子夏は、仁の道を志す者に必要な姿勢を、四つの要素で示した。
すなわち、「博学」=広く学ぶこと、「篤志」=深く志すこと、「切問」=熱心に問い尋ねること、「近思」=身近な事柄に即して深く考えることである。
これらは単なる知識や知的好奇心の追求ではなく、日々の実践に根ざした思索と行動であり、
それこそが人としての理想「仁」への道をかたちづくっていく。
仁とは遠くにある理想ではなく、これらの積み重ねの中にこそ見いだされるものなのだ。
原文と読み下し
子夏曰(い)わく、博(ひろ)く学(まな)びて篤(あつ)く志(こころざ)し、切(せつ)に問(と)うて近(ちか)く思(おも)う。仁(じん)、其(そ)の中(なか)に在(あ)り。
意味と注釈
- 博く学びて:
偏りなく、幅広く多くのことを学ぶ姿勢。単なる情報ではなく、視野を広げることを意味する。 - 篤く志す:
軽い関心ではなく、深く真剣な意志をもって取り組むこと。持続力と誠実さの表れ。 - 切に問うて:
わからないことをそのままにせず、師や仲間に熱心に質問し、学びを深める行動。 - 近く思う:
抽象的・理想的な話に終始せず、目の前の現実や具体的な問題に即して考える姿勢。 - 仁、其の中に在り:
この四つの姿勢を日常において実践する中に、仁の心が育まれるという孔子の教え。
1. 原文
子夏曰、博學而篤志、切問而近思、仁在其中矣。
2. 書き下し文
子夏(しか)曰(いわ)く、博(ひろ)く学(まな)びて、志(こころざし)を篤(あつ)くし、切(せつ)に問(と)うて、近(ちか)く思(おも)う。仁(じん)、其(そ)の中(ちゅう)に在(あ)り。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳)
- 子夏曰く、博く学びて、篤く志し…
→ 子夏は言った。「幅広く学び、深く志を持ち、」 - 切に問うて、近く思う。
→ 真剣に問いを発し、現実に即して考えることができれば、 - 仁、その中に在り。
→ そこにこそ“仁”が宿っているのだ。
4. 用語解説
- 子夏(しか):孔子の高弟。論理的・実践的な思想に長けた人物であり、教育者としても知られる。
- 博学(はくがく):広く知識を得ようとする姿勢。特定分野だけでなく、多角的な学び。
- 篤志(とくし):誠実で厚い志。信念や向上心に根差した真摯な姿勢。
- 切問(せつもん):熱心に、また具体的・実践的に問いを立てて学ぶこと。
- 近思(きんし):現実に即して思考すること。遠く抽象的に考えるのではなく、目の前の課題に応用しようとする態度。
- 仁(じん):人を思いやる徳。儒教における最高の徳目。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
子夏はこう言った:
「幅広く学び、誠実な志を持ち、真剣に質問し、現実に即して深く考える──そうした学びのプロセスの中に、すでに“仁”の精神は備わっているのだ。」
6. 解釈と現代的意義
この章句は、「仁(人間としての最高の徳)」を得るための具体的なプロセスを提示しています。
- 仁は、抽象的な理想ではなく、学びと実践の中に育まれる。
- 「学ぶ」ことは、手段ではなく人間性を育てる行為。
- 「志」や「問い」「思考」はすべて“行動としての徳”につながる。
つまり、「学びに真摯であれ、そうすれば自然と仁に至る」と子夏は語っているのです。
7. ビジネスにおける解釈と適用
✅「学びに真剣な人は、思いやりも深まる」
知識やスキルの取得にとどまらず、学びの姿勢自体が人間性を高め、結果的に組織への貢献や他者への配慮となって現れる。
✅「現実に活かす問いと思考が、“価値ある人材”を生む」
抽象的・理論的な知識より、現場に根差した“近思”が重要。実務とつながる思考こそがリーダーや実践者の徳性を養う。
✅「真摯に問い、現実に応える人が“徳を持ったリーダー”になる」
誠実な志、深い問い、そして現実を見つめる姿勢は、そのまま組織の信頼を得る“仁”の実践に通じる。
8. ビジネス用の心得タイトル
「学びの中に“徳”は宿る──志・問い・思考が信頼を築く」
– 広く学び、深く志し、真摯に問うて現実を考える──その積み重ねが、信頼される人格“仁”をつくる。
この章句は、「学びは自己修養そのものであり、実践が人間性を形成する」という孔門の教育思想の本質をよく表しています。
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