気分が高揚しているときや、物事がうまく進んでいるときこそ、人は判断を誤りやすくなる。
だからこそ、次のような「軽率な心の動きと行動」を戒めることが大切である。
- 嬉しさに乗じて、軽々しく約束してはならない。
その場の勢いで交わした承諾は、後になって自分も他人も苦しめることになりかねない。 - 酔った勢いで、怒りを爆発させてはならない。
酒に任せた言動は、理性の枠を越え、人間関係や信頼を一瞬で壊す危険を伴う。 - 物事が調子よく進んでいるからといって、あれこれと手を広げすぎてはならない。
慢心と過信は、余裕を失い、足元を崩す原因となる。 - 飽きたから、面倒だからといって、終わりを雑にしてはならない。
終わり方がすべてを決めることもある。最初よりも、むしろ「どう締めるか」が重要なのだ。
このように、感情に引きずられた軽い判断と行動は、必ず何らかの「信頼の損失」や「結果の破綻」をもたらす。老子も言うように、「軽く約束すれば信は薄く、多くを簡単に扱えば難が増す」。
静かな心と一貫した節度こそが、信を得、事を成す道である。
原文と読み下し
喜(よろこ)びに乗(じょう)じて諾(だく)を軽(かる)がしゅうすべからず。
酔(よ)いに因(よ)りて嗔(いか)りを生(しょう)ずべからず。
快(こころよ)さに乗じて事(こと)を多(おお)くすべからず。
倦(う)みて因りて終(お)わりを鮮(せん)くすべからず。
注釈
- 諾(だく):承諾・引き受けの意。軽々しく「いいよ」と言うことを戒める。
- 嗔(しん/いかり):怒りの感情。酔って感情が高ぶることの危険。
- 多事(たじ):手を広げすぎること。余裕がない中で無理を重ねる。
- 鮮く(せんく)する:不完全に終える、雑に締める。「終わりが肝心」を示唆。
- 老子の教え(恩始第六十三):「軽く諾せば信寡く、易しとすること多ければ難きこと多し」
→ 約束を軽くする者は信頼を失い、安易な姿勢は困難を呼び込む。
パーマリンク(英語スラッグ)案
- pause-before-promise(約束する前に立ち止まれ)
- emotion-clouds-judgment(感情は判断を曇らせる)
- finish-with-care(終わりこそ丁寧に)
この心得は、ビジネス、家庭、日常のすべての局面で活かせる実践的な教訓です。喜怒哀楽のただ中にいるときこそ、いったん立ち止まり、自分を律する静けさを持つことが、信頼を積み重ねる第一歩です。
1. 原文
不可乘喜而輕諾。不可因醉而生嗔。
不可乘快而多事。不可因倦而鮮終。
2. 書き下し文
喜びに乗じて、諾(だく)を軽々しくすべからず。酔いに因りて、嗔(いか)りを生ずべからず。
快に乗じて、事を多くすべからず。倦(う)みに因りて、終(おわり)を鮮(すくな)くすべからず。
3. 現代語訳(逐語・一文ずつ訳)
一文目:
不可乘喜而輕諾
→ 喜びの勢いに乗じて、軽々しく約束してはならない。
不可因醉而生嗔
→ 酔った勢いで怒りの感情をあらわにしてはならない。
二文目:
不可乘快而多事
→ 気分がよいからといって、次々に新しいことを始めてはいけない。
不可因倦而鮮終
→ 疲れたからといって、物事の締めくくりをおろそかにしてはいけない。
4. 用語解説
- 乘喜(じょうき):喜びの感情に乗ずること。浮かれている状態。
- 輕諾(けいだく):軽率な約束や同意。勢い任せの承諾。
- 因醉(いんすい):酒に酔った状態に因ること。感情の制御が効かない状態。
- 嗔(しん):怒り。腹立ち。
- 乘快(じょうかい):快調・快適な状態に乗じること。
- 多事(たじ):過剰な行動や活動。余計なことをする。
- 因倦(いんけん):疲れに因ること。
- 鮮終(せんしゅう):終わり方が雑になること、締めくくりが不十分なこと。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
嬉しさに任せて軽々しく約束してはいけない。酔った勢いで怒りを爆発させてもいけない。
調子が良いからといって次々と余計なことに手を出してはならないし、疲れたからといって物事の最後をおろそかにしてはいけない。
6. 解釈と現代的意義
この章句は、**「感情や状態に流されず、一貫した節度と判断を保て」**という自己制御の教えです。
人は感情や身体の状態に大きく影響され、軽はずみな判断をしがちです。
しかし、約束、怒り、行動量、完了の質といったものは、どれも「信頼」「成果」「人間性」に直結します。
だからこそ、喜・怒・快・倦といった一時の状態に流されず、一貫性と節度を保つ心の修養が重要であると、この章句は教えています。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
●「調子が良いときこそ“慎重に約束”せよ」
会議や商談が順調に進んでいるときほど、軽々しく契約や口約束をしがち。後に状況が変わっても、約束は残る。“その場の勢い”に流されない冷静さが大切。
●「酔席での“怒りの一言”が信頼を壊す」
飲み会や社交の場で感情を爆発させれば、その印象は長く残る。酔っているときこそ、発言には慎重さを。
●「好調時ほど“新しいこと”を増やすな」
余裕があるときに新規事業や業務拡大を進めがちだが、力を分散すれば中途半端になる。“一点集中”と見極めが必要。
●「疲れているときこそ“最後まで丁寧に”」
プレゼンやプロジェクトのラスト、疲れから手を抜けば、すべての印象が損なわれる。終わりが丁寧な人は、信頼される。
8. ビジネス用の心得タイトル
「喜びにも怒りにも乗るな──“節度ある心”が信頼を築く」
この章句は、まさに現代の感情マネジメント・セルフコントロールの要諦です。
ビジネス・人間関係・リーダーシップの場において、**「一貫性」や「判断の冷静さ」**を求めるすべての人に役立つ指針です。
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