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民の心を知る者こそ、民の父母たる資格あり


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■引用原文(書き下し文付き)

原文:
詩云、楽只君子、民之父母。
民之所好好之、民之所悪悪之。此之謂民之父母。
詩云、節彼南山、維石巌巌、赫赫師尹、民具爾瞻。
有国者不可以不慎、辟則為天下僇。
詩云、殷之未喪師、克配上帝、儀監于殷、峻命不易。
道得衆則得国、失衆則失国。

書き下し文:
詩に曰く、「楽しき君子は、民の父母」と。
民の好むところを好み、民の悪むところを悪む。これを民の父母という。
詩に曰く、「節たる彼の南山、石巌巌たり。赫赫たる師尹、民具に爾を瞻(み)る」と。
国を有つ者は慎まざるべからず。僻(偏)ればすなわち天下の戮(はずかしめ)となる。
詩に曰く、「殷の未だ師(民衆)を喪わざるとき、上帝に克(よ)く配えり。
殷に監(かんが)みるに宜し、峻命(天命)は易からず」と。
道によりて衆(民)を得る者は国を得、衆を失う者は国を失う。

(『礼記』大学 第六章 第二節・『詩経』より)


■逐語訳(一文ずつ)

  1. 『詩経』には「楽しく徳を備えた君子は、民の父母である」とある。
  2. 民衆の好むものを好み、民衆の憎むものを憎むことが、民の父母たる者の姿だ。
  3. また『詩経』には、「そびえ立つ南山のように堂々たる師尹(高官)よ、民は皆あなたを見上げている」とある。
  4. 国を治める者は、極めて慎重でなければならない。
  5. 独断や偏りに走れば、天下の人々に恥をさらすこととなる。
  6. さらに『詩経』には、「殷王朝がまだ民心を失っていなかった時は、天命にかなっていた。
  7. 殷を反面教師としてかんがみるべきである。重き天命は易々と保てるものではない」とある。
  8. 民の支持を得れば国を得、失えば国を失うのだ。

■用語解説

  • 楽只君子(らくしのくんし):民を喜ばせる徳ある君主。「楽只」は助字で感嘆や賞賛を示す。
  • 民の父母:民衆を自らの子のように思い、寄り添う為政者の理想。
  • 節彼南山・赫赫師尹:南山のように険しく堂々たる尹氏(高官)を指す表現。人々の視線が集中している象徴。
  • 僻(へき):道を外れる、偏ること。「挈矩の道」に反する独断。
  • 僇(りく):辱め。民意を失った末の社会的死や破滅。
  • 克配上帝:上帝(天)にふさわしく応じる。天命を得た統治者であること。
  • 峻命不易(しゅんめいふえき):重い天命は変わりやすい=徳を失えば国家は崩れる。
  • 得衆・失衆:民意を得ること/失うこと。

■全体の現代語訳(まとめ)

真のリーダーは、民の「父母」のように、民意とともに歩む存在である。
人々の好むものを共に好み、憎むものには共に怒り、同じ感覚・視点で社会を見つめているからこそ、信頼される。

しかし、権力の座にある者には、多くの人がそのふるまいを見上げているという厳しさがある。
そこに油断や独断があれば、いずれ国の恥、組織の混乱を招く。

民意を得ることでこそ、国や組織は存続し、民意を失えば滅びに至る。
リーダーのすべての徳は、「民の心を推し量り、共感し、共に歩む」という一点に尽きる。


■解釈と現代的意義

この節は、リーダーと民衆(または部下・社員)の関係を根本から捉え直す警句集です。
特に重要なのは次の3点です:

  1. **「好悪一致」:**民が好むもの・嫌うものを共にすることで、共感と信頼を得る。
  2. **「慎独」:**民の視線に晒される自覚を持ち、勝手・独断を戒める。
  3. **「天命の喪失」:**かつての殷王朝のように、民意を失えば国家(組織)そのものが瓦解するという現実。

この節が伝えるメッセージは、現代のリーダーに対してもまったく色あせません。
「自分の正しさ」でなく、「民の正義」であることが、リーダーシップの核なのです。


■ビジネスにおける解釈と適用

観点適用例
組織リーダーの共感力社員が何に喜び、何に不満を抱いているのかを「共に感じる力」が、信頼とチームビルディングの鍵。
経営判断と価値観リーダーが勝手な思考や好みに流されれば、社員は冷めて離れていく。「民の父母たる視点」が必要。
評判管理(レピュテーション)権力をもつ者(CEO、管理職)は“見られている”ことを忘れてはならない。慎独の倫理がリスク管理に直結する。
組織の盛衰のメカニズム「人が集まれば事業が伸びる。人が離れれば崩れる」――まさに「得衆則得国、失衆則失国」。理念より人心が第一。

■心得まとめ(ビジネス指針)

「信頼なき権威は、恥辱と崩壊を招く」

共に喜び、共に怒る。その心をもって民を見つめよ。リーダーとは、民の父母たる存在である。
天命(社会的使命)を保つ鍵は、常に民意と歩むことにある。


この第二節により、「絜矩の道」の徳治的完成像が示されます。

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