一、原文
お側の奉公は、成るべく差出でざる様に、ぶらぶらとして年を重ね、自然と御用に立つ様になければ物に成らざるなり。 一家の内の様なればなり。外様の奉公は、それにては追付かず、随分はづれなく心掛け、上たる人の目にも付く心持あるなり。
(聞書第二)
二、書き下し文
お側近くでお仕えする奉公は、なるべく出しゃばらず、
ただ漫然と年を重ねていく中で、自然と役に立つ存在にならなければ本物とは言えない。
それはまるで一家の中の家族のようなものであり、特段目立たなくとも役割が備わっていく。
一方で、途中から他国より召し抱えられた者(外様)の奉公は、それでは務まらない。
つねに落度のないように気を張り、上位の人の目にもとまるような意識と働きが求められる。
三、用語解説
用語 | 解説 |
---|---|
お側(おそば) | 主君の近くに仕えること。側近としての奉公。 |
外様(とざま) | 他家からの移籍者、もしくは外部から新しく加わった者。 |
奉公 | 主君に仕えること。転じて組織に対する貢献や業務従事。 |
はづれなく心掛ける | 落度や手落ちのないよう注意深くすること。 |
四、全体現代語訳(まとめ)
側近の立場で奉公する者は、表立って目立とうとせず、
年月を経るうちに自然と役に立つような存在にならなければ、本当に信頼されるとはいえない。
家族のように黙って存在し、気づけば支えとなっている、そんな在り方が理想である。
しかし、他国から召し抱えられた者や、新参者の奉公はそうはいかない。
常に気を引き締めて仕事をこなし、上の者の目にも留まるような積極性が必要となる。
五、解釈と現代的意義
この章句は、“生え抜き”と“中途・外部人材”の役割意識と心構えの違いを説いています。
✔教訓:
組織での立ち位置によって、求められる奉仕・成果の出し方は異なる
- 生え抜きの人材は、静かに根を張るような信頼構築が必要。
- 中途入社や外部登用の人材は、短期間で価値を示す働き方が必要。
「長年の信頼で支える者」と「結果で認めさせる者」、どちらも異なる戦略が必要ということです。
六、ビジネスにおける解釈と応用
区分 | 現代の例 | 求められる態度・行動 |
---|---|---|
側近(古参・内向きポジション) | 創業メンバー、長期勤続社員、CEOの参謀役など | 表に出すぎず、空気と信頼で支える存在に |
外様(外部人材・中途) | 中途採用管理職、外部コンサル、他部門からの転籍者 | パフォーマンスで印象づけ、早期に存在感を示す |
✅ 応用心得:
- 古参社員:下手に目立とうとせず、周囲から「いてくれて助かる」と自然に思われることが本分。
- 中途社員や外部者:仕事で成果を出し、場に“必要な人材”と認識されるまで緊張感を持続せよ。
七、心得まとめ
「古参は“風景”のように信頼されよ、外様は“一手”で価値を証せよ」
- 静かにして目立たずとも頼られる存在感を目指す(側近の道)
- 入ったばかりならば、まずは“見せ場”で勝負する(外様の道)
✍補足:リーダーや組織運営者への示唆
この章句は、上位者へのアドバイスとしても有効です。
- 側近に求めるのは「安心・調和・背景としての重み」
- 外様には「実行力・目立つ成果・改革力」を求める
誰にどんな役割を任せ、どのように評価するかの参考となります。
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