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急がず、待てば自ずと道はひらける ― 焦りは害、寛容は力

物事は、急いだからといってすぐに答えが出るとは限らない。
むしろ、時間を置いてゆっくり構えることで、自然に明らかになることもある。
また、人を動かそうとしても、強引にすればかえって反発を生む。放っておけば、やがて自ら動くこともあるのだ。

怒りや焦りにまかせて急ぎすぎると、状況はこじれ、相手の心をさらに頑なにしてしまう。
だからこそ、思い通りにいかないときほど、無理に押し通すのではなく、しばし手放し、流れに任せることが大切である。
寛容さと待つ力こそが、自然な変化と和らぎを生み出す。


原文(ふりがな付き)

「事(こと)は之(これ)を急(きゅう)にして白(はく)らかならざるもの有(あ)り。
之(これ)を寛(かん)にせば或(ある)いは自(おの)ずから明(あき)らかならん。
躁急(そうきゅう)にして以(もっ)て其(そ)の忿(いか)りを速(まね)くこと毋(な)かれ。
人(ひと)は之(これ)を操(あやつ)りて従(したが)わざる者(もの)有(あ)り。
之(これ)を縦(ほう)てば或(ある)いは自(おの)ずから化(か)せん。
操(あやつ)ること切(せつ)にして以(もっ)て其(そ)の頑(かたくな)を益(ま)すこと毋(な)かれ。」


注釈

  • 白らか(はくらか):明らかになること。理解できること。
  • 寛にする(かんにする):ゆるやかに、時間をかけて対応すること。
  • 躁急(そうきゅう):気持ちが焦って慌ただしいさま。
  • 忿(いかり):怒りの感情。焦りからくる苛立ち。
  • 縦にする(ほうておく):放任する、束縛せずに見守ること。
  • 頑(かたくな):かたくなな態度、反発心。
  • 化す(かす):自ら心変わりして従うようになること。

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  • patience-reveals-truth(待つことで真実が明らかになる)
  • don’t-force-change(無理に変えようとしない)
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1. 原文

事有之不白者、寬之或自明。毋躁以其忿。人有操之不從者、縱之或自化。毋操切以益其頑。


2. 書き下し文

事(こと)は之(これ)を急にして白(あきら)かならざるもの有り。之を寛(ゆる)やかにすれば、或いは自(おの)ずから明らかならん。躁(そう)にして以て其の忿(いか)りを速(いた)すこと毋(な)かれ。
人は之を操(と)りて従わざる者有り。之を縦(ほし)いままにすれば、或いは自ら化(か)せん。操ること切(せつ)にして、以て其の頑(がん)を益すこと毋かれ。


3. 現代語訳(逐語訳/一文ずつ訳)

  • 「事は之を急にして白らかならざるもの有り」
     → 急いで解決しようとしても、かえって真相が明らかにならないことがある。
  • 「之を寛にせば或いは自ずから明らかならん」
     → ゆとりを持って対応すれば、自然と解決に向かうこともある。
  • 「躁急にして以て其の忿りを速くすること毋かれ」
     → 焦って苛立ちを募らせるような対応はしてはならない。
  • 「人は之を操りて従わざる者有り」
     → 他人を厳しく律しても、従わない人もいる。
  • 「之を縦てば或いは自ずから化せん」
     → 放任しておけば、自然と改まることもある。
  • 「操ること切にして以て其の頑を益すこと毋かれ」
     → 厳しく叱責しすぎると、かえってその人の頑固さを増してしまうから、それは避けなければならない。

4. 用語解説

  • 白らか(あきらか):物事の真相や本質が明らかになること。
  • 寛(かん):寛容、ゆとりをもった姿勢。焦らず構えること。
  • 躁(そう):せかせかと落ち着かない様子。焦りや怒りに任せた態度。
  • 忿(いか)り:怒り、憤り。
  • 操(と)る:ここでは「指導する」「律する」「教え導く」意。
  • 縱(ほしいまま)にする:自由にさせる。放任する。
  • 化(か)す/化す:改心する、よい方向へ変わること。
  • 切(せつ)に:過度に、強く、厳しく。
  • 頑(がん):頑固さ、反抗心、柔軟性のなさ。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

急いで白黒つけようとしても、かえって真実が見えなくなることがある。少し時間を置いて穏やかに対応すれば、自然と真相が明らかになることもある。焦って怒りをあらわにしてはいけない。

人を厳しく律しても、言うことを聞かない者もいる。だが放任しておけば、自然と改心することもある。あまりに厳しくしすぎると、相手の頑固さを増長させるばかりなので、それは避けるべきだ。


6. 解釈と現代的意義

この章句は、「焦らず寛容に接することの大切さ」と「過干渉・過指導の危険性」を同時に教えています。人間関係や物事の解決において、**“急がば回れ”**の知恵がいかに有効かを説いたものです。

問題の本質は、時間をかけなければ見えないことがある。人の成長もまた、外からの押しつけでなく、内側からの気づきによって起こる──それが『菜根譚』らしい深い洞察です。


7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)

●「トラブル対応は“拙速”より“熟慮”」

  • 顧客クレームや社内問題を、急いで片づけようとすると、誤解や再炎上を招く。
  • 一呼吸おいて事実を整理することで、自然に解決への糸口が見えることも。

●「部下の成長は“詰める”より“見守る”」

  • 成果が出ない部下に対し、細かく指導しすぎると、かえって反発を生む。
  • 一定の自由と裁量を与えれば、自ら考えて行動するようになり、真の成長が促される。

●「“怒りの指導”は逆効果」

  • 感情に任せて注意・叱責すると、部下の防御心・頑固さを引き出すだけ。
  • 指導の本質は、相手の自発的な変化を引き出す環境づくりにある。

8. ビジネス用の心得タイトル

「急くより待て、詰めるより信じよ──寛容が人と事を動かす」


この句は、リーダーや管理職にとっての「対応力の成熟度」を問うものでもあります。
本当に力のある人は、あえて時間をかけてでも人を見守り、事を明らかにする──その胆力と信念を持っているのです。


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