貞観二年、太宗は側近にこう語った。
乱世を経た人民の風俗は改まりにくいと考えていたが、近頃の様子を見ると、人々は貪欲を控え、恥を知り、法を守り、盗賊も減っている――これは、政治の力によって人心が変わった証である、と。
太宗は、「民の風俗は常に一定ではなく、すべては政治の治乱によって決まる」と断言した。
そして、国を治めるには、人民を慈しむ「仁」と、信頼と威厳をもって接する「義」が不可欠であり、苛酷な統治は避け、人の心に従うべきだと説いた。
この姿勢は、「善政は民を導き、悪政は民を壊す」という古来の思想を体現するものである。
民衆の在り方は天性ではなく、為政者の徳と政策次第でいかようにも変わる――この認識こそ、太宗が実践した仁義政治の中核であった。
引用(ふりがな付き)
「人(ひと)に常俗(じょうぞく)無し。ただ政(まつりごと)に治乱(ちらん)あるのみ」
「撫(ぶ)するに仁義を以(も)ってし、示(しめ)すに威信を以ってすれば、自然(じねん)に安静(あんせい)ならん」
注釈
- 常俗(じょうぞく):一定不変の民の習慣や風俗。太宗はこれを否定し、政治次第で変わると述べた。
- 威信(いしん):威厳と信頼のこと。力と徳の両立を意味する。
- 異端(いたん):正統から外れた思想や行動。ここでは政治の道を乱す異常な方策のこと。
- 仁義(じんぎ):ここでも一貫して「人民を思いやり、正しき道を守る統治理念」を指す。
パーマリンク(英語スラッグ)
politics-shapes-morality
「政治が民の道徳を形づくる」というこの章の本質を表したスラッグです。
代案として、virtue-from-governance
(徳は統治から)、rule-by-heart-not-fear
(恐怖ではなく心で治めよ)などもご提案可能です。
この章は、「民の堕落」を責める前に、「為政者の責任」を直視せよという強い警句です。
道徳と秩序の根源は、制度や罰ではなく、日々の政治とその背後にある「仁」と「義」にあるのだと教えています。
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