)なるべし。
少(すこ)しも随(したが)いて腥羶(せいせん)の党(とう)に近づくこと毋(な)かれ。
また、太(はなは)だしく激(げき)して蜂蠆(ほうたい)の毒に犯(おか)さるること毋かれ。


3. 現代語訳(逐語訳/一文ずつ訳)

  • 「士君子が権力者や要職にあるときは、行動は厳正で明瞭でなければならず、心は穏やかで柔和であるべきである」
     → 志ある人物が権力や重要な地位にあるときほど、行動は厳しく正しく、心は柔らかく寛容であることが望ましい。
  • 「少しでも、腐敗した集団(悪党)に付き従うようなことがあってはならない」
     → 不正や利権にまみれた派閥には、わずかでも接近してはならない。
  • 「また、逆に過剰に正義を振りかざして、攻撃的になって害を受けるような行動も避けるべきである」
     → 正しさのために闘うとしても、冷静さを欠いた過激な行動はかえって自らを損ねる。

4. 用語解説

  • 士君子(しくんし):学識と徳を備えた立派な人物。知識人・人格者。
  • 権門要路(けんもんようろ):権力のある家や重要な地位。政界・中枢的役職。
  • 操履(そうり):品行と節操、ふるまいのこと。
  • 腥羶(せいせん):なまぐさく汚れたものの喩え。不正・腐敗した集団。
  • 蜂蠆(ほうたい):蜂と蝎(さそり)のこと。毒を持つ存在、つまり危険な人物や組織。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

真に立派な人物が権力や重要な立場にあるときには、行動には厳格な節操と明快さが求められ、心には寛容さと穏やかさが必要である。

一方で、不正を働く集団に少しでも付き従ってはならないし、逆に過剰に正義感を振りかざして、危険な勢力からの報復を受けるようなことも慎むべきである。


6. 解釈と現代的意義

この章句は、**「権力との付き合い方と、正義の表現法」**を説いています。

  • 高い地位にある者ほど、慎重な行動と、柔軟な心が必要である。
  • 不正には近づかず、正義を行うにしても“冷静でバランスの取れた態度”を持つことが大切。

つまり、「正しさの中に誤りがないこと」、それが“君子の真価”であると『菜根譚』は教えているのです。


7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)

●「リーダーには、厳格な行動と柔らかな心が必要」

  • 規律や基準には厳しく、しかし部下や取引先には思いやりを持って接する。
  • 権限のある人ほど、人格のバランスが試される。

●「不正には一切関わるな。たとえ少しでも」

  • 利権・便宜供与・うわさレベルの腐敗でも、一度関わると信用を失う。
  • 「ちょっとだけ」は存在しない。関わらないことが最善。

●「正義を振りかざしすぎると、敵をつくり自滅する」

  • 真っ当な主張も、伝え方を誤れば“攻撃”と受け取られ、かえって排除される。
  • 正義には、表現の知恵とタイミングが必要。

8. ビジネス用の心得タイトル

「節を守り、心は柔らかく──正義は“清く、賢く”あれ」


この章句は、**「正義を実現する者の構え」**を端的に表しています。

  • 誠実であることと、
  • 賢くあること

この両輪が揃ってこそ、「清廉な人物」は真に尊敬される存在となるのです。

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