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権力の筋を外せば、いずれ衰える

孔子は、歴史の流れと政治の法則を見抜いていた。
魯国の本来の統治者である「公室」が、その権限を手放して五代。
政治の実権が本来の中心から大夫へと移って四代。
この筋を外れた変化の積み重ねが、やがて三桓(さんかん)――有力な三家の一族の衰退につながっていると孔子は説く。

一見、繁栄しているように見えても、正統性を失った権力はゆるやかに滅びへと向かう。
表面的な力ではなく、根本的な筋道を守ること。
それが長く続く組織と社会の土台になる。


【原文引用(ふりがな付き)】

「孔子(こうし)曰(い)わく、禄(ろく)の公室(こうしつ)を去(さ)ること五世(ごせい)なり。政(まつりごと)の大夫(たいふ)に逮(およ)ぶこと四世なり。故(ゆえ)に夫(か)の三桓(さんかん)の子孫(しそん)微(び)なり。」


【現代語訳・主旨】

孔子はこう言った。
「爵位や俸禄を授ける権限が公室から離れて五代。政治の実権が大夫に移ってから四代。だから三桓の家が衰えてきたのも、道理なのだ」。

正統な権限がゆっくりと失われるとき、そこに必ず衰退の芽が生まれる。
歴史には法則がある。それを無視して繁栄だけを追い求めることはできない。


【注釈】

  • 「禄(ろく)」:本来、君主が臣下に与えるべき爵位・俸禄のこと。これが正統な政治権限を示す。
  • 「公室(こうしつ)」:魯国の本家である「魯公」の家系。ここに政治と経済の中心があるべきという孔子の視点。
  • 「五世(ごせい)」:文公の死後、宣公・成公・襄公・昭公・定公の五代を経た期間。
  • 「政の大夫に逮ぶ」:政治の決定権が公室から諸侯である大夫たちに移ったこと。
  • 「三桓(さんかん)」:魯の三大有力家。季氏(きし)・孟氏(もうし)・叔孫氏(しゅくそんし)。
  • 「微(び)」:衰えること。目に見えぬように少しずつ崩れていく様子。

原文:

孔子曰、祿之去公室五世矣、政逮於大夫四世矣、故夫三桓之子孫微矣。


目次

書き下し文:

孔子(こうし)曰(いわ)く、祿(ろく)の公室(こうしつ)を去ること五世(ごせい)なり。政(まつりごと)の大夫(たいふ)に逮(およ)ぶこと四世なり。故(ゆえ)に夫(か)の三桓(さんかん)の子孫(しそん)微(び)なり。


現代語訳(逐語/一文ずつ訳):

  1. 「孔子は言った。禄(=俸禄・経済的恩恵)が公室(=本来の国家君主の家系)から離れてすでに五代になる。」
  2. 「政(=政治権力)が大夫(=家臣層)に及ぶようになってから四代になる。」
  3. 「だからこそ、三桓(=権力を握る三家)の子孫たちはすでに衰微しているのだ。」

用語解説:

  • 禄(ろく):収入・俸禄・経済的権益を意味する。
  • 公室(こうしつ):魯国の本来の王族(公)を指す。国家の正統な支配者層。
  • 五世(ごせい)/四世(しせい):五代・四代。世代の交代を数える単位。
  • 大夫(たいふ):諸侯の家臣で、行政や軍事を任された中級貴族。
  • 三桓(さんかん):魯国の有力貴族である「季孫氏」「孟孫氏」「叔孫氏」の三家を指す。魯の公族の家臣から出たが、実質的な権力を掌握していた。
  • 微(び)なり:衰退している、勢いが弱まっている、または存在が危うくなっている。

全体の現代語訳(まとめ):

孔子はこう語った。
「本来の国家の主である公室から、収入(禄)が離れて久しく、すでに五代が過ぎた。
また、政治の実権が家臣である大夫に移ってからも四代になる。
だからこそ、三桓の家系は今や衰退の途上にある。」


解釈と現代的意義:

この章句は、「正統な支配権の喪失」と「権力の委譲による劣化の連鎖」を象徴的に示しています。孔子は、国家の根幹である君主が権限と経済的基盤を失い、それが長期化することで、本来臣下であるはずの大夫や貴族層が実権を握るようになる、という歪みを憂いています。

  • 権限と報酬の分離は、支配構造の崩壊を招く。
  • 外見上の繁栄や権勢でも、「正統性」や「根拠」を失えば衰退は不可避。
  • 魯国の公族である三桓の家も、形式上は力を持っていても、内容が伴わなければ衰微していく。

ビジネスにおける解釈と適用:

1. 「権限と報酬が一致しない組織は崩れる」

役割に見合った裁量権・報酬がない、あるいは報酬だけが高くて責任がない──そういった構造は組織の健全性を損なう。

2. 「中間管理職の台頭が続けば、トップが形骸化する」

経営者がビジョンを失い、中間層が権限を濫用するようになると、組織は“誰が本当の責任者なのか”を見失う。
それはやがて、管理職自身の組織的立場さえも危うくする。

3. 「長期的には“正統性”が組織の信頼を支える」

短期的な成果を追いかけて、「出所の怪しい権力」や「見せかけの成果」に頼ると、内部の信頼が失われる。
権威や報酬は、その“土台”が正統であることが長期存続の鍵。


ビジネス用の心得タイトル:

「正統な力は衰えず──“報酬と責任の分離”が衰退を招く」


この章句は、支配構造の乱れがもたらす組織の劣化と、正統性の大切さを鋭く指摘するものです。
人事制度、経営層とミドル層の役割設計、継承戦略などの文脈で活用できる教訓です。


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